第17話 グリーンエリクサー

 数日経って、青汁の試飲会になった。

 『グリーンエリクサー』という名前。

 エリクサーは大袈裟だが、大袈裟ぐらいのインパクトが良いらしい。


 俺も飲んでみた。

 まだまだ改良の余地があるな。

 製品開発は大変だ。

 数日で試飲会まで持ってきたのが凄い。


 野菜の品種改良は進んでない。

 だよね、そんなに簡単にはいかない。


 試飲会にどよめきが走った。

 どうしたんだ。


 『アースエリクサー』発売予定と大型モニターに映し出された。

 貰ってみるとこっちは黄土色の粉末だ。

 お湯を注ぐらしい。

 飲んでみた。

 美味い。

 出汁が利いている。

 ええと昆布の粉末とあとは何だ。

 体がポカポカと温まった。


 これは売れるな。


香川かがわさん、これ何が入っているの?」

「ダンジョンキノコの粉末と昆布出汁、鰹出汁、塩が主成分で後は化学調味料などです」

「ダンジョンキノコのスープみたいなものかな。キノコは確かに臭みとかえぐみとか少ないけど」

「青汁の反応はいまいちでしたので、こちらも開発してみました」


「2階層の雑草から魔力成分を抽出できればいいのに」

「できるんじゃないですか。あなた様のスキルで」


 ああ。

 なるなる。


「材料を別室に用意して」

「かしこまりました」


 さて出来るかな。

 材料が運び込まれた。


「【リフォーム】。うん乾燥された雑草だと抽出できるね。これを大規模にやるには魔力がというわけで。結局レベル上げに行きつくのか」


 抽出された魔力物質を舐めてみる。

 味がしないね。

 好都合だ。


 やはり尻手しって健康食品を廃業に追い込むには時間が必要だ。

 キノコチップスならライバル商品はすぐに作れるけど、これは作る必要がない。

 1年後にダンジョンキノコの供給を止めるからだ。


 焦る必要はない。

 でも一矢報いたい。

 香川かがわさんに相談してみた。


「ええと騙し取られたなら、告訴ですね。刑事と民事で」

「証拠とか大丈夫?」

「ええ、保険金のお金は振り込んだのですよね。銀行に記録があります。預金は下ろした姿がATMの防犯カメラに映っているはずです」

「じゃあ、やろうか」

「少し時間は掛りますけどね」

「忍耐力のない幼児じゃないから、3年ぐらいは待てる」

「そんなにはお待たせしないと思いますよ」


 試飲会の会場に戻ると『アースエリクサー』のブースに人が集まっていた。

 発売される前から、もう商談か。

 せっかちだな。


「君は誰のお子さんかな?」


 男に話し掛けられた。

 なんて言おう。


「知り合いから、招待状もらって。健康食品、好きだから。特にダンジョン素材を使ったのは好きだ」

「へぇ」


 男の興味は薄れたようだ。

 この男怪しいな。

 でも現段階で犯罪は犯してない。

 尾行してもすぐに気づかれるだろう。


 それに敵だと決まったわけじゃない。

 怪しいというだけだ。

 カマを掛けるかな。


「そこでお姉さんが話しているのを聞いたんだ。あの芸能人みたいな人」


 俺が指差したのは香川かがわさんだ。


「どんな? 話によってはお小遣い上げるよ」


 ビンゴだな。

 十中八九、産業スパイだ。


「ええと、ダンジョンの雑草から魔力物質を抽出するんだって」

「どうやって」

「スキルらしいよ。どんなスキルかは聞いてないけど」

「確かに抽出スキルならできる。だが大規模にやるにはスキルを持っている人物のレベルが相当高くないと。上位ハンターで抽出スキルを持った奴がいたかな。そこは人海戦術っていう手もある。温泉を使えば。ありがとう、これはお礼さ」


 1000円貰った。

 しかし、いいこと聞いた。

 1000円よりよっぽど価値がある。


 俺がリフォームスキルでできるようになる前に抽出スキル持ちを大量に雇おう。

 香川かがわさんは商談中だったのでメールを送った。

 しばらくして返事があった。

 それですと高級品になりますが、その方向性もありですねと書かれている。

 人海戦術は金が掛かるのだな。

 だよね。

 他所がやってないということは、そういうことだ。

 ただしうちは温泉がある。

 魔力回復に費用が掛からない。


 怪しい男の防犯カメラの映像は香川かがわさんに言って保存してもらった。

 香川かがわさんは社員にこの男は産業スパイの可能性ありと通達したようだ。


 家にいるとインターホンが鳴ったので出てみると、本郷ほんごうだった。


「何?」

「今日のプリントとノート。休んでたから。この家、ポータルに近いだろ。ついでだよ」


 試飲会で学校を休んでた。

 学校の成績は徐々に上がり始めている。

 レベルアップのおかげかな。

 だから休んでも問題ない。


「ありがと。もらった試供品があるんだ飲んでみる?」

「おう、せっかくだから」


 本郷ほんごうに『アースエリクサー』を淹れてやる。


「昆布茶か。俺、好きなんだよ」

「中年の好みだな」

「うちの家族はこういのが好きだ」

「じゃあひと箱持って行け」

「サンキュウ、あとでキノコ持って来るから」

「それ嫌がらせだろ。大船おおぶね農園で俺がアルバイトしてるのを知ってるくせに」

「俺はダンジョンキノコならいくらでも食える」


「お前のお父さんは何の仕事だ?」

「車の営業だよ」

「ノルマきつそうだな」

「月末は少しピリピリする」


 俺はまだ車を運転できない。

 大船おおぶねさんに一台プレゼントしようか、大船おおぶねさんが買ったということにして。


大船おおぶねさんをお父さんに客として紹介してみろよ。大船おおぶねさん良い人だから買ってくれるさ」

「悪いような」

「悪くないよ」

「お前がなんでそう言うの」

「付き合い長いからさ。大船おおぶねさんなら悪くないって言うさ。それどころか農園で働いている人を客として紹介してくれるかもな」

「そうかな」


 こいつは契約魔法を掛けて、もう虐めはしないと誓ったから、そのご褒美として、ちょっとした助け舟だ。

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