第37話 もどかしい

 尻手しっての部下が再逮捕された。

 両親の預金口座を引き出していたらしい。

 そんなの尻手しって叔父さんがやらせたに違いない。

 警察がしつこく調べているに違いないと思うが、本人が言い張ればそれが事実になってしまうこともあるかも。

 もどかしい。

 保険金で振り込まれたお金は、尻手しって健康食品の株を買ったことになっていた。

 刑事さんにそう言われた。

 そんなの承諾してないぞ。

 だが言った言わないの話になると、もうこれは裁判するしかない。

 どっちの主張が通るのか俺には分からない。

 こうなると民事は和解を勧告されそうだ。


 うやむやにしたくないんだけど。

 ややこしいことになっている。

 保険金の金で株の増資に充てるとはな。

 最初からこの計画だったんだろう。

 保険金の額では、会社の過半数どころか2割も行かなそうだ。

 となると配当は入るが、無利子で貸しているようなものだ。

 配当もないと聞いている。


 いっそのこと株を売って、お金を取り戻すか。

 上場してない株の取引は難しいんだよな。

 俺が株を買ったことになっていると聞かされて調べた。

 それより、尻手しって健康食品を乗っ取ってしまおうか。

 俺の財力ならできる。

 それには、尻手しって健康食品の業績を悪くすることだ。


 現在やっている方策と一致する。

 もどかしいが、当面は今まで通りとするしかないね。


 セーフゾーン拡張の休みにやる今日の仕事は大船おおぶねキノコ農園の視察。

 ここの従業員の9割はリフォームモンスターだ。


 リフォームモンスターの欠点は字が読めないことと、俺としか意思疎通ができないことだ。

 愚直に与えられた仕事をする。

 だけど判断が必要な時に問題が起こる。


 人間が指図しないといけない。

 いま指図はどうやっているかと言えば、キノコ集積場に札があってこの色が赤だともうキノコは要らない。

 青だとジャンジャン採れ。

 黄色だとほどほどに。

 こうなっている。


 俺がそう命令しておいた。

 集積場のキノコを仕分けは妖精オークの仕事だ。

 やつら鼻が良いから間違えない。


 梱包作業は人間がする。

 そのうち自動化されるんだろうけど、今はこんな感じだ。


「クマ耳スライムに洗浄作業を任せたいぜ」

大船おおぶねさん達、洗浄スキル持ちがやっているんだよね」

「おう、魔力充填スタンドができて余裕ができたが、スライムの数が余っているのを見ると活用したくなる」

「スライムの体の中に取り込んで洗浄するんだよね」

「消費者にばれたら不買運動が起きるからな。採取以外はやらせてない」


 スライムの体液で洗うのは受け入れられそうにないな。

 待てよ。

 スライム美容とかどうかな。

 手足や体をスライムで洗浄。

 はっ、18禁になっちゃうな。


 思考がそれた。

 ええとスライム洗浄はありかなしかだね。

 俺的にはありだけど、一般の人はなしなんだよね。


 ああ、ダンジョンの機能のリフォームで何とかならないか。

 第1階層のゴミ収拾機能に土は含まれてない。

 これを含むとダンジョンの床とか壁がなくなってしまうからね。


 土をゴミとして認識させて、取り除く。

 一角にそういうスペースを作れば良い。

 その一角の床は石にしておいて、キノコとプラスチックとかを吸収しないようにすれば、なんちゃって洗浄だ。


「【リフォーム】。この石の床の上にキノコを置けば土は取り除かれるよ」

「そいつは良いな。でかした」


 俺は役に立っているようだ。

 最近、頭の回転が速くなっているような気がする。

 レベルアップのせいだろうな。


 休み時間の視察終わり。

 セーフゾーンの拡張に戻ろう。


 現在、セーフゾーンの拡張は第2階層を中心にやっている。

 それもほぼ終わりだ。


 そして、次の中心になる第3階層のセーフゾーン拡張は面倒だ。

 キノコ栽培だと湿度と温度を調節しないといけない。

 培地があるので土は要らないけど。


 住宅にするには、木材を取り付けられるようにしないといけない。

 今はリフォームスキルで一体化しているけど、後々はもっと効率化を図りたい。


 さあ、第6階層探索の時間だ。


 沼地は鬼門だ。

 もうフィールドそのものが大きなトラップ。

 どこに深みがあるか分からないし、たぶん敵が突然出てくるのだろう。


「坊主、動き難いし、これは苦戦必至だな」

「沼地だとどうにもならん」

「私は遠距離攻撃主体ですから、別に平気ですが」


 連れて来たミスリルロボットゴーレムも動きづらそう。

 ミスリルロボットゴーレムを船に変形するか。

 いいや、魔力充填スタンドが作れるなら、大規模にリフォームしながら進めば良い。

 進むスピードは遅くなるが、安全だ。


「【リフォーム】陸地隆起」


 沼地の底を変形して、陸地を作る。


「この上なら普段と変わりないな」

「おっと、お客さんだ」

「【バレット】【バレット】【バレット】」


 ピラニアの形をした1メートルはある魚が水中から躍り出て、香川かがわさんに撃退された。

 ビッグピラニアと呼ぼう。


「【リフォーム】マグロ」


 ピラニアはマグロになった。

 むっ、血の匂いでおびき寄せられたのか。

 ビッグピラニアは集団でやってきた。


 陸地が城でまるで攻城戦だな。


 俺はパーティメンバーとミスリルロボットゴーレムが撃退するモンスターの死骸をせっせとマグロに変える。

 戦えば戦うほどこっちの味方が増えるから楽勝だ。

 やがて、マグロ以外は見えなくなった。


 とりあえず、橋頭堡は築いた。

 今日はここまでにしておこう。


 リフォームで陸地を作るのと、死骸をリフォームする以外に何かできないかな。

 考え始める。


 毒を流すとか考えたが、この階層もリフォームして何かに使うはずだから、毒は不味い。

 毒以外の何か。

 戦いの中で閃くのかな。

 それに期待しよう。

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