第6話 虐め根絶を目指して

 昨日みたいな特別なことがない限り、学校には休まず登校している。


「よう、戸塚とつか。購買で焼きそばパン買って来てくれないか」


 不良に絡まれた。

 ええと。


「お前が自分で買ってこいよ。それとも薬でもやって、頭パーになって、買い物が出来なくなったか?」


 僕は煽った。


「何だと。もういっぺん言ってみろ」


 不良は激怒してナイフを出した。

 怖くない。

 僕はあることに気づいた。

 自分が死ぬのは怖くないんだ。

 なんて身勝手なんだろう。


 僕以外の者が死ぬのが怖くて、僕自身の死は怖くない。


「ははは」

「お前こそ薬でもキメてんのか」

「【リフォーム】」


 不良のナイフは飴のようにくにゃくにゃに曲がった。


「くそっ、スキルホルダーかよ。こうなったら素手でやってやる」

「掛かって来い」


 不良はナイフを投げ捨てると殴りかかってきた。

 僕はパンチを片手で止めた。

 手に痛みが走った。

 こいつレベルは僕より上か。


「どうだ。俺はレベル15もあるんだぞ」

「それがどうした。お前は一度でも死の恐怖と戦ったことがあるのか」

「何言ってるんだ。このいかれ陰キャが」

「【リフォーム】」


 不良のパンチは変形したコンクリートの床に防がれた。


「あーーーー! いてぇ! くそっやりやがったな」


 不良の拳の骨が突き出ている。


「君達やめなさい」


 先生が駆け付けて、不良はポーションで治療された。


「怖いな」

「親がいないから」

「でも普段は大人しいわ」

「猫被っているのよ」


 外野がうるさい。

 特に親は関係ないだろ。


 大船おおぶねさんが呼ばれた。


「すまなかった」


 大船おおぶねさんが謝ることはないのに。

 でも僕も頭を下げた。


「相手がナイフを最初に出して、レベルも高かったことですし、今回は大目に見ましょう。ですが学校内でのスキル使用は禁止です」

「分かりました」


 帰り道、黙っていた大船おおぶねさんが、口を開いた。


「喧嘩して勝ったのは偉いが、スキルの使用はやり過ぎだ」

「怒らないの?」

「お前さんは命の重みを知っている」


 スキルを喧嘩に使ったことが恥ずかしくなった。

 亡くなった両親に顔向けができない。

 今度から負けても良いから殴り合おう。


 第1階層は相変わらずカビ臭い。

 でも、収穫に向かう人々の顔は明るい。

 家族連れを見ると心がチクリと痛んだ。


「ああ、やられている」

「どうしたの?」


 落胆した様子の家族。


「キノコ泥棒だよ」

「ちょっとまってクマ耳スライムに聞いてみる。ここでキノコを収穫した人を覚えいてる?」

「きゅい」


 クマ耳スライムが覚えているらしい。

 クマ耳スライムが男のもとに案内する。


「あたな他人のキノコを採りましたね」

「言い掛かりはよしてもらおう」

「嘘判別スキルに掛かってもらいます」

「くっ、採ったよ。どこも同じに見えるんだ。だから間違えて採った」

「やっぱり窃盗かどうか判断するために、嘘判別スキルに掛かってもらいます」

「出来心だったんだ」


 こういうトラブルは増えていくんだろうな。

 監視カメラを付けるのが良いかも。

 電気を敷くのもリフォームスキルを使えば簡単だ。

 大船おおぶねさんに言って業者を手配してもらう。

 希望者は自分の区画を金網で覆えるようにした。

 僕の仕事が増えるけど、お金にはなる。


 この金網、リフォームスキルを使うとダンジョンの一部になる。

 一部になるということがどういうことかというと、頑丈になって、修復機能が発揮される。

 ペンチぐらいでは破るのは困難になる。

 ダイヤモンドカッターでも難しいと大船おおぶねさんが言っていた。


 そうだ。

 学校に監視カメラを寄贈しよう。

 虐めが減るかな。

 いいや、カメラの死角でやるに違いない。


 監視カメラは生徒の反感も買うだろう。

 僕だって嫌だ。


 うーん、何か上手い方法は。

 カウンセラーの設置かな。

 費用を僕が持つ。

 でもそんなのでは解決されない。

 虐めをしないという魔法契約かな。

 これなら、完全に防げる。

 だけど反発があるんだろうな。


「どう思う?」


 僕は大船おおぶねさんに相談した。


「まあ坊主だとカウンセラーが精々か。魔法契約のアイデアは良いがな。実現は難しい」

「だよね」

「虐めで亡くなった子供を持つ親がやっている団体にやって貰えよ。虐め根絶、魔法契約キャンペーンてな。金さえあれば可能だ。こういう散財は良いと思うぞ。任せとけ」


 大船おおぶねさんがやってくれることになった。

 キノコの盗難も分譲する時に他人のキノコを採らないという魔法契約を結んでもらおう。

 それがいいかも。


 大船おおぶねさんが手配してくれることになったが、大船おおぶねさんは過労死しないだろうか。

 魔法契約、第1号ということで僕が掛かることになった。


「【マジックコントラクト、他人所有のキノコを採らない。ペナルティは痛み】」

「はい、承諾します」

「スキルが掛かりました」


 他人のキノコを採って契約を確認することはしない。

 痛いのは嫌だから。


 でも、ダンジョン分譲してない区域のキノコは採ってみた。

 普通に採れる。


 分譲した人の中には反発もあった。

 でも規約にも必要なら魔法契約に掛かってもらいますの一文がある。

 裁判を起こしてまで拒否する人はいないみたいだ。


 分譲の権利を買い取ってくれという人はいたが。

 そうひとには応じてあげた。

 買い手はたくさんいるからね。

 新規の人の反発はない。

 初めからそうだと分かっていれば、妥当だと思うのだろう。


 学校の方は、自殺した子供を持つ親が、公演を何回か行った。

 じわじわとやっていくつもりらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る