第20話 ヒロイン

「おはよう」


 いつもより、おはようと返ってくる人数が多い。


「お前、大丈夫か。影薄いぞ」


 本郷ほんごうが寄って来て心配そうに言った。


「他人から見るとどんな感じ?」

「前はなんというかただ者ではない陰キャって感じだ。猛犬を前にした感じかな。今は誰も存在に気づかない陰キャ。親しみやすくはやったけどな」

「イメチェンしたんだよ」

「変わり過ぎだろう。どんなイメチェンだ」

「威圧を抑えるかな」


 昼休み。

 購買でパンを買って、体育館裏にきた。


「いいから俺と付き合いなよ。俺はこの学校で番を張っているんだぜ」

「嫌です。不良とは付き合えません」


 これは助けないと、虐めではないが、虐めみたいなものだ。


「嫌がっているだろ。諦めろよ」

「この根暗野郎がでしゃばるな。痛い目に遭いたいか」

「俺って魔法契約しているから、虐め現場を見ちゃうと、助けに入らないといけない」

「虐めじゃないぜ。愛の告白だ。分かったらどっかへ行け」

「魔法契約ってのは本人がどう思っているかなんだよ。俺は虐めだと認定した」

「ごちゃごちゃうるさいな。俺はレベルが20もあるハンターだ」

「それが?」


 不良は殴りかかってきた。

 レベル差が倍だとハエが止まるようなパンチに思える。

 俺は軽々と受け止めた。

 そして優しく捻った。

 転がされる不良。


「ぐわっ、やりやがったな。武道の上段者か」

「まあな。レベル差があっても。言わなくても分かるだろ」

「くそっ、覚えていろよ」


「ありがとう。あなた中間テストで10位以内でしたよね」

「まあね。自慢できるほどじゃないけど」

「好きです。付き合って下さい」

「いきなりだね」


「この出会いは運命」

「まあ、ドラマみたいだとは思うけど。名前も聞いてないし」

藤沢ふじさわ桃花とうかです。ニックネームはピンク。隣のクラスの窓際の一番後ろの席です」

「おう」


 ぐいぐい来るな。

 可愛い子たけど、普段、香川かがわさん見ていると、少し可愛い止まりになる。


「一緒にお昼ご飯たべましょう。いまお弁当持ってきます。ここから去らないで下さい。もし戻って来ていなかったら泣いちゃいます」

「分かったよ」


 あー、ちょっとめんどうなことになったな。

 俺がダンジョンの所有者だと知られたら、藤沢ふじさわさんが危険な目に遭う。

 それをどうやって伝えるかだ。

 金持ちではあるから、親が死んで、100億を超えるような遺産が転がり込んで来た。

 これかな。

 お金が入ったのは死んでからかなりあとだけど、ダンジョンも両親の遺産みたいなものだ。


「はぁはぁ、お待たせ」

「待ってないよ。言っておきたいことがある。俺は両親から100億を超えるような遺産を引き継いだ。遺産を狙っている奴もいるだろう。俺と付き合うと君が危険だ」

「分かりました。私のレベルを上げれば、解決ですね。強くなって美人になる、一石二鳥です。恋人になるのは高校まで待ちます。今はお昼ご飯だけを一緒に食べて下さい」

「それぐらいなら」


 そのうち、彼女の恋も覚めるだろう。

 授業は退屈なだけだった。

 レベルが上がって記憶力が強化されているから、先生の説明を1回聞けばすぐに理解できる。

 理解力も上がっているんだろうね。


 でも授業の時間は大切だ。

 リラックスできる時間だからね。

 ダンジョンでの仕事は気が抜けない。

 とくに探索の時間は。


 こういう授業の何気なさに癒される。

 学校のみんなは俺が資産1000億を超えるとは知らない。

 レベルが上がると金銭面でのプレッシャーにも強くなるみたいだ。

 多少の金額では驚かなくなってきた。

 香川かがわさんが100億の設備投資をしましたという報告にもビビらなくなっている。


 校門を出ると護衛の人が待っていた。

 一緒に車に乗り込む。

 いつの間にか運転手付きの車を使うようになってしまった。


 藤沢ふじさわさんとか見てないよね。

 俺が帰る時間帯に帰るのは部活をしてない奴だけだ。

 かならずどれかの部活に所属してないといけない。

 俺は数学研究会という部活に所属している。

 高校の教科書を読んで、そこに書いてある定理の証明をレポートに書いて定期的に出している。

 顧問の先生は何も言わない。

 数学研究会に所属してて何も活動してない生徒もいるぐらいだ。

 そういう生徒は文化祭で頑張ることになっている。


 とにかく俺が帰る時間帯に帰る奴はほとんどいない。

 車に乗り込む所を見られてもどうってことはない。


 第2階層のセーフゾーンの拡張をやって討伐だ。

 第4階層、ザコオークはドリル槍で楽勝になった。

 ただ、地中に石がないと出来ない。


 森林フィールドは土の割合が多い。

 リフォームスキルはフィールドによって強さが変わる。

 今後改善したい点だ。


 香川かがわさんならきっと答えを知っているに違いない。

 でも聞いてばかりじゃ俺が成長しない。

 自分で考えないと。


 押して駄目なら引いてみな。

 石がないなら持って来る。

 これが正解かな。


 槍ドリルを作るなら頑丈な素材が良い。

 金属だとタングステンとかチタンとか色々とあるけど、硬いのはなんと言っても魔石だ。

 魔力が含まれた物質は大体において堅くなる。

 ほとんどが水のスライムでさえゴムの硬さになる。

 オークの皮膚が硬いのもこの現象だ。


 で魔力の塊の魔石は凄い硬い。


「【リフォーム】、魔石槍ドリル」


 俺の足元にある魔石がオークの下に移動して、槍ドリルになって突き刺さる。

 問題は攻撃しているのが丸わかりだ。

 避けられる危険性がある。


 さっきのオークは猫顔オークと組み合っていたから倒せた。

 地中を進ませるとスピードが落ちる。

 奇襲するなら地中を進ませる。

 場合によって使い分けるべきだな。


 まあ、釘付けにするためやけん制するために、前衛がいるんだけど。

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