第2話 ダンジョン&スキル

 どうしよう。

 僕だと家を維持するのが大変だ。

 不動産の遺産相続とかは葬儀屋さんが手配してくれた司法書士さんとかがやってくれた。


 ガス水道電気の振り込みの切り替えも何とか。

 区役所には何度か足を運んだが、親切に教えてもらい書類は整った。

 だけど金がもうない。


 一人ならアパート暮らしの方が向いている。

 家を売ろう。

 思い切って不動産屋を訪ねることにした。

 不動産屋は駅前にあってガラスにベタベタと物件が並んでた。

 相場を見るとうちの家は3000万ぐらいかな。

 自動ドアの前に立つ。


「いらっしゃい」

「両親が亡くなって家を売りたいんですが」


 築何年ですかとか聞かれて登記書類を見せる。


「それですとリフォームした方が良いですよ」

「考えさせてください」


 リフォームは大事だ。

 悪徳業者のニュースを何度も見た。

 はっきり言って自信がない。

 大人に頼りたいが、あの糞な親戚を頼るなら、家を寄付した方がましだ。

 リフォームなしに安値で売っても良い。

 とにかくリフォーム、リフォーム、リフォーム。

 そう思って眠りに就いた。


 朝になって庭を見るとぽっかりと穴が開いてた。

 僕にはダンジョンだとすぐに分かった。

 区役所に行こう。

 区役所は親切だから、相談に乗ってくれるだろう。


 ブルーシートを物置から出してダンジョンの入口に掛ける。

 重りにスコップとか鉄アレイを置いて、とりあえずはこれでいいだろう。


 放課後、区役所の案内に聞いたら、ダンジョン課に行って下さいと言われた。


「番号札8番の方」


 僕だ。


「すいません、庭にダンジョンが出来たんですが」

「ご両親は?」

「交通事故で二人とも亡くなってます」

「困りましたね。ここはお姉さんが一肌脱ぎましょう。まずダンジョンを秘匿します」

「何でです?」

「ダンジョンは富を生み出します。入場料だけでも年間5千万円は堅いでしょう」

「そんなに」

「暴力組織に目を付けられたら、分かりますね」


 僕はうんうんと頷いた。


「成人するまで待ちましょう」

「分かりました。ブルーシートを掛けてきましたが、あれで良かったですか」

「入口を覆う工事はしないといけませんね。お姉さんの親戚が大工をやってます。材料費だけで作ってあげますよ」

「ありがとうございます」

「板を打ち付けて扉を作るだけですから。入口の偽装の口実が必要ですね。陽の光が駄目な農作物を育ててることにしましょうか。趣味でモヤシを育ててるが良いですね。たまにスーパーで買って来て家でとれたモヤシですと言って近所におすそ分けすると良いでしょう」

「モヤシは安いから懐が痛くないですね」

「ダンジョンには入らない方が良いですよ。いま中学生ですよね。高校になったら討伐の授業があります。それからでも遅くない」

「はい」

「お姉さんは橋本はしもとと言います何かあったら電話して下さい」

「はい」


 ダンジョンは秘匿する方向で決まった。

 その日のうちに扉が出来た。

 1万円ほどで済んだ。


 図書館でダンジョンについて調べる。

 ダンジョンが出来る時に魔力の竜巻、マジックトルネードが起きるらしい。

 これが起きると巻き込まれた人はスキルが発現するらしい。


「【ステータス】」


――――――――――――――――――――――――

名前:戸塚とつかつくる

レベル:1/65536

魔力:8/8

スキル:1/1

  リフォーム

――――――――――――――――――――――――


 ええと、スキルにはレベルが付いているのが普通だ。


 『火魔法 レベル5/10』みたいな奴。

 レベル限界があるんだけど、これがないのは生活スキルだけだ。

 生活スキルはレベルがない。

 まあしょぼい物が多いんだけどね。


 リフォームスキルは載ってない。

 だけど使い方は分かる。

 僕の想いに魔力が応えたのだから、自分の分身みたいなものだ。

 分からないでどうする。

 リフォームスキルは建物なら、内外を問わず構造物から調度品まで変化させられるらしい。

 自分の家でテストをやってみよう。


「【リフォーム】」


 廊下の一部分がピカピカになった。

 うわ廊下が新品だ。

 結構良いスキルかも。

 家全体を綺麗にしたいな。


 それにこれならアルバイトで食っていける気がする。

 大工に弟子入りとかすればいい。

 橋本はしもとさんに、親戚のあの大工のおじさんに話をしてもらえないかな。


 それにはレベルを上げて魔力を増やさないと。

 明日の放課後、うちの庭のダンジョンに入ってみようかな。


 放課後、ダンジョンの扉を開けて中に入る。

 かび臭い匂いがした。

 キノコが壁や床に生えている。


 モンスターはどこだ。

 見るとボーリングの玉ほどのまん丸な水の塊がある。

 わずかに水色だ。

 スライムかな。

 スコップを構えてじりじりと近寄る。


「とりゃ」


 スコップでスライムの一部を切り取った。


「ぴきゅー」


 スライムが怒ったらしい。

 体当たりしてきたのでスコップで防ぐ。

 そして、着地したスライムめがけてスコップを突き出す。


「ぴぎぃぃぃぃ」


 スライムが断末魔の声を上げる。

 うっ、生き物を殺した罪悪感が襲ってきた。

 両親の顔が浮かぶ。

 モンスターと言えども生きている。

 その命を奪うのは罪深い。

 両親がそう言っている気がした。

 吐き気がこみ上げる。

 盛大に吐いた。


 殺してしまったのか。

 水を掛けたらスライムが生き返らないかな。

 持ってきたペットボトルの水をスライムの残骸に掛ける。

 駄目だ反応がない。


 スライムの心臓マッサージや人工呼吸ってどうやるんだ。


「【リフォーム】」


 一か八かで唱えたスキルでスライムが生きている時の形になった。

 いいや、少しアレンジした。

 クマ耳を追加した。

 スライムは生き返ったらしい。

 襲って来る気配もない。

 テイムしたのかな。

 テイムスキルではないけれど。


 別のスライムが現れた。


「【リフォーム】。あれっ駄目だ。何でだろう」


「ぴきゅー」


 クマ耳スライムが現れたスライムに攻撃する。

 僕も加勢する。

 ほどなくしてスライムは死んだ。

 吐き気がこみ上げる。


「【リフォーム】」


 上手くいったようだ。

 生き返らせることに成功した。

 クマ耳スライムが2匹になった。


 どうやら死なないと、リフォームで生き返らせることができないらしい。

 リフォームは生命に対しては反応しないのだろう。

 それで死骸には反応する。

 考えてみたら分かる。

 家を形作るのは死んだ木だ。

 生き物を使ってリフォームなどあり得ない。

 死骸なら素材だものね。

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