第30話 基本中の基本

「保健室、行こうよ」


 いつもより朝早く学校に来てみると、女生徒が集団でわいわいやっている。

 どうやら保健室に行くらしい。

 何かあるのかな。

 デリケートな問題だったら、デリカシーのない奴だと言われそう。

 嫌われても良いけど、何かそれは違うと思う。


 藤沢ふじさわさんを廊下で見かけたので声を掛ける。


「ねぇ、保健室に何かあるの?」

「あれね。ニキビ治療のクリームと化粧水よ」


 そうだ。

 学校に配布するように言ったんだった。

 忘れてはいないけど、あんなに大人気だとは思わなかった。


「人気なんだね」

「朝はもう取り合いよ。この為に早起きするのがつらくって」

「試供品が箱であるから、今度持って来るよ」

「ええ、悪いわ」

「使わないから」

「そう、じゃあ遠慮なく。やったこれで少し寝てられる」


 学校への配布の量が足りてないようだ。

 香川かがわさんに言って増やしてもらおう。


「そんなに良かった」

「ええ、お肌ツルツルのモチモチよ。化粧しなくてもいいくらい。学校に化粧はしてこないけど。エリクサー化粧品は神。さすが香川かがわ様の企業ね」


 気恥ずかしくなった。


「神は言い過ぎだと思う」


 突然、藤沢ふじさわが俺の前髪を払った。


「ごめん」


 藤沢ふじさわが真っ赤になる。


「ええとどういうこと? 今の行為に何の意味が」

戸塚とつか君の肌を確かめたかったの。化粧品は男が使っても良いのよって言いたかった。あんな美少年だなんて。意外過ぎ。突然で、もう、もう、もう、もう、もう」


 藤沢ふじさわが牛になった。


「どうどうどう」

「なんで前髪で隠しているの。トラウマでも」

「幼馴染には振られたかな」

「あなたを振るなんてどうかしてる。顔だけでもご飯が食べられるわ」

「レベルが上がったせいだよ。前はぽっちゃりだったし」

「いくつなの」

「105ぐらいかな」

「魔力1000オーバーなのね。道理で美少年なはずよ。芸能人になってもおかしくないぐらい。わたし、釣り合うか不安になってきちゃった、どうしよう」

「レベルなんて飾りみたいなものだよ。絶対無理するなよ。死にトラウマがあるんだ。藤沢ふじさわが死んだら、俺は壊れてしまうかも知れない」

戸塚とつか君にも弱点があるのね。わかった無理しない。でもお願いが」

「何っ?」

「前髪を上げた状態の写真を撮らせて。待ち受けと、パソコンの背景にする」

「それぐらいなら」


 写真を撮られた。

 藤沢ふじさわは、くふふって笑っていて、ナイス私、こんなに見る目があるなんてと自画自賛してる。


「いい、前髪は死守よ。誰にも素顔は見せないで」

「うん、面倒なことになりそうだからね」


 学校が終わり、セーフゾーンの拡張も終わった。

 さあ探索の時間だ。

 今日は大船おおぶねさんが、ミスリルゴーレムをやる。


 ミスリルゴーレムと対峙した大船おおぶねさんは深呼吸した。


「【鉄皮】【乱舞】うらうらうらぁぁぁぁぁ」


 突撃。

 ミスリルゴーレムと打ち合いになった。

 大船おおぶねさんは負けてない。

 ただこのままだとジリ貧だ。

 どうするつもりかな。


「ぶらばっ」


 大船おおぶねさんがミスリルゴーレムのパンチを食らって吹っ飛んだ。

 そして立ち上がり、口から垂れてきた血を拭った。


「くそっ、いまのままじゃ駄目か。【ステータス】。スキルも生えてないな」

「助けが要りますか」

「おう、大船おおぶねのおっさん。仲間を頼っても良いんだぜ」

「そうだよ、床ツルツルぐらいの援助は必要だよ」


「頼む。援護してくれ。じゃあ2回戦と行くか」


 そう言うと大船おおぶねはポーションを呷って、から突撃した。


「【リフォーム】ツルツル」

「【バレット】【バレット】【バレット】」

「【パリィ】」

「【乱舞】うぉぉぉぉ」


 問題は大船おおぶねさんのスキルが途切れた時だ。

 その前にミスリルゴーレムに隙を作らないと。

 ミスリルゴーレムはいま滑らないように踏ん張っている。

 ここで片足が沈んだらどうだ。

 バランス崩すよな。


「【リフォーム】穴」


 ミスリルゴーレムが転がった。


「坊主、ありがとよ。【乱舞】そりゃそりゃ」


 スキルを繋げられたが、大船おおぶねさん攻撃はダメージになってない。

 大船おおぶねさんの攻撃が一点に集中し始めた。

 一点突破するつもりだな。

 通るか。


 大船おおぶねさんの動きが止まった。

 スキルの時間が過ぎたらしい。


「駄目か。俺には無理なのか。だが叩くしかない。難しいことなんざ分からない。【乱舞】とりゃとりゃ、壊れろ」


 悲しいが無理なのか。


「【マジックビジョン】。大船おおぶねさんの魔力が一点に集中してます」


 香川かがわさんが魔眼で見てそう言った。

 ミスリルゴーレムにひびが入った。

 そして砕けた。


「やったぜ。【ステータス】。スキルは生えてないか。だがコツを掴んだぜ」

「魔力を一点に集中するのは基本中の基本です」


 この技術は俺にもできそう。

 漏れる魔力を制御してるから、あれの応用だ。

 知る人ぞ知る基本技か。

 でも良いことを教わった。

 リフォームスキルにも応用が利きそうだ。

 ドリル槍がもっと強くなる。


「いや、簡単にはできないぜ。攻撃しながらだぜ。今なら俺にも出来るかも知れないけどよ」


 番田ばんださんはできなかったらしい。

 そういえば俺も漏れる魔力を制御するのは大変だ。

 何か他の動作をしているとおろそかになる。

 確かに攻撃しながらは難しいかも。


 でも基本ならマスターしないと。

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