第21話 ハニートラップ

 オークミート株式会社、最近できた会社だ。

 俺が株の大半を持っている。

 オーク肉は需要が高い。

 魔力を含んでるからだ。

 美味くて健康に良い。


 討伐はとりあえず猫顔オークにしておいて、第2階層の処理施設に連れて来て、子供ほどの妖精オークに作り替える。

 この時に大量の肉を落とすわけだ。

 処理施設で肉を加工してスーパーに卸す。

 そのうち畜産農家の経営も圧迫するようになるんだろうか。


 妖精オークにはクズキノコを食べさせている。

 すると大きくなって太るのが早い。

 何度でも肉が採れるのは反則だよね。

 畜産農家を吸収したらなんの仕事を振ろうか。

 妖精オークの管理は要らないぞ。


 そうだ、第4階層を切り開いて、畜産をやれば良い。

 ダンジョンの草を食った牛とかは美味い肉になるに違いない。

 でもそれだけじゃなぁ。


 ああ、魔石槍ドリルの時に学習した。

 押して駄目なら引いてみな。

 ないなら持って来る。

 どこから?

 決まっている他のダンジョンからだ。

 ボア系統のモンスターがいる。

 リフォームしてうちのダンジョンに連れてくればいい。

 ボア系統なら豚とそんなに変わりないから、育てるのも難しくないだろう。

 牛のモンスターもいたな。

 ミノタウルスじゃなくてカウ系統とバッファロー系統とかの。

 良いんじゃないか。


 そのうち考えてみよう。

 いまはまだ畜産農家を圧迫するほどの規模じゃない。


 さあ、探索の時間だ。

 進むと3メートルはあるオークが、武骨な大剣を持ってザコオークの集団を率いている。


 この階層の中ボスはオークリーダーか。

 いや、オークファイターかも。

 どちらにしても3メートルを超えて、2メートルはある剣を持っていると殺傷範囲は広い。


「みんな、ザコオークを片付けて」

「おう」

「任せとけ」

「私もザコオークを狙撃します」


 戦闘が始まった。


「【リフォーム】」


 魔石を地中で進ませる。

 見えないから難しい。

 かなり集中力が要る。


 他の人の戦闘風景は頭から閉め出された。

 一旦中断して。


「【リフォーム】地形把握」


 魔石の位置とオークファイターの位置を確かめて軌道修正する。

 今だ。


「魔石槍ドリル」

「ぷぎぃ」


 悲鳴を上げてオークファイターが串刺しになった。

 ザコオークも討ち取られた。


 地中を進ませるのは遅い。

 これを解決するのは先にリフォームスキルでトンネルを掘るだな。

 こうしておけば魔石の移動が早い。


 探索を終え、道路のダンジョン化だ。


戸塚とつか君」

「あっ、藤沢ふじさわさん、こんばんは」

「こんばんは。ふふふ、戸塚とつか君、隠し事しているでしょ」

「してないよ」


「車で帰ったでしょ。それも黒塗りの高級外車」

「見てたの」

「ええ、ばっちり。しかもその車はポータルの所に停まってた」

「うん、ポータルからダンジョンに行ったからね。キノコ家庭菜園分譲って知らない」

「知ってるわ。調べたから。ずばり、あなたそこの区画をたくさん買って、キノコ長者になったのね。遺産があるって言ってたから可能でしょ」

「だいたいは合ってる。でどうしたいの?」

「温泉のフリーパスが欲しい。ただでとは言わないわ。通常価格で良い。余っているわよね。キノコ菜園買ったんだから、温泉のフリーパスもたくさん買っているはず」


 確かに、香川かがわさんから貰ったのが余っている。

 俺は顔パスだから使わないし、パーティメンバーも顔パスだ。

 本郷ほんごうに渡すのはどうかと思ったから渡してない。

 渡す相手もいないし売ってあげてもいいな。


「うん譲ってあげる。何に使うの?」

「ダンジョンに入ると生傷が絶えないのよ。温泉で治るみたいだし」

「危ないことしてほしくないな」

「今はスライムに体当たりされているだけだから、打撲ぐらいね」


 懐かしい俺もスライムに体当たりされたっけ。

 遥昔のように思える。


「ああ、俺が持っているポーションも上げるよ。明日学校に持って来る」


 ドロップ品や宝箱から出たのがわんさかある。

 売っても安いから、売らなかったんだ。

 ちょっと手を切ったりした時に使えればと思ってた。

 でもレベルが上がると器用さも上がる。

 そういうドジは最近してない。


「ありがと」

「いいよ低級ポーションだから、絆創膏みたいなものだし」

「銀行の口座番号教えて。フリーパスの代金100万円を振り込むから」

「うん」


 キャッシュカードを取り出して、その番号をメモして渡した。


「わん」

「犬が焦れているから、もう行くね」

「じゃあまた明日、お昼休みに会いましょ」

「またね。気をつけて帰って」


 ふぅ、ばれないかヒヤヒヤした。

 それにしてもフリーパス高いんだな。

 まあ、永久的にスパの入浴がただでできるけども。

 オプションとか食べ物とかは別料金だ。


 道路の仕事を終え帰ってひとっ風呂浴びた。


「時間外にあなたの銀行預金の残高照会が第三者にされました。お心当たりは?」


 香川かがわさんが報告にきた。


「あるような、ないような。道路補強の時に同学年の生徒と会って銀行口座を教えた」

「名前は?」

藤沢ふじさわ桃花とうか

「犯行を行った者は、藤沢ふじさわ義孝よしたか桃花とうかの父親です。銀行の支店長ですね。ハニートラップの可能性ありです」


 まさか。

 中学生でハニートラップ要員。

 しかも自分の娘ってあり得ないだろう。


 スマホが鳴った。

 知らない番号だ。


「もしもし」

桃花とうかです。突然ごめん。父にばれちゃって。でも父が悔しいが合格だって」


 電話の相手は藤沢ふじさわさん。

 意味が分からない。

 ええと。


「何がばれたの?」


 まずはそれからだ。


「フリーパスの代金を振り込もうとしたのがばれたの」

「お父さんに?」


 よく考えたら100万円は大金だ。

 お年玉と小遣いを貯めてもその金額には届かないだろう。


「ええ」

「怒られただろう」

「ううん、よくやったって褒められた。フリーパスはプレミアがついて300万円以上するから。差額もあとで払うんだぞって言われたけど」

「うん、まあ良いか。それだけ?」

「ううん、ダンジョンに通っているのもばれた」

「叱られた」

「魔力こそ全てだ。もっとやりなさいって言われた」


 まあこれも分かる。

 エリートになりたかったら、高魔力は絶対条件だ。

 変わってる親だとは思うけど。


「何が合格なの?」

「あなたの預金残高を父が知って結婚相手として合格だって。悔しい、血の涙を流すほど悔しいとも言っていたけど」

「分かったよ。明日学校で」


 電話を切った。


香川かがわさん、ハニートラップであるような、ないような」

「どういうことですか」


 電話の内容を伝えた。


「娘を持つ父親の暴走ですか」

「そうみたい」


 ハニートラップでなくて良かったよ。

 もしそうなら人間不信になってたところだ。

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