第28話 綱引き

「ええと、温泉の拡張ね。【リフォーム】。うん、良いみたい」


 ダンジョンをリフォームして地中に水の召喚と熱源を作る。


「魔力スパリゾートは絶好調ですから。また頼むことになると思います」

「うん、温水プール計画があるんだって?」

「ええ、魔力泉は疲れが取れますから、長い距離泳げます。水泳選手の育成に役立つのですよ。水泳の実業団チームを作ろうと思いまして」

「いい宣伝になるんだろうね」

「ええ、それはもう」


 香川かがわさんが嬉しそうだ。

 温水プールができたら、藤沢ふじさわを誘おう。


「波の出るとか、流れるとかの温水プールも欲しいな」

「ええ、既にそれも計画に。将来的には遊園地も考えてます。大規模運動施設とかもですね」

「サッカー場とか、野球のスタジアムなんかも出来るのか」

「ええ。ただ大船おおぶね野郎が、失礼大船おおぶねさんが畑を作るんだと反対なさっておりまして」


 大船おおぶね野郎って今言ったよね。

 第3階層の利権でも揉めているし、大船おおぶねさんと香川かがわさんの争いが始まるのかな。

 第4階層も揉めそうだ。


「うん、仲良くいこう。でも便利な土地は商業施設に変わっちゃうんだよね。俺の家の周辺も昔は畑だったけれど今はもう畑なんかない」

「それが世の中の流れですね」

「100階層も制覇したら、土地は余るよね」

「ええ、そうなれば良いですね」


「第2階層はどうなるのかな」

「リゾートと高級別荘地を考えております」

「畑はなしなんだ。大船おおぶねさんが荒れるな」

「キノコ農園で我慢なさるべきです。大規模は農園は大船おおぶねさんの手には余ると思いますよ。いまのキノコ農園も十分に管理できているとは言えません。クマ耳スライムとゴブリン妖精とオーク妖精が優秀なだけです」


 よし、第2階層は、香川かがわさんに任せよう。

 その代わり大船おおぶねさんには第1階層の全てを任す。


 話し合いになった。

 争いの芽は早いうちに摘んでおいた方が良い。

 だいたい喧嘩するクラスメートがそうだ。

 問題を先送りしてこじらせて絶交まで行ってしまう。


「集まって貰ったのは、土地の開発を誰に任すかだ」

「おう、第2階層に関してひと言言いたかったぜ」

「こちらは色々なプランを提示できます」


「まあまあ、落ち着いて。まず第1階層は大船おおぶねさんに任す。第2階層は香川かがわさんだ」

「そりゃないぜ」

「階層をひとつずつ。公平ではありませんか」

「俺はな。アメリカでやっているような大規模農業に憧れているんだ。実現できる土地があるってのに」

「あなたに出来ますか」

「できるさ」


「まあまあ、階層をひとつずつ。そして今後だ。第3階層は半々に分ける。第4階層以降は話し合いだ」

「分かったぜ。レベルを上げて、この姉ちゃんより有能になってみせるぜ。俺のレベル限界は1000を超えてるからな」

「経営はレベルではありません」


「とりあえず。第4階層は牧場にしたかったけど、半々にするかも。どういうふうにしたいか考えておいて」

「おう、腕がなるぜ」

「既に4階層の開発シナリオはできてます」


 二人とも頑張ってと心の中でしか言えない。


 今日はミスリルゴーレムをやるのは俺だ。

 ミスリルゴーレムと対峙する。


「【リフォーム】ツルツル」


 ミスリルゴーレムの足場をツルツルにする。


「【リフォーム】腕」


 石で出来た腕が、魔石の輪っかを持ってミスリルゴーレムに迫る。

 ミスリルゴーレムは火球の魔法を乱射し始めた。


「【リフレクション】」


 香川かがわさんが魔法を反射させた。


「【パリィ】」


 番田ばんださんは魔法を逸らした。

 ミスリルロボットゴーレムが盾の魔法を使う。


 俺に届く魔法はない。

 魔石の輪がミスリルゴーレムに嵌められた。


「【リフォーム】デスサークル」


 縮めとかだと恰好悪いから、それっぽい技名にしてみた。

 ミスリルゴーレムがバキバキ音を立てて壊れて行く。

 そして動きが止まった。


 デスサークルをやるのは足止めと盾役がいるってことだな。

 無敵というわけじゃない。

 もっと色々と考えないと。

 素早い敵、空を飛ぶ敵、色々と考えないと。


 腕を2本出して拘束とかしたら、強いだろうな。

 デスサークルを嵌めるのなら、3本要るな。

 魔力量を増やさないと。


 拘束の腕の本数も多ければ多い方が良い。

 やっぱり魔力量だね。

 全てはそこに集約される。


 探索を終えて、道路のダンジョン化の時間だ。

 道路のダンジョン化は少し問題があった。

 ダンジョン化すると掘り返す時に面倒だ。


 道路の下には水道管ガス、所によっては送電線が埋まっている。

 結局これらもダンジョン化することになる。

 補修する必要がなくなるが、こういう管も拡張が必要だ。

 全国規模にダンジョン化を進めるのなら、一瞬で都市一つ分リフォームできるぐらいの魔力量が欲しい。


「地上の建物のダンジョン化をやってみませんか」


 香川かがわさんも無茶を言う。


「まあできるけど。俺の仕事量が」

「そこは毎日1時間の作業でやりくりします」

「そうして貰えるなら」


「劣化しないビルとかの建物は魅力です。耐震性も増しますよね。耐火性能も」

「まあね」


「とりあえずはダンジョン不動産の所有物件からです」

「水面下で俺が何をやるか綱引きしそう」

「それはもう絶大にしてますよ。でも、私の権限が一番強いので」


 香川かがわさんは無茶だけど、学校の時間とか、睡眠時間を削れとかは言わない。

 できる経営者なんだろうね。

 残業しまくりのブラック企業じゃなくてよかったと思う。

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