第19話 道路整備事業

 やっと第1階層のリフォームが終わった。

 苦節半年あまり。

 もう第1階層ではモンスターは湧かないし、キノコの成長速度は何倍にもなっている。

 キノコ家庭菜園の分譲は1万件で締め切った。

 本郷ほんごう辺りには追加で売ってやらないことはないけど。

 1万坪だと第1階層の約0.1%。

 余った土地は大船おおぶねキノコ農園で管理する。


 大船おおぶねさんは第1階層に培地というのを持ち込んだ。

 これはおが屑などを固めたものでキノコが繁殖し易い。

 ダンジョンキノコの種も作った。

 これを埋め込むことでキノコがより繁殖する。

 第1階層の土より良いってことなのだろう。


 この培地をダンジョンに吸収させなくさせるリフォームは手間だ。

 ダンジョンと同化しないといけない。

 でも味が良くなるなら、やらないわけにはいかない。


「坊主、大船おおぶねキノコ農園を拡大するのはいいが、俺はキノコ農家を駆逐したい訳じゃない」

「不味いのかな」

「値段、味、数量、既存のキノコ農家は太刀打ちできない」

「路頭に迷わせるのは趣味じゃない」

「うちで積極的に雇うっていうんで良いか」

「ええ」

「それで全国にいるキノコ農家を救うにはポータルが地方にも要る。出勤するのに地方から東京はつらいからな」

「うはっ」


 めまいがした。

 ダンジョンをそこまで伸ばすのは大変だ。


「出荷調整だな。とりあえず近場からやっていくとしよう」

「うん、近場のスーパーからだね。そして近場のキノコ農家を吸収していく」


 ポータルの設置は大変だ。

 いや道をダンジョンと同化していけば良いんだけど。

 区の面積の何倍だ?

 幸いなのは道だけで良いってことだけど。

 それと道をダンジョン化すると道に修復機能が備わる。

 公共事業として金を貰わないと。


 香川かがわさん呼ばないと。


「道路整備事業ですか」

「うん」

「全国規模展開ですと、財閥が作れますね」

「俺の魔力が足りないから、全国津々浦々は無理だよ。とりあえず近場から」

「メンテナンス要らずの道路ですか、建築会社が悲鳴を上げそうです」

「彼らにはポータルの管理を任そうと思う」

「利益を配分してあげるのですね。お優しいことです。合弁会社を幾つも作っていきましょう」


 ちょっと疲れた。

 第1階層で、クマ耳スライムとゴブリン妖精と、オーク妖精が働くのを見て癒される。


 いまのところ傘下の企業は大船おおぶねキノコ農園。

 魔力スパリゾート。

 ダンジョン不動産。

 エリクサー化粧品。

 エリクサー健康食品。

 オークミート食品。

 これは、オークを小さくした時に出た肉を売っている。

 小さくしたオークはそのうち元の大きさに戻ろうとするから、定期的に削らないと。

 そして、ポータル道路整備と戸塚資産管理。


 もう従業員の数は把握しきれてない。

 上場企業並みになっているはず。

 その大株主が俺。

 前の俺だったら信じないと思う。


 俺の資産は1000億を超えている。

 香川かがわさんに頼んで資産管理会社を作ってもらった。

 だからノータッチ。

 日々の少しの小遣いが貰えていれば十分だ。


 夜の8時から9時までの間は道路整備だ。

 とにかく歩いて道路をダンジョン化して、魔力が切れたら、温泉に入る。

 その繰り返し。

 中学に入る時は少しぽっちゃりだったけど、今はその面影もない。

 腹筋なんか6つに割れている。

 もっともレベルが上がれば運動しなくてもそうなる。


「君、いいね。根暗ルックだけど、オーラがある。整えたら、きっと良いよ。芸能人にならないか」


 スカウトに声を掛けられた。

 道路をダンジョン化するので忙しいんだよ。

 香川かがわさんが付けてくれた護衛が寄って来た。


「君は何だ? 暴力はいけない」

「ええと知り合いが付けてくれた護衛。金なら腐るほどあるから」

「そういううちの子なのか。もしかして魔力が高い?」

「まあね」

「レベル上げの英才教育を受けているのか。興味があったら電話して」


 そう言ってスカウトは名刺を渡して、慌ただしく去っていった。

 これ以上スケジュールが増えたら死ぬ。

 睡眠時間を減らすのは嫌だ。


 香川かがわさんに相談かな。


「スカウトに声を掛けられたんだ」

「芸能活動に興味がおありなら良い事務所を紹介しますよ」

「やめてよ。いまの仕事でもアップアップなんだから」

「魔力をコントロールすることですね。魔力は想いに応える力。漏らさないように願えばいいのです。私がやってみせます」


 香川かがわさんが神々しく見えて圧を感じる。

 女神様みたいだ。


「これが放出した状態です。ここから漏れをなくします」


 香川かがわさんが普通の美人になった。

 神々しさと圧力は感じない。


「分かった。やってみる。どう」

「【マジックビジョン】。1割減というところですね」


 30分ほどやってコツを掴んだ。

 ただ維持するのは大変だ。

 気を抜くと元に戻ってしまう。

 いまは外に出てる間だけで良いか。

 学校でも魔力を絞らないと。

 学校でアイドル扱いされるのはちょっと違う。

 それにレベルが高いのが分かると面倒を呼ぶ気がする。


 ハンターのクランとかの勧誘が凄いだろうな。

 ヤクザみたいなクランもあると聞いている。


 面倒は少ない方がいい。

 さあ、道路のダンジョン化に戻ろう。


 道路をダンジョン化しているとパトカーが停まった。

 警官が降りて来て。


「君、どこの中学だ。こんな夜にうろついていたら良くないぞ」

「護衛の人、説明をお願い」


「あー、この方は道路を補強するスキルをお持ちで、いまアルバイト中だ」


 護衛が説明してくれた。


「労働基準法に反しているのでは」

「まだ午後10時になってませんよ」


 法律ではそうなっているみたいだ。


「なるべくならして欲しくないな」

「お金欲しいので、アルバイトだよ」

「しかたないな。気を付けなさい」


 警官が去っていった。

 護衛の人がいない駄目だな。

 そうだ犬を借りてこよう。

 散歩なら文句は言われないだろう。

 うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る