第33話 誘拐事件勃発

 魔力充填スタンド第1号店が作られた。

 カードを差し込むと施設に入れる。

 施設の中なら何度でも魔力充填ができる。

 そのうち貸し工房を作る予定だ。


 魔力充填にくる人は少ない。

 少ないというか一人だけだ。


「何のスキル持ちなのか、教えてくれる」

「おう、良いぜ。変形スキルだ。金属でも何でも変形できる」


 俺のスキルと似ているね。


「何を作っているの?」

「銀のアクセサリーだな」


 鞄ぐらいなら持ち込み可能というルールだからね。

 銀塊も持ち込める。


 変形スキルは俺の下位互換だ。

 ただし、建物の外だと話は変わる。

 俺だと建物から変形させて延ばしてこないといけない。


 変形スキルは手元にあれば可能なのだろう。

 変形スキル持ちとの戦いだと、ダンジョン内であれば勝てる。


 まあ、勝ち負けを考えても仕方ない。

 そのスキルにはそのスキルの良い点があるはずだ。


 魔力充填スタンドに人が入ってきた。

 キョロキョロ辺りを見回した。


「ここに手を置くと充填できるよ」


 俺は教えてやった。


「ありがとう」


 男は魔力充填スタンドに手を置いた。

 そして何やら小声でスキルを発動。

 スマホを操作し始めた。


 また魔力充填スタンドに手を置いての繰り返し。


「なんのスキルか教えてくれる?」

「ああ、予見スキルさ。未来が見える。ただ私に入っている情報の範囲内だが」

「未来予知、凄いね」

「あくまで私が知っている情報の範囲内だが。それで株をやっている。外れることもあるが、大抵は儲かる」


 うーん、知っている情報から予知するのか。

 微妙に使えない。

 これならAIの方がましだ。

 でも、そうでもないか。

 AIは株価のデータしか追ってない。

 社会情勢の細かいデータは加味してないからね。

 使えそうな人材がいたら渡すように香川かがわさんに言われた名刺を渡す。


「ダブコーか。私が気にしている会社だ。上場すればきっと株を買ってたに違いない」


 男から名刺を貰った。

 拝島はいじま智明ともあきとある。

 株トレーダーという肩書だ。


 予見スキルは戦いに役立ちそうなんだけどね。

 ただ攻撃力がないと。

 銃を撃たせたら100発100中かも知れないね。


「ハンターに興味は?」

「ないね。予見スキルの燃費は悪い。1回で魔力のほとんどはなくなる。ただ」

「ただ?」

「レベルは上げたい。頭の回転が良くなるからね。きっと予見スキルもパワーアップするに違いない」


 攻撃手段か。

 スキルの性質上、遠距離攻撃がいいな。


 香川かがわさんと役割が被るけど。


「武器が問題かなぁ」

「銃は外国で撃ったことがあるが、全然だった。予見スキルを使えば構えた時点で当たるかどうか分かるがな」

「何か手がないか考えてみる。香川かがわさんなら相談役か役員にって言いそうだけど」

「ダブコーの社長の香川かがわか」

「うん」

「一度会って話を聞きたい。伝えておいてくれ」

「うん、良いよ」


 拝島はいじまさんは、何回かスキルを使って株取引をすると去っていった。

 俺を子供だって馬鹿にしなかったのに気づいた。

 スキルの有用性を痛いほど知っているからかな。

 俺のスキルのことは話してないけど、たぶん使えるスキルがあると見抜いているような気がする。

 ああ、予見スキルを使ったのかも。


 スマホが着信のメロディを奏でた。


「もしもし」

藤沢ふじさわさんが誘拐されたわ」


 香川かがわさんから急を報せる電話。


「ポータルですぐに帰る」


 そう言ってから、隣のポータルステーションに駆け込む。

 ポータルに触ると一瞬でダンジョンの2階層だ。


 香川かがわさんはポータルのすぐそばで待っていた。


「状況は?」

「犯行は藤沢ふじさわさんがダンジョンから帰るところに行われたわ。バンに連れ込まれたところを付近の通行人が見ているわ」

「大胆だな。手口が荒っぽい」

「ええ、プロとは言えないけど、素人とも言えない。ヤクザとかチンピラがやりそうな手ね。待って」


 香川かがわさんのスマホが着信を奏でる。


「ええ、聞いてみるわ。戸塚とつか様、速達が届いたようですが、開封してもよろしいですか」

「誰から?」

尻手しって芳一ほういちだそうですが」


 尻手しって叔父さんだ。


「うん、開封して」


「開封して下さい。ええ。どうやらこの誘拐事件の主犯のようです。告訴を取り下げろと書かれています」

「無事に返してほしければと書かない所が嫌らしいな」

「ええ、事件と無関係かも知れませんが、このタイミングですから」

「まあそうだよね。主犯はおいといて、藤沢ふじさわさんをまず助けよう」

「防犯カメラの映像を取り寄せますか?」

「それは時間が掛かり過ぎだ。オークを一匹外に出して匂いを追わせる」

「子豚さんオークなら問題ないでしょう」


 よし、追跡だ。

 子豚さんオークは温泉に入ってた。


「リラックス中、悪いね。仕事だよ」

「ぶひっ」


 藤沢ふじさわの匂いのサンプルは、貸してもらったハンカチがある。

 お昼ご飯の時に服にパンのソースが付いた時に貸してもらった奴だ。


「この匂いだ。追えるか?」

「ぶひっ」


 頷く子豚さんオーク。

 バンが目撃された地点から追跡を開始する。

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