第10話 魔法契約

「みなさん注目! 希望者だけですが虐めをしないという魔法契約を実施します」


 学校でホームルームの時に担任の教師が手を叩いてから話し出した。

 始まったぞ。

 生徒が騒ぐ。


「例えばです。虐められている生徒がいます。無視して通り過ぎたら、虐めに加担することになって、魔法契約に反します。ですからよく考えましょう。でも先生は魔法契約はしてほしいです」


「無視したらペナルティはきついよな」

「魔法契約してる生徒が通りかかったら、虐められても助けてくれるってことだよな」

「そういうひとがクラスに5人もいれば変わるんじゃないか」

「ペナルティ怖いよ」

「虐めしなきゃ良いってことだろ」

「魔法契約したら内申が良くなるかな」

「ペナルティって痛みだろ。虐めを見過ごしても、痛みを我慢すれば」


 意見は様々だ。

 俺は真っ先に魔法契約を受けることにした。

 これを受けてれば、堂々と他人を助けられるからだ。

 魔法契約があるので助けましたって理由が出来る。

 多少の暴力も大目に見てくれるに違いない。


「ではいきます【マジックコントラクト、虐めをしない。ペナルティは痛み。期限は中学に通う間】。承諾しますか?」

「承諾します」


 魔法契約した生徒は少ない。

 でも5人もいればそれは力だ。

 1人対5人の構図になれば、5人が勝つに決まっている。


「おい、購買でパン買ってこい」


 早速だ。


「嫌だよ。どうせ、お金払ってくれないんだろ。お小遣いも、もうほとんどない」


 あの俺に絡んで来た不良が、虐めを行っている。


「やめろよ」


 俺は注意した。


「そうだ虐めは良くない」

「先生を呼ぶわよ」


 魔法契約を受けた他の生徒も俺の助けに入ってくれた。


「ちっ」


 舌打ちすると不良は去って行った。


「ありがと」

「いいや、魔法契約があるからさ。俺も痛いのは嫌だから」


 魔法契約してない普通の生徒はバツが悪そうだ。

 そして、さらに魔法契約する生徒が増えた。

 勇気を出す一歩になるならと思ったらしい。


 極めつけはこれだ。

 テレビ局の取材。

 金さえ積めば可能だ。

 テレビ局もこういう話題は大好きだ。


 俺は前髪で顔を隠しているからインタビューには選ばれなかったが、見栄えのいい女生徒は選ばれてハキハキと答えてた。

 それを魔法契約してない生徒が羨まし気に見る。

 魔法契約の生徒がさらに増えた。

 最初の種としてはこんな所でいいかもね。


 授業を終え、家に帰ると、家は寒々としてた。

 寒々と感じない日はない。

 ただいまを言ってもおかえりを言ってくれる人がいない。

 共働きの世帯でも朝は一緒の時間を過ごすだろう。

 おはようと言って誰の応えもない虚しさ。


「うっし」


 両手で頬を叩いて気合を入れた。

 不動産関連を取り仕切ってくれる人とのミーティングだ。


 インターホンが鳴った。


「はーい」

橋本はしもとからご紹介預かりました香川かがわです」


 扉を開ける。

 香川かがわさんはロングヘア―の眼鏡を掛けた美人だ。

 とっても仕事が出来そうな雰囲気がある。

 美人だけどレベルが高いのかな。

 素で美人な人もいるけど。


「どうぞ。俺しかいないので。お構いできないけど、インスタントコーヒーでいい?」

「構いません」


 リビングに案内して、コーヒーを淹れる。

 香川かがわさんはコーヒーを一口飲んでから話し始めた。


「資料を見させてもらいました。素晴らしいの一言ですね。何せ、経済波及効果が何百兆円の逸材ですから」

「ええとそんなに稼げるの」

「考えてもみて下さい。1階層が区の面積。それが100階層もあると」

「ええと23区の4倍の面積」

「100階層だという保証はありませんが、200階層かも知れません。こんな仕事やらない方が間違ってます」


「俺についてはどう思う?」

「経営者としてはひよっこですね。ですが、レベルが上がれば能力も上がる。リフォームスキルは無敵だと伺いました」

「誰に?」

大船おおぶねさんにです」


大船おおぶねさん、口が軽いよ」

「いいえ、代償として私は戸塚とつか様を裏切らないという魔法契約を結びました。ペナルティは死です」


 そうか。

 大船おおぶねさんはその覚悟を見て、色々と明かしたのだな。


 だけど死は許容できない。


「死は許容できない」

「私が死んだら戸塚とつか様が生き返らせてくれるのでしょう」

「それはそうだけど」

「私のレベル限界値は282です。これを打破したいと常々思っておりました」

「だからって死なないで、必ず生き返るとは限らないんだから」


 魔法契約までしてくれたんだから、雇わない手はないよな。

 香川かがわさんをダンジョンに案内する。


「区一つ分のダンジョンキノコ栽培場ですか。これだけでも運営のやり甲斐があります」

「分譲は不味かったかな」

「いいえ、契約書を見ましたが土地の永久使用権となってます」

「えっ、土地を売ったのではないの?」

「実質、売ったようなものですが、貸しているに違いないです。ただちょっと1万円は安いですね」

「いくらぐらいが良いかな」

「100万円でも売り方によっては買い手がつくと思います。もうその価格で売り出していますから、大きな変更は利きませんが。少しずつ値段を上げて行きましょう。それと半分は直営で残した方がいいですね」

「区の半分のキノコ栽培場の需要ってあるの?」

「ええ。キノコからポーションを作ってますよね。いくらあっても足らないかと」


 そうなんだ。

 いや区の半分のリフォームは死ぬよ。

 俺が過労死する。

 でも魔力が増えたら、一瞬で可能だね。


「ここが第2階層ですか。温泉があるそうですが入ってみたいですね。水着も用意してきました」


 香川かがわさんは自分の目で確かめる派だね。

 香川かがわさんが温泉に入る間、俺は見張りをした。


「凄いです! 来て下さい!」


 何が起こった。

 風呂場に行くと、香川かがわさんは自分の肌を突いたり撫でたりしてる。

 水着だけどスタイルが凄い。

 色気がむんむんきて、お風呂に入ったみたいにのぼせた。

 これが200レベルオーバーか。

 しっかりしろ俺。


「ど、どうしたんですか?」


 声が上ずってしまった。


「この肌の潤い。尋常じゃないです。これはスパを作らないと」

「区の面積があるからスパのひとつぐらいどうってことはないけど。建築費が凄いと思う」

「会計報告を読みましたが、スパの建築費用ぐらい銀行で借りれると思いますよ」


 スパを所有する中学生か。

 きっと全国に俺だけだな。

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