第15話 上手く回り始める

「おはよう」


 そう言って教室に入る。

 挨拶を返してくれた人の中に不良の本郷ほんごうもいた。

 どういう風の吹き回しだ。

 変な物でも食ったか。

 本郷ほんごうが俺の席にきた。


「いろいろと悪かった」

「どうした。らしくないぞ」

「キノコ採りのバイトを始めたら、何もかもが上手くいったんだよ」

「へぇ」

「一日1万円稼ぐだろ、住宅ローンのプレッシャーがなくなったんだ。それで両親の喧嘩がなくなった。でもたぶんそれだけじゃない。ダンジョンキノコを食うとイライラしないんだ」


 ああ、魔力が及ぼす効果だな。

 人間はだれだってストレスは嫌だ。

 魔力はそれも受け止めて癒す。


「良かったな」

「おう、魔法契約も昨日受けた」

「そうか」


 ダンジョンキノコが普及すると色々とプラスの面が出て来るな。

 区一つ分のキノコ栽培場の出荷量は全国規模だな。

 きっとスーパーで安く買えるようになるに違いない。

 ストレスを減らすなんて素敵なことだ。


「俺、キノコ農家になる。分譲区画をひとつ買った。将来的には100は買いたいな」

「頑張れ」


 お前を大船おおぶね農園の幹部にしてやろうかと言いそうになった。

 それをしたら俺の秘密がばれる前に、こいつが狙われるかもな。

 怪しい奴もうろうろしているみたいだし。

 実力行使までは及んでないが、ちょっと大船おおぶねさんが心配だ。


 俺のダンジョンは好物件らしい。

 第1階層でキノコみたいなのが採取できるダンジョンはない。

 第1階層が草原だと、関係者以外立ち入り禁止になるらしい。

 草原は薬草が採れるからだ。

 ちなみにうちのダンジョン。

 分譲してる区画は、キノコの育成を早めるようにリフォームしてある。

 と言っても大したことではない魔力の流れを少し変えただけだ。

 ダンジョンキノコに栄養は要らない。

 水分と魔力があればいい。


 魔力で人間の体が変わるように、ダンジョンの植物も魔力で育つスピードが変わる。

 魔力がたくさんあればキノコはあっという間に育つ。


 放課後、セーフゾーンを拡張したり、色々なリフォームをしてから、ダンジョンに繰り出す。


「ゴブリンはもう飽きたな」


 番田ばんださんがそう愚痴をこぼす。

 オークだがゴブリン100匹に対して1匹だ。

 猫顔オークは5体を超えたところで、赤いキャットラビットはお役御免になった。

 猫顔オークが5体もいると俺達の出番はほとんどない。

 オークの皮膚は頑丈でゴブリンの魔法を食らってもノーダメージだ。


 俺と大船おおぶねさんのレベルはガンガン上がった。

 

――――――――――――――――――――――――

名前:戸塚とつかつくる

レベル:31/65536

魔力:328/328

スキル:1/1

  リフォーム

――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――

名前:大船おおぶねいさむ

レベル:26/65536

魔力:236/236

スキル:4/8

  採取

  洗浄

  魔法静物

  鉄皮 レベル3/485

――――――――――――――――――――――――


 ステータスはこんな感じ。

 大船おおぶねさんのスキルが漢字表記なのは、本人がそう願っているからだ。

 でないと世界中の人は別言語を覚えないとステータスが見れないことになる。

 魔力が想いに応える一例だと思う。


 大船おおぶねさんにスキルが生えた。

 皮膚が頑丈になるらしい。

 かなり攻撃を食らってたから。

 怪我した時は俺がリフォームで治してた。


 そんなわけでこうなった。

 この階層は確かに退屈だ。

 岩石の洞窟は、はっきり言って殺風景だし、ゴブリンとオークは臭い。

 気が滅入る。


 猫顔オークを放ちこの階層のモンスターを全滅させようかとも考えたが、大量虐殺には俺の精神が持たない。

 想像してしまったら吐きまくることになる。

 だからそんな命令は出せない。


「俺と香川かがわは要らないかもな」

「私はトラップをサーチする必要があります」

「だいたい。猫顔オークが前衛として有能過ぎる」


 猫顔オークが悲しそうな顔をした。


「ごめん非難しているわけじゃない。猫顔オークには癒しキャラでいてほしい」

「楽を出来るなら良いじゃありませんか」


 うーん、そうかもね。


「ボス戦までは番田ばんださんには休んでもらうかな」

「何もしなくて給料をもらうのは気が引ける。キャットラビットの世話をしてやろう」


 別に世話する必要はないんだけど。

 キャットラビットは適当に草を食って生きている。

 ほとんど世話する必要はない。

 でも、いいか。


「うん、任せた」

「任された。猫にゃんに囲まれて温泉三昧だ」


 本音を隠さない人だな。

 香川かがわさんが少し羨ましそうに見てる。

 香川かがわさんは忙しいからね。

 温泉も一日に一回しか入れないと言っていた。

 美肌の湯なのにと。


 猫顔オーク前衛の人間が3人のパーティで進む。

 水飲み場を見つけた。


「2階層の温泉より魔力濃度が少し高いようです。商材になりそうですね」

「階層が下になるほど魔力濃度は上がると。さらに下の階層になるとただの水が低級ポーション並みになるんだったっけ」

「坊主、ここでキノコを栽培してみたい。リフォームして湿度を上げれば行けるぞ」

「駄目です。ここは住居にします」


「岩の洞窟の住居はちょっと。ここは大船おおぶねさんの勝ちだね」

「負けてしまいましたか。ですが、住居も考えて下さい」

「じゃあ、半々にするか」


 しかし、岩の洞窟の住居はちょっと。

 床とか建材は木を使うとしてもだ。

 窓から外が見えないと、宇宙船より酷い。

 精神的にくる可能性が高い。

 ここの開発をするのはずっと先だろうけどね。

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