第23話 フラワーキングダム

 第2階層に観光名所ができた。

 フラワーキングダム。

 各種花が植えてある。

 ダンジョンの中は季節がないから、一年中咲くようだ。

 それに魔力があると成長が早い。


「綺麗ね。プレオープンの招待状ありがとう」


 学校と仕事を終え、午後9時の藤沢ふじさわとの夜のデート。


「どう致しまして」


 チューリップ、向日葵、桜、それ以外にも色々と咲いている。

 これらを咲かせるのは大変だった。

 ダンジョンは温度差がない。

 無いのが逆に不味い。

 寒くなってから暖かくならないと咲かない品種もあるのだ。

 区画を区切って、その中の温度を変えるのは俺の役目。

 こまめに変える必要がないのが救いだ。


「お父さんが一度挨拶したいって」

「ちょっと待って交際するのは高校生になってからだろ」

「お父さんにそう言っておく」


「それにまだ交際すると決めたわけじゃない」

「えー、オッケーだと思ってたのに」

「そんなことを考える余裕がないんだ。もう忙しくて」

「それは分かる。キノコ長者だものね。人は何人ぐらい使っているの」

「分からないぐらい。管理は任せているから。書類読むだけでも大変なんだ」

「私を彼女にするとお得よ。そういう仕事の一部を手伝えるかも知れない」


 くっ、ちょっと良いかもと思ってしまった。

 いや俺達はまだ若い。

 重要書類を見られて破局すると、情報が洩れる危険性がある。

 さすがに香川かがわさんは許さないだろう。


「高校になってからだ」

「うん、私もレベルを上げときたいし」

「無理するなよ」

「顧問の先生がしっかりしているから、安全マージンは凄く取ってる」


「そうだろね」

「写真撮りましょ。キャットラビットの入れたいな」


 俺が手招きするとキャットラビットがやってきた。

 藤沢ふじさわがキャットラビットを抱き上げる。

 俺はスマホで撮影した。


「撮ったよ」

「次はツーショットね」


「あの、写真撮ってほしいんだけど」


 観光客に頼んだ。


「いいですよ。はい、チーズ」


 ツーショットも撮って藤沢ふじさわはご満悦だ。


「温泉入りたいな。二人で♡」

「なんてことを」

「顔真っ赤よ。水着だよ」

「水着かぁ」

「がっかりした?」

「いいや、健全なお付き合いをお願いします」

「付き合うって言った」


「ええとそれは。付き合うのはとにかく高校になってから」

「もう決まっているのに」


 スパの家族風呂を借りた。

 藤沢ふじさわの水着は学校指定の水着だった。

 まあ俺もだけど。

 俺も藤沢ふじさわもまだまだお子様だな。

 色気のある水着を着るのはまだ早い。


「とりゃ」


 藤沢ふじさわにお湯を掛けられた。


「やったな。お返しだ」


 お湯の掛け合いになって、いつの間にか俺は笑顔になっていた。

 笑ったのなんていつぶりだろう。

 両親が亡くなってから笑った記憶がない。

 こうやって両親の死を忘れていくんだな。

 ちょっと寂しくなった。

 でも両親なら、いつも笑顔よというはずだ。


「笑った。それにしても戸塚とつか君。鍛えているね。腹筋バキバキだぁ」

「まあそれなりにな」

「風呂の中で騒いで暑くなった。そろそろ上がろう」

「うん」


 湯上りにアイスを食べる。


「デートだね」


 藤沢ふじさわがにっこり笑った。


「まだ付き合ってない。でもデートだな」

「うん、幸せ」

「俺もだ。そろそろ行かないと。書類仕事が待ってる」


 楽しかったな。

 張り詰めた色々な物が緩んだ気がする。

 友達は必要だな。

 でも深入りは藤沢ふじさわを危険にさらす。

 いまの段階でも危ないぐらいだ。


 藤沢ふじさわに護衛をつけるか。

 いいや逆効果だ。

 俺の大事な人だと言わんばかりになる。


 そうだ。

 カモフラージュも必要だ。


「キノコ家庭菜園1000区画を俺に売ったと書類を作れ。そして戸塚とつかキノコ農園を立ち上げろ」


 香川かがわさんに命令した。


「なんのためです?」

「カモフラージュだよ。試飲会みたいな所に顔を出した時に社長の肩書が必要だ」

「妥当ですね」

戸塚とつかキノコ農園は別に儲からなくても良い」

「いえ、利益を上げるように優秀な人材を幹部にします」

「好きにしろ」


 後は香川かがわさんとの関係だな。

 社長で知り合い。

 悪くない線だけど、会社の規模が違い過ぎる。


「何か?」

香川かがわさんとのカモフラージュの関係を考えてた」

「親しそうに話すのには何か必要ですね。聞かれたら弟子という関係にしましょう」

「弟子なら、親しそうに話しても問題ないな。俺が大株主で雇い主だとは、ばれないだろう」


 弟子という関係は色々と都合がいいな。

 不合理な無理も色々と利く。


 あちゃ、藤沢ふじさわ香川かがわさんに憧れていたんだな。

 弟子だと話さないと後が怖い。

 俺はメールで香川かがわさんの弟子になったことを伝えた。

 何の?と返ってきたので、経営とかの弟子だと答えておいた。

 いいなぁ、私も弟子になりたいと返答が。

 高校に入ったら紹介してやるよと返した。

 色々な問題は先送りだ。

 時間が全て解決するような気がする。

 レベルが上がれば頭も良くなり、すっきりとした解決法が出るに違いない。


――――――――――――――――――――――――

名前:戸塚とつかつくる

レベル:79/65536

魔力:815/815

スキル:1/1

  リフォーム

――――――――――――――――――――――――


 今のステータスだ。

 オークファイターを何度も殺してリフォームした。

 でもそろそろ頭打ちだ。

 次の階層に行かないといけないようだ。

 探索でボス部屋の位置は分かっている。

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