第4話 告白

「こんにちは」

「こんにちは」


 ダンジョンの1階層で老人夫婦とすれ違う。


「こんにちは」


 僕も挨拶を返した。


「あなたもどこか悪いの」


 心配そうな老婦人。


「別に悪い所なんてないですけど」

「あら、ごめんなさい。ここのキノコを食べると膝が痛くなくって」

「わしの腰もいくぶんか良い」


「ダンジョン産の草とか薬草効果があるんでしたっけ」

「そうみたいね」


 そうなんだ。

 ダンジョン産の植物には魔力が含まれる。

 食べて魔力が吸収されるわけではないのだけど、体内にある間に回復効果をみせる。


 おかげで、キノコ家庭菜園は大賑わいだ。

 セーフゾーンの拡張が追い付かない。

 でもダンジョンの区画はまだ沢山残っている。


 僕は前髪を伸ばし始めた。

 散髪に行くのがめんどくさかったんじゃない。

 彼らの居た堪れないような視線が前髪があることで和らぐような気がするんだ。

 学校ではすっかり陰キャの危ない奴で通っている。

 葬式で暴れたのは不味かったと今でも思う。

 でも人が悲しんでる時にお金をだまし取るなんて最低だ。


「坊主、お前さん、お金に対してなんかあったのか。分からないのに会計報告を目を血まなこにして睨んでる」

「いろいろとあって」

「両親がいないんだってな。なんとなく分かるよ」


 そう言った大船おおぶねさんの目は優しさに溢れているように見えた。


「また裏切られるんじゃなくてと怖くて」

「そうか。俺はな。最低の男なんだ。事業に失敗して、酒におぼれ、ギャンブル三昧。そして離婚した。そして癌だ。末期だとよ」

「死ぬの」


 吐き気がこみ上げる。

 そして盛大に吐いた。


「坊主、しっかりしろ。どこか悪いのか」

「平気です。少し経てば落ち着くから」

「俺は離婚してから色々とあって心を入れ替えた。だが子供達とは会えない。俺の財産は坊主に継いでほしい。相続人に指定するつもりだ」

「ああ、もう。身勝手だよ。信用できると思ったらこれだよ。僕を残して去らないで、お願いだ。お金なんかどうでもいい。高いポーションでもなんで使いなよ。ツケにしてあげる」

「駄目なんだ。エリクサーでもあれば助かるが、あれはオークションでしか手に入らない。金持ちが買い占めている。落札したら命を狙われるぞ」

「なんでこんなに糞なんだ」

「ひとつ考えた。モンスターが死んで坊主のスキルで生き返るよな。あれを俺にやっちゃくれないか」

「えっ。出来ないよ」

「やるんだよ」

「考えさせて」

「ああ、坊主だけが俺の救いかも知れないんだ」


 重いよ。

 僕が背負うには重すぎる。

 命を何だと思っているんだ。


 ああ、なんでみんな死ぬの。

 分かったよ。

 大船おおぶねさんが病院で死んだらスキルを使う。

 正しいか間違っているか分からない。

 でも死んで欲しくない。


 リフォームして生き返ってまだ人間と呼べるかは怪しいけど。

 僕は大船おおぶねさんのことを頭から振り払うように、セーフゾーンの拡張作業に没頭して、クマ耳スライムを量産した。


「坊主、2階層を見てみないか」


 次の日、大船おおぶねさんにそう言われた。


「はい」


 ボス部屋の位置は判明している。

 大体歩いて一時間だ。

 護衛にクマ耳スライムを引き連れて、1階層のボス部屋に入る。

 ボスはバランスボールぐらいのスライムだったが、スコップで削ってクマ耳にリフォームした。

 ドロップ品はポーションだった。

 1階層ではどうせ安いのだろう。


 ポータルがあったので登録してから、2階層に降りる。

 2階層は草原だった。


 角の生えたウサギが何匹もいる。

 ホーンラビットだろう。


「坊主、ここを開拓してみたいが、良いか」

「モンスターとリスポーンを何とかすればできると思います。でも広いですよ。区がひとつ分ぐらいありそうです」

「ゆっくりとやればいいさ。俺は駄目かも知れないが、坊主の時間は残っている」


 吐き気を少し感じた。


「きゅん」


 鳴きながら向かってきたホーンラビットはクマ耳スライムに滅多打ちされた。

 数の暴力には敵わない。

 死骸をみると吐き気が。


「【リフォーム】」


 できたウサギは、猫口の猫耳。

 角は取れて転がっている。

 ホーンラビットはキャットラビットになった。


 角も素材になるんだよな。

 素材を採って味方になる実に良いね。

 クマ耳スライムが、スボンの裾を引っ張る。


 何だ。


「ぴきゅ」


 分からん。


「坊主、もしかして、ホーンラビットが角を残したから悔しいんじゃないか」

「そうかな?」


 クマ耳スライムが頷いている。

 でも、スライムに角なんかないよ。

 どうすれば。


「太ったスライムいるよな」

「はい、だんだん大きくなりますね」

「太ったのを削れば良い。スライムの体液は素材になるだろう」


 クマ耳スライムが左右に揺れる。

 違うのか。


「体液でない素材を残したいのか」


 クマ耳スライムが頷く。

 殺したくはないし。

 とりあえずやってみるか。


「【リフォーム】」


 スライムから体液と魔石の欠片が採れた。

 一度リフォームすると死骸でなくてもリフォームできるという感触があったからだ。


 クマ耳スライム達が自分達もやってと詰め寄ってきた。

 うん順番だ。


 魔石も大きくなるんだな。

 ボスの魔石はひと際大きいから、育つとあんな感じになるのかな。


 出荷品にスライムの体液と魔石が加わった。


「坊主、ハンター登録しないか。素材を納入すれば実績になるぞ」

「でも庭のダンジョンがばれるんじゃ」

「偽名で登録しろよ。最近は芸能活動するハンターも珍しくない。やつら偽名というか芸名で登録しているぞ」

「じゃあ登録してみます」

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