第51話 番田さん死す

 校内放送で、警報音をがなり立てる。


「近くでスタンピードゲートが発生しました。ランクはSです。皆さんは体育館地下のシェルターに避難して下さい。繰り返します……」


 スタンピードゲートとは、ダンジョンからモンスターが出てくる一方通行の転移門のことだ。

 これができると、ダンジョンから多い時で1万を超えるモンスターが飛び出して来る。

 その災害は酷いものだ。

 ただそんなに頻繁には起こらない。

 一ヶ月に1回程度、それもほとんどはモンスターが100匹程度のEランクで、日本全国で起こるから都内で起きるのは何年ぶりかだ。

 ただ今回のはSランク。

 日本滅亡レベルだ。


 俺は校内放送を最後まで聞かずに学校から飛び出した。

 校門を出ると装甲車が停まってた。

 香川かがわさんと大船おおぶねさんの姿が見える。

 驚いたことに拝島はいじまさんまで。

 拝島はいじまさんは手にミスリルゴーレムガンを持っていた。

 それって違反でしょ、ミスリルゴーレムガンは厳密に言うとモンスターだ。

 テイムしたモンスターをダンジョンの外に出すのは許可が要る。


「坊主、早く乗れ」


 俺は滑り込むように助手席に乗り込んだ。

 シートベルトを秒掛からずに完了。

 タイヤがキュルキュル空回りして、焦げ臭いにおいが漂う。

 体がシートに押し付けられ、車が拳銃で撃たれた弾のように加速した。


「状況は?」

「良くないわ」

「私の予見スキルによると23区内は火の海になるな」


 装甲車がオークを跳ね飛ばした。

 衝撃が車に伝わる。

 でも車は停まらない。

 故障もしてないようだ。


「こうして、どこかに向かっているってことは阻止するために行動してるんだよね」

「もちろんだ。でなきゃ、俺達が出動はしない」

「予見では、私達に番田ばんださんを加えたメンバーが阻止するとでてます」

「私の計算スキルでも勝てる目算があります」


 敵のボスが何なのか分かった。

 ドラゴンだ。

 真っ赤だから火竜だろう。

 大きさからするとエルダーだな。


 前にやった水竜の2倍はある。

 車には魔石で作った輪も積んである。

 だけど屋外なんだよね。

 建物の外壁を変形できるけど、調度品は室内でないと。


 家を変形して、ドラゴンを拘束なんてできない。

 木ぐらいじゃ身震いされただけで壊される。

 俺は役立たずなのか。


 魔力3000オーバーが3人いるパーティはたぶんトップクラスだろう。

 でもエルダードラゴンとやれるレベルじゃない。

 逃げるという選択肢はない。

 ドラゴンに殺される人々の死を思っただけで吐き気がする。

 逃げたら、俺の心はたぶん壊れるだろう。


 現場に到着するまでに何か手を考えるんだ。

 せめてダンジョン化してある道路のすぐそばなら、道路を変形して拘束できる。

 木より、ダンジョン化して魔力のこもったアスファルトの方が丈夫のはず。

 でもそんなに都合よくはいかない。


 もう車は住んでいる区を離れた。

 ああ、何か手は。


番田ばんださんの居場所はGPSではこの辺りです」


 嘘だ。

 番田ばんださんが血を流して、何かを守るように、うずくまって道路上にいた。

 番田ばんださんの背中は、プロテクターごと切り裂かれている。


 車が停まる。

 急いで番田ばんださんに駆け寄って、脈を取る。

 まだ体は暖かい。

 でも脈がない。


「みーみー」


 番田ばんださんの胸の辺りから鳴き声が聞こえた。

 香川かがわさんが鳴いている子猫を取り出した。

 お願いだ。

 番田ばんださん目を開けて。


 吐き気がこみ上げる。


番田ばんださんを屋内に。急いで」


 4人で番田ばんださんを近くの家に運び込んだ。

 背中の損傷が激しい。

 このままリフォームしたら、体が小さくなる。

 きっと番田ばんださんは悲しむだろう。

 そうだ。

 念のために持ってきた魔石で作った輪を番田ばんださんの上に置く。


「【リフォーム】」


 番田ばんださんと魔石の輪は融合された。

 見た目は普通の人間だ。


 香川かがわさんが心臓マッサージをする。


「よせよ。くすぐったい」


 番田ばんださんが声を出した。

 良かった。

 生き返った。


「天国で猫と戯れてたぜ」

「ステータスを確認してくれる」

「いいぜ。【ステータス】」


――――――――――――――――――――――――

名前:番田ばんだ明彦あきひこ

レベル:256/65536

魔力:121286/2646+118640

スキル:4/8

  パリィ レベル54/289

  サンダーフィスト レベル41/294

  キングブロウ レベル32/312

  マジックオブジェクト

――――――――――――――――――――――――


 魔力が12万超え。

 おそらくこの魔力は融合した魔石のせいだろう。

 +表記なのもそのせいだ。

 この魔力だと世界で一位だな。


「ふははは、素質だけなら、俺が最強かよ」


番田ばんださんだけで勝てるかな」

「【カリキュレイト】無理ですね。成功率は5%にも満たないでしょう」

「レベル上限は上がったが、他は前と一緒だからな。くっ、1秒で何年も修行できる部屋が欲しいぜ」


「【フォァサイト】。予見スキルによれば、番田ばんださんのサンダーフィストを全魔力で打つらしい」

「足止めね。今回は俺のリフォームスキルで足止めは難しいから」

「ではその作戦で行きましょう」


 ドラゴンはでかいのですぐに見つかった。

 辺りは血の海になっていた。

 俺はゲエゲエ吐いた。


「【乱舞】」


 大船おおぶねさんが、何回も素振りしてドラゴンの気を惹く。


「【サンダーフィスト】全力だ」


 番田ばんださんがドラゴンの右足に拳を打ち込んだ。

 スパークで一瞬目が眩む。


「【カリキュレイト】【ブリット】」


 香川かがわさんの魔弾の一撃はダメージがないように見えた。


「【フォァサイト】」


 拝島はいじまさんが腰だめに構えて、ミスリルゴーレムガンを連射する。

 ミスリルの弾はさっき香川かがわさんが撃った所に寸分たがわずに当たったように見えた。

 ドラゴンは一瞬震えると、倒れた。


「ええと、拝島はいじまさん凄いね」

「いいや、香川かがわ女史がウロコに隙間を作ってくれなければできなかった」

「いいえ、ウロコの隙間をこじ開けられたのは、番田ばんださんがドラゴンの動きを止めたからです」

「となると、最初にドラゴンの気を惹いた俺が殊勲賞か」

「いや、俺を生き返らせた坊主の手柄だ」

「うっぷ。生き返りそうな人を屋内に運んで。急いで」


 何人も死んだ。

 俺のせいではないのは知っている。

 だけど、吐き気はなかなか去らない。


「お兄ちゃん、病気なの」


 幼稚園児ぐらいの女の子に背中をさすられた。

 この子も生き返った一人だ。

 そう思うと吐き気が弱まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る