第59話 お化け屋敷

 第8階層の探索、ニーズヘッグとサラマンダーがゴブリンほどのザコ敵のようだ。

 中ボスはエルダートレントだった。

 でかい、とにかくでかい。

 枝の端から端まで1キロ近くありそうだ。

 動かないけど。

 ただ、緑を操るので、周囲がみんな敵。


 ジャングルを切り開くために用意したチェーンソーが大活躍。

 エルダートレントの脳であるコアを拝島はいじまさんがなんとか撃ち抜いて終わった。

 生き物はリフォームできないから俺は何もすることがなかった。


 ケツァルコアトルと、リフォームした青サラマンダーの大軍が代わりに活躍してくれた。

 まあ、じわじわ攻めれば敵ではない。


 エルダートレントはリフォームしてピノキオみたいに鼻を長く伸ばした。

 なんとなく愛嬌がある。


 もう新手の敵はいないだろうな。

 攻略が見えた。

 後はボス部屋の位置を探り出すだけだ。


 お化け屋敷が1週間で完成。

 だって幽霊は全部ダンジョンのトラップだから、工事がほとんど要らない。

 照明を引くのが手間だっただけだ。


「絶対に手を離さないで」

藤沢ふじさわは怖がりだな」


 でも藤沢ふじさわはニコニコしている。

 だよね。

 発案者だから、恐がらないよね。


「絶対よ」

「念を押さなくても」


 藤沢ふじさわとお化け屋敷に足を踏み入れる。

 足が何かを踏んだ。

 幽霊の幻が現れる。

 あれっ、音はどうした?

 事前の設計では音がするはず。


 少し動くと、時間差で『ギャー』という音声が流れた。

 ダンジョンのトラップのスイッチと、音声のスイッチは別物だから、片方しか踏んでないってことがあるんだな。

 かなり間抜けだ。


「キヤッ」


 藤沢ふじさわが俺に抱きつく。

 顔が笑っている。

 こいつ、恐がったふりしているな。


 うん、スイッチの問題は幻の方に合わせるか。

 スマホで幽霊の幻を撮影。

 写ってるってことは顔認証スイッチで音声を流せば良い。

 幽霊と寸分たがわない人が顔認証スイッチに映ったら誤動作するだろうけど、そんなことは起きないはずだ。


 ちょっとハイテクになるからお金がかかるけど、すぐに元は取れるはず。

 進む方向を表している矢印が無粋だな。

 これも幻でやろう。

 幽霊の手が指差したり、手招きしたりする。

 これなら雰囲気を壊さない。


「うん、改善点は見えたな」

「ちょっと、デートなんだから楽しまないと」

「いやオープン前の視察だよ」

「ちぇっ」


「今度、仲の良い友達と来いよ。無料券を上げるから」

「男友達と来たりして」

「それならそれでも良い。まだ俺達正式に恋人じゃないから」

「うそうそ、さっきの嘘」


「ギャー」


 幽霊が叫び声を上げる。


「うるさい」


 抱き着くのはやめたんだな。

 だよな。

 あざとい感じはちょっと嫌だ。


 それと、幻が動かないってのも減点ポイントだな。

 顔面に幽霊の幻が激突して通り抜けたら大迫力だ。

 這いずる幽霊とかもいいな。

 アニメーションできたらいいのに。

 コマ送りなら可能だ。

 手間だけど。


 専門家にアニメーションのイメージを作って貰って俺が再現する形にしよう。

 お金をケチると良い物はできない。


 風の演出はなかなかだ。

 昔あった紐の先にこんにゃくとかも良いかも。

 ダンジョンのトラップで槍を突き出す奴がある。

 あれの応用で色々とできるはずだ。

 骸骨の手が突き出るとかね。

 幻だけじゃ詰まらないから。


 クマ耳スライムをリフォームして、水子とかやってもらおうかな。

 足元を這われると怖いに違いない。

 リフォームする時は蛍光塗料を混ぜよう。

 ぼんやり光って良い感じになりそうだ。


「ねえ、楽しくないんだけど」

「作り手は楽しめないんだ。ゲームだって作り手はしんどいだけだと言ってたのを聞いたことがある」

「意識の持ちようか。遊びに来ていると思ったら楽しめるけど、仕事だと楽しめないのね。私なんかお化け屋敷のテストと聞いて、昨日はワクワクして眠れなかったのに」

「まあね。裏の裏まで知っていると純粋に楽しめない。藤沢ふじさわとしては何か意見はない?」


「そうね。動かない幻だとチープよね」

「そこはなんとかアニメーションするつもり」

「ストーリーがないのよ」

「そこはプロに監修を頼むしかないね。ストーリーが必要なのか。ストーリーを作るように指示してみよう」

「舞台設定もね」

「うんうん、プロに頼もう」


「鍵盤が自動的に動いて曲を奏でるピアノとかあったでしょ。ああいうのを暗闇に置いたら怖いかも」

「いいね」

「スキルがあるんだから、精神魔法の使い手とか雇うのはどう」

「なるほど、寒気を起こしたりするんだね」

「触られてないのに触られた感とか」

「うんうん」


 改善点がたくさん出た。

 ただ怖すぎると心臓発作を起こすと言われて、それは不味いと思った。

 心臓に病気がある人は入らない下さいだけじゃ駄目だな。


 怖がりな人がちょっと怖いと思うぐらいがちょうど良いのかも。


「これなら、光線銃を使ったアトラクションの方が良いかも」

「怖さはほどほどの幽霊退治ね。それは大きな路線変更だけど、別のアトラクションとして良いかも」


 改善点をレポートに纏めて香川かがわさんに送った。

 心臓の問題は、事前にスキルによるチェックを受けてもらうこととした。

 医者のそういうスキル持ちがいるそうだ。

 さすが香川かがわさん、顔が広い。

 遊びにきて病気も分かるなら、一石二鳥だ。

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