第31話 魔力充填スタンド

 授業を終えて家に帰ると、宅配ボックスに青汁『グリーンエリクサー』の試作品が入っている。

 今回はどうかな。

 激マズは勘弁して欲しい。


 水に溶かすと色は今まで通り緑色だ。

 少しどろっとしている所も同じだ。

 一口含む。

 前回の激マズより改善はされているが、まだまだだな。


 いっそのこと薬草は諦めたら。

 抽出スキルで作った試作品もある。

 こちらはうっすらとした緑色で、どろっとしてない。

 一口含む。

 美味しい。

 味がなかったので、りんごの果汁で味を付けたんだな。

 まんま、りんごジュースだ。


 これなら、既存の青汁は駆逐できる。

 でも高級品だ。

 金額を安く抑えるのが問題だな。


 ええと、高くなる原因は、魔力のせいだ。

 魔力が無尽蔵に使える人はいない。


 ええと押して駄目なら引いてみる。

 魔力の貸し借りはできない。

 というのが常識だ。


 これは魔力の波長が人それぞれ違うからだ。

 魔力を一点集中するのが基本だと香川かがわさんは言っていた。

 応用として波長を変える技術とかないのか。

 ありそうなんだが。


「ありますよ」


 呼び出した香川かがわさんは事も無げに言った。


「あるんだ」

「高等技術になります。かなり難しいですよ」

「それを使えば魔力の貸し借りができるんじゃないの?」

「できますけど。そのような技が使えるハンターは数えるほどです」

香川かがわさんは?」

「私はマジックビジョンがあったので簡単に会得出来ました」

「やってみて」

「はい」


 手を握られそこから魔力が流れ込んできた。

 出来ないけど、何となく魔力の波長を変えるって意味が分かった気がする。

 だからって、どうということはない。

 ないんだけど、何かできる気が。


 ああ、集中したいけど、BGMに掛けている音楽が耳から入ってきて思考をかき乱す。

 この音楽はだめだ。

 別の曲に変えよう。

 パソコンを操作して曲を変える。


 えっ、ええと。

 落ち着いた曲に変わって思考が集中する。

 これって魔力の波長が変わったのと似ている。

 機械なら簡単に変えれるのに。

 機械ならね。


「ダンジョンなら作れるかも」

「何がです?」

「魔力の波長を変える機械みたいな奴」

「魔力充填スタンドが作れるわけですね」

「うん」

「ダンジョンを道と同化してますよね。そこらかしこにこれが作れるのなら、空気を売るようなものですね」

「材料費ただだものね」


「今日のセーフゾーンの拡張の時間はこれの開発に充てましょう」

「そうだね。駄目かも知れないけどやってみたい」


 場所を家からダンジョンに移した。


「【リフォーム】」


 第2階層の地面から岩が出てきた。

 この岩の中にはもちろんダンジョンの魔力が通っている。

 そして波長を変える機能を付けた。

 香川かがわさんが岩に手を置く。


「【ステータス】。魔力が回復してます。素晴らしいですね。これは大儲けの予感です。一回1000円ぐらいは取れるでしょうか」

「マナポーションとの兼ね合いがあるね」

「でしたら、作っている会社を買収して、魔力充填スタンドの管理に当たらせましょう」

「魔力充填スタンドの作成が俺の仕事に加わるのかな。また綱引きが激しくなりそうだ」

「それは仕方ありません。魔力充填スタンドの運営は、ポータルステーションにやらせるとしましょう。ポータルがある建物の一部に設置しますね」

「好きなようにして。俺は仕事のスケジュール表をみて仕事をこなすだけだから」


 時間が余ったので、魔力についての本を読む。

 魔力は体内で生成される。

 えっと自然界の魔力を摂り込むんじゃないのか。


 ダンジョンの魔力はダンジョンコアが作っていると書いてあった。

 じゃあ有限なのか。

 魔力充填スタンドを作り過ぎたらダンジョンが過労死しないかな。


 ダンジョンの魔力を増やすのはゴミを吸収させれば良いらしい。

 ただ、これをやると、スタンピードゲートができてモンスターが頻繁に排出される。

 うちのダンジョンはどうなのか。


 魔力が枯渇しそうなら、ゴミを与えるのも手だね。


「魔力についての本ですか? 勉強することは良いことです。知識は力です」

「ダンジョンの魔力を使うから、ゴミという餌を与えても良いかなと」

「ゴミ事業ですか。これも美味しいですね。素晴らしいことです」


「ダンジョンの魔力濃度って測れる?」

「ええ、キルポイントを計る機械がありますよね。あれの原理の応用で測れます。もっとも私はマジックビジョンで分かりますが」

「うちのダンジョンの魔力濃度を測って、減っていくようだったらゴミを与えよう」

「ええ、観測ポイントを幾つか作りましょう」


 あれっ、温泉で魔力が回復するよな。

 あれはどういう原理なんだろう。

 魔力波長を変えているわけではなさそうだし。


 本のそれが書いてありそうな箇所を読む。

 なるなる。

 リラックスすると魔力の回復は早い。

 寝ている時間以外はほとんど回復しない。

 温泉は別物らしい。

 さすが温泉。


 じゃあ、温泉を飲んでも魔力は回復しないんだな。

 マナポーションの魔力回復原理は、どうなのかな。


 ええと、無理やり薬で、リラックスした状態を作るらしい。

 ただ、精神作用を起こすのに魔力が使われている。

 化学薬品ではないようだ。

 だから副作用はないと書かれている。


 ふんふん、睡眠時間も10分も取れば全回復するみたいだな。

 魔力回復ポッドという製品もある。

 まあ原理は寝ているのと変わりないけど。


「そろそろ、探索の時間です」

「そんな時間か。時間が過ぎるのが早いね」


 ミスリルゴーレムを10体ぐらい狩りたいな。

 レベルを160ぐらいまで上げたらボス戦だ。

 あと2週間は掛かるかな。

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