第16話 化粧品

 今日と明日は土日で休みだ。

 だけど俺のダンジョンの仕事には休みはない。

 でも充実はしてる。

 色々な仕事をしていると、両親のことを思い出さない。

 こうやって段々と亡くなった人のことを忘れるのかな。

 悲しいことだと思う。

 でも両親の夢はよく見る。

 夢での両親は何も喋らない。

 心が亡くなったと認識しているからだろうか。

 死人は喋らない。

 夢で良いから声を聞きたいのにな。


「これが売り出す予定の化粧品になります」


 香川かがわさんに出されたのは、化粧水とクリーム。

 魔力で治癒効果がある。

 肌荒れニキビなんでもござれだ。


「化粧品は分からない。使ったことがないから」

「私も最近使ったことはありません。魔力が高いですから肌荒れとは無縁です。顔の造形も魔力で変わってますから、化粧しなくても平気です」

「一般の女の人を敵に回す発言だね」

「他の人には言ったりしませんから。苦労してこの顔を維持してますと言ってますよ。レベルを今の数字に上げるのは苦労しました。それはもう」

「化粧品だけどうちの学校に常備しよう。ニキビで悩んでる奴は多いから。モニターとして意見をくれと言ったらレポートを上げてくれるさ。真面目な奴は真面目だから」

「ただみたいな原材料ですから、学校一つ分の供給はさほど痛くはありません。将来的にうちの顧客になってくれることを考えたら、ありですね」

「俺の名前は出すなよ」

「そうですね。大株主が学校の卒業生ということにしておきましょうか」

「卒業してないけど」

「未来的には卒業します。些細なことですよ。いま化粧品の主成分は2階層の湧き水です。できればスライムの体液を使いたいのですが」

「あれはリフォームしないとスライムから採れないからね。俺が大規模にリフォームできるようになったら良いんだけど。魔力が足りない」

「焦りは禁物です。焦ったハンターが死んでいくのを私は何度も目にしてます」

「焦らないよ。健康食品はどうなっているの」

「キノコチップスの開発は最後でしたね。青汁は簡単なのでもう試作品は出来上がってます。お飲みになりますか」


 香川かがわさんが、粉末状の青汁をコップに入れる。

 水を注いでよくかき混ぜたら出来上がりだ。


 うん緑色。

 一気に飲む。


「ぐぇ、不味い」

「第2階層の雑草を使ったのですが、このような味になってしまって」

尻手しっての製品はどうなんだ?」

「試作品とさほど変わりがありません」


 うーん、あれっ。

 第2階層では畑が作れるよな。

 これはうちだけの強みだ。

 味の良い雑草を探して、それを栽培すれば。


「いや、普通の野菜とか果樹とかどうだろう。2階層で育てれば、魔力を含むんじゃあないかな」

「それは良い考えですね」

「ダンジョンの植物と野菜の掛け合わせとかも行けそうです。他のダンジョンの植物の採取依頼を出しましょう」


「品種改良には時間が掛かるんじゃ」

「そこは緑魔法の出番です」

「魔法で急速に育てるんだね。金さえあればというわけだ」

「幸い、温泉に10分ぐらい浸かれば魔力は全回復します」

「知ってる。俺もそれやっているから。ふやけそうになるけど、便利だよ」


「青汁の開発はその方向で。他の食品も、そういう方向で進ませます」

「うん、頼んだ」


 さあ、セーフゾーンの拡大だ。

 第一階層のリフォームした所まで金網のフェンスを広げる。

 資材をクマ耳スライムが運んでくれるから楽だ。

 おや、宝箱だ。

 宝箱はたまに遭遇する。


 宝箱にはトラップがつきものだ。

 でもね。


「【リフォーム】」


 変形させてしまえばトラップ関係ない。

 低級ポーションだな。

 第1階層の宝物なんてそんなものだ。

 低級ポーションは1000円ぐらい。

 俺の今の稼ぎで考えたら、雀の涙だ。


 リフォームしてない敵スライムがやってくる。

 クマ耳スライムが激突して、双方体液を飛び散らせた。

 クマ耳スライムの数は多い。

 敵スライムは死んだ。


「ご苦労様」

「きゅい」


 かなり進んだぞ。

 休みだと集中力が違う。


――――――――――――――――――――――――

名前:戸塚とつかつくる

レベル:31/65536

魔力:41/328

スキル:1/1

  リフォーム

――――――――――――――――――――――――


 そろそろ魔力が切れるから、温泉に入りに行こう。


「ふぃー」


 俺は温泉の中でくつろいだ。


「お父さん肌が痒くないよ」


 そう言って子供が父親の所に行く。

 皮膚の病気なのかな。

 スパの利用料金は3000円だ。

 香川かがわさんは格安だと言うが、高いよね。

 病気の子供は無料に出来ないかな。


 今度提案してみよう。


「くっ、寄るんじゃねぇ。移るだろ」


 客の一人がさっきの子供を蹴ろうとしてる。


「キャットラビット、頼む」

「きゅー」


 キャットラビットが横暴な客に体当たりした。


「このモンスターが」


 客は怒り始めた。


「遊んでるだけじゃないの」

「そうだ」

「そうだ」

「じゃれついただけだ」


「くっ、こんな所二度と来るかよ」


 客が出て行った。

 病人用と分けることも考えたが、それは差別だ。

 希望する客には家族風呂とか用意すべきだな。

 さっきの無料の話を絡めて追加料金を無しにすれば良い。


 いろいろと改善が必要だ。

 俺はまだほとんど子供だから、たぶんこういう計画にも粗が多いんだろうな。

 でも香川かがわさんなら、いい宣伝です、バンバンやりましょうぐらい言いそうだ。

 病院と提携したりするぐらいはやるんだろうな。

 俺はまだそういうことはできない。


 でもアイデアを出して、良くしていくぐらいはしたい。

 尻手しって叔父さんには騙されたが、他の大人の人には親切にしてもらった。

 葬儀屋さんに始まって、橋本はしもとさん、大船おおぶねさん、香川かがわさん。

 そういう人に直接お返しはできないというか、たぶん受け取らないだろう。

 世間の人に親切を返して、間接的に返していくんだ。

 そうだよね、父さん、母さん。

 間違ってないよね。

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