第70話 エリクサー臓器売買

 エリクサー臓器売買財団から手紙が来た。

 何でも尻手しってを手術するらしい。

 臓器を抜き取ってエリクサーを使うと高い確率で廃人になる。

 お別れ会をするのが通例のようだ。


 手術を行う病院に行くと拘束具を着けられた尻手しってが寝ていた。


「暴れるので拘束具を使ってます」

「そうだろうね。廃人になるのは誰も嫌だ」

つくる、私を笑いにきたのか。いいやそんなことはどうでも良い。頼むから借金を立て替えてくれ。頼むこの通りだ」

「ええと、もうあなたとは赤の他人だ。ただこの顛末を見届ける責任があると思って来たんだ」

「何で誰も助けてくれない。妻も息子もなぜ来ない」


「いや、自業自得でしょ。遊びまくっていたんだよね」

「お前も大人になると分る。ストレスが溜まるんだ。適度に息抜きしないとやってられない。なあ助けてくれよ」

「大人なんだから、けじめはつけようよ」

「嫌だ嫌だ嫌だ」


「時間です」

「俺はもう話すことはないから、やってやって」


 顛末を見届けるということで、手術室が展望できる部屋に入る。

 身内でも見ない人が多いらしい。

 臓器を貰う人の身内が見にくることもあるようだけど。

 麻酔が打たれ、拘束具が切り裂かれる。


 消毒したら手術の開始だ。

 メスで大きく切り裂かれ次々に臓器が運ばれる。

 最後に心臓が取られ、エリクサーが使われた。


「がああああああああああああああ」


 声が聞こえてきた。

 唸り声とも叫び声とも分からない声は続く。

 そして、笑い声が響いてきた。


 尻手しってが笑っている。

 もう正常な思考はできないのだろうな。

 あの両親の死の時に、親身になって俺のために動いてくれたら違った結末もあったのに。

 今回のことで罪悪感は微塵もない。

 因果応報だ。

 さあ終わったことだ、忘れよう。


 仕事だ仕事。

 エリクサー化粧品は製品が多過ぎて全部は試せない。

 それに女性向けの商品が大半だ。

 俺に求められているのは新素材。

 化粧品の新たな材料だ。

 砂関係は石鹸みたいな物に使うらしい。


 第9階層で水をダンジョンに作らせたら、きっと高濃度の魔力と魔力物質を含んでいるのだろう。

 なんか肌を赤ん坊の時まで再生させますとか、そういう物質があれば良いんだけど。

 エリクサー並みの化粧品か。


 まあ、そこまでいかなくても、エリクサーに繋がる第一歩ぐらいの製品でもいい。

 ポーションは自己治癒を高めているって感じなんだよね。

 再生とか生き返りじゃない。


 リフォームして魔法静物になっている人はリフォームで肌を赤ん坊みたいに出来るけど、これはある意味反則だからやりたくない。

 人類の大半が魔法静物になるなんて未来は嫌だ。

 たぶん、そうなると戦争になるんだろうな。

 人間は別の人種を差別する。

 これはどうしようもない。

 だから、魔法静物の存在は隠す。


 ステータスが他人に見られない仕様で良かった。

 思考が逸れた。

 化粧品の新素材だった。


 メタルスコーピオンの甲殻を染料にできないかな。

 メタリックな感じの物ができると良いんだけど。

 実験は成功した。

 ただ、アレルギーを起こす人がいるらしい。

 でもこれはすべての化粧品に当てはまるので問題はない。


 何万人かに一人はアレルギーということはある。

 メタリック質感の口紅やマニキュアなどが開発された。

 ただ、猫サソリをリフォームして削るので沢山は採れない。

 かなりの高級品になる。


 肌を再生させる化粧品のきっかけのアイデアはない。

 これができたら劣化エリクサーだからね。

 生きている人にリフォームができたらいいのに。

 でもその場合は俺が医師免許を取らないといけなくなる。

 レベルが上がって記憶力は物凄く良くなっているので医大の試験に通りそう。


 まあ、寄付金をたくさんすると成績に下駄を履かせられるという噂もあるけど。

 将来的なことはともかく。

 再生ね。


 こう考えたらどうだ。

 魔力物質が細胞の代わりをする。

 再生ではないけど欠損が治る。

 物質を細胞に変えるのか。

 疑似細胞だな。


 人の姿を真似るモンスターがいる。

 魔力物質でそれを実現しているはずだ。

 どんな原理だろう。

 見た肉体をコピーしているのか。


 赤ん坊の肌をコピーできれば。

 肌コピー魔力物質。

 これの波長を突き止めないと。

 チューニングして、スライムに植え付けてみよう。


 スライムなら毒も効かなさそうだからな。

 苦労の末にできたよ、肌コピー魔力物質。


 ただ、良いこともあるふわふわドラゴンに猫の毛のコピーを植え付けたら、ふわふわが本物になったのだ。

 おお、ふわふわ万歳。


 この肌コピー魔力物質は色々と役に立つぞ。

 ただ内臓の働きはしない。

 うんそこまでは求めてない。

 塗ると肌のダメージを赤ん坊の肌に置き換えてくれる化粧品が完成。


 我ながら凄い物を作った。

 副作用の試験がまだなので、動物実験の段階だ。

 たぶん、結構時間掛かると思う。

 細胞が置き換わって時にどうなるかデータを取らないといけない。

 モンスターと人間は違うからね。


「肌コピー魔力物質は医療の役に立ちそうです」

「実用化には何年も時間が掛かりそうだけど」

「仕方ありません。未知の物質ですから。魔力物質が体に与える影響はまだ分かってないのです。ポーションだって副作用があるかも知れません。ただ魔力はタンパク質ではなくエネルギーです。魔力物質は糖分に魔力が染み込んで変質を起こすようです。糖分なので副作用は少ないと言われています」


 一仕事終えた気分だ。

 後は社員が形にしてくれるだろう。

 魔力物質の増産が急がれる。

 分かっているよ、県外にポータルだね。

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