第27話 壁を破る

「見ろ、今日のキノコキングは俺だ」

「きゅい」

「ぐぎゃ」

「きゅー」

「ぐぎゃきゃ」


 本郷ほんごうがキノコを掲げて誇らしげにクマ耳スライムとゴブリン妖精に自慢している。


「何やってんの」


 ここは大船おおぶねキノコ農園。


「これは」


 恥ずかしい所を見られたという感じの本郷ほんごう


「分かるよ。大きなキノコを採ったので自慢してたんだろ。キノコキングだって、ぷっ」

「笑ったな。笑うことないじゃないの。そんなことを言う奴は、お前、藤沢ふじさわとどこまで行っているんだ。一緒にスパに入っていったという証言があるぞ」


 意外な返しだ。


「銭湯に来たからってなんだよ」

「そのあと二人で家族風呂に入ったんだってな」

「くっ、そんなことまで」


 スパの中は客が多いから、知り合いがいるかなんて気にしなかった。

 クラスメートが見ていたんだな。


「うりうり、言ってみろ。どこまで行ったんだ。Aか、Bってことはないよな。まさかCまでか」

「ええと何の事かな。そんなランクなんか知らない。そんなの死語だろ」

「知ってるじゃないか」


「高校まで待ってもらっている」

「予約かよ。お前、陰キャなのに凄い奴だ。どうやって口説いたんだ」

「彼女、頭が良い人が好きなんだって」


「くそう、陰キャの癖に上手いことやりやがって。レベル上げたら俺も頭が良くなのかな」

「なるんじゃないの。それにスポーツ万能に」


「ゴブリンマジシャンに勝てないんだ。壁になっている」

「パーティに魔法使い系の人間を入れろよ。それとタンクだ。魔法を防御できる奴を探せ」

「そんな不良はいない。たいてい武器が金属バットだ」


「おい、坊主共、話に夢中になって手が止まっているぞ」

「ごめん」


 俺は謝った。


「すいません、親方」


 本郷ほんごう大船おおぶねさんに弟子入りしたのか。

 キノコ農家になるのは本気なんだな。


「敵わない敵にはやり方を変える。臨機応変だよ」

「なるほど」

「ゴブリンマジシャンに魔法を使わせない方法なら幾つも考えつく。詠唱を邪魔するんだ」

「どうやって」

「喉を突く。それとこれは詠唱と関係ないけど、目潰し。見えなきゃ狙いが定まらない。目の痛みで詠唱を邪魔する効果も期待できる。他にも10ぐらいは考えつくね」

「お前、何でそんなに頭が良いんだ」

「レベル上げ頑張ったからかな」

「レベル上げが先か、攻略法を考えるのが先かとか。卵が先か鶏が先かみたいなものじゃないか。くそう、元から要領の良い奴でないと駄目なのか」

「必死に作戦を立てるんだよ」


「こうなったら火炎瓶か」

「お前、火炎瓶持って道で職質されたら捕まるだろう。せっかく両親の仲が戻っているのに波風立てるのか。唐辛子の目潰しぐらいにしとけ」

「おう、そうだな。値段も安いし」


 さあ、休憩は終りだ。

 セーフゾーンの拡張に2階層だな。

 自転車に乗って移動する。


 狭い道には自転車が便利だ。

 第2階層は自動車が搬入されている。

 自動車に乗り仕事現場まで行く。

 セーフゾーンの壁をリフォームでいったん崩し、領域を広げる。

 壁を崩した時は無防備なので、モンスターが侵入しないように、赤いキャットラビットに警備させる。


 そして、少し離れた所に壁を作る。

 地味な作業だ。

 魔力がなくなるとスパの温泉に入って魔力回復。

 さてミスリルゴーレムだ。


「気合れていくよ」

「「おう」」

「はい」


 ミスリルゴーレムはりん光を纏っている。

 事前の調べでは魔法みたいな物を使う。

 全属性だ。


 遠距離戦は香川かがわさんが本気を出さないと勝てないだろう。


「とりあえず、今回の主役は番田ばんださんだ。他のメンバーはけん制に徹する」


 皆が頷く。


「じゃあ突撃」


「【バレット】【バレット】【バレット】」


 香川かがわさんが魔弾を撃つ。

 ミスリルゴーレムは魔法で盾を作って防御した。


 大船おおふねさんと、番田ばんださんがミスリルゴーレムに急接近。


「【リフォーム】ツルツル」


 ミスリルゴーレムの足元がツルツルになった。

 ミスリルゴーレムは転がらないように耐えているようだ。

 足が小刻みに動いている。


「【鉄皮】【乱舞】」


 大船おおふねのハンマーが叩き込まれる。

 ミスリルゴーレムは魔法の盾で防いだ。


「【キングブロウ】」


 番田ばんださんが魔法の盾を砕く。

 香川かがわさんから魔弾の援護がきた。

 いくつか魔弾がミスリルゴーレムに当たる。

 ダメージにはなったが決定打ではない。


 大船おおふねはハンマーでミスリルゴーレムの足を狙った。

 ミスリルゴーレムが転がった。


 チャンスだ。


「【キングブロウ】浸透打」


 番田ばんださんの必殺技が炸裂。

 ミスリルゴーレムのコアは砕かれた。


「やったぜ。壁をぶち破れた」


 ミスリルゴーレムはミスリルのナイフをドロップした。

 採取ナイフに良いので俺がもらう。

 ミスリルゴーレムはミスリルロボットゴーレムにリフォームされた。

 ミスリルロボットゴーレムがいれば、ミスリルゴーレムは容易いな。


「お疲れ様」

「おう、お疲れ」

「お疲れ」

「お疲れ様です」


 この階層を全て制覇したら、ミスリルロボットゴーレムは小さくして、ミスリルを搾り取ろう。

 きっと大金になる。

 もっとも、もうお金はあんまり必要ではないかな。

 どの傘下企業も黒字だ。

 俺の金ではないが、配当金はそれなりに入って来る。


 現在、ダンジョンとポータルの賃料はダブコーに入って来る。

 ダブコーの株の配当が俺の収入。

 それと戸塚とつかキノコ農園の役員報酬ね。

 ハンターとしての収入もある。

 スライムの魔石と体液を削ったのと、オークを削ってできた肉などだ。

 これはパーティのメンバーで山分けすることになっている。


 セーフゾーンの拡張のアルバイト代は傘下の会社から俺に支払われる。

 道路のダンジョン化のアルバイト代もだ。


 もういくら稼いでいるのかさえ分からない。

 たぶん月に何億と稼いでる。

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