第8話 男子三日

 正直言ってハンター稼業を舐めていた。

 クマ耳スライムとキャットラビットの集団がいれば余裕だと。

 馬鹿だな。

 上位ハンターになれないでみんな挫折していく。

 その理由を深く考えなかった。

 自分の怪我や才能のなさに挫折する者もいるだろう。

 しかし、仲間の死を乗り越えられない人もたくさんいる。

 なぜかそんな気がした。

 他人の死を恐れて戦っているのは僕だけじゃない。

 僕のスキルは大船おおぶねさんを生き返らせたけど、腐らないゾンビみたいな物だ。


「坊主、なんて顔してる。俺は後悔してないぜ。痛みもなくピンピンしてる。ほら食い物の味だって感じられる」


 そう言って、大船おおぶねさんは栄養バーを齧った。

 その顔に嘘はない。

 生きていられる喜びで満ちている。

 僕は大船おおぶねさんは人間から付喪神になった。

 そう思って折り合いをつけることにした。


 お腹が減ったのに気づいた。

 少しフラフラする。


 栄養バーを貪り食う。

 ふぅ、お腹一杯だ。


「僕迷っています。ハンターを続けるかどうか」

「そうだな。きっとこれからも仲間ができて傷ついて倒れるだろう」

「はい、復活できれば良いですが、復活できなかったら再びトラウマに支配されるんじゃないかと」

「どう考えるかは坊主次第だ。強くなって守りたい人を守る。そう考えたらハンターは続けないといけない」

「僕は……」


 決断することが出来なかった。

 大船おおぶねさんは生き返ったけど、あのまま死んでたら僕はきっと壊れていたに違いない。

 さっきは少し強くなったって思ったが、まだ僕は弱いままだ。

 ハンターを続けたらトラウマも克服できるのかな。


「坊主がハンターを続けるのなら、俺が坊主の剣と盾になってやる」


 僕は決断する岐路に立っているようだ。

 どうせ死ぬなら前のめりに死のう。


「ハンター続けます。お願いします」

「少し男の顔になったな。じゃあまず一人称を僕から俺だ。そしてタメ口で話せ」

「生意気だと思われます」

「いいか。敬語を使うってことは私はあなたより立場が下だと言っている。もし人が下手に出ないことを許せない奴がいたら、そいつは人に上下の区別をつけてるってことだ。人に上下の区別をつける、気持ち悪くないか」

「言われてみればそうです。じゃなかったそうだね」

「それでいい」

「だいぶ魔力も増えたから、大規模にセーフゾーンを作りたいと思う」

「やってみろ」

「【リフォーム】」


 1メートルの厚さの壁が地面から天井までせり上がった。

 大船おおぶねさんは叩いて強度を確かめてる。


「いいな。これなら赤いのも防げる」

「実際にやってみる。頼む」


「きゅー」


 赤いキャットラビットが壁に突進する。

 壁が少し削られたがすぐに修復された。

 どうやら、持ちこたえられるようだ。


「キラーラビット狩りをしたいな」

「坊主の好きにしたらいい」

「じゃあやるか」


 ホーンラビットを倒して、復活させながら進んだ。

 いた赤い色が見えた。

 今度は油断しない。


「【リフォーム】」


 キラーラビットの周りを土の壁で囲った。

 そして段々と狭めて行く。


 空気穴から断末魔の悲鳴が聞こえた。

 吐き気はそれほどではない。


「【リフォーム】」


 土の塊が崩れ、中から赤いキャットラビットが現れた。

 俺にもできるんだ。

 戦える。

 後ろで吐いていた僕にはさようなら、今の俺は前線に立つ戦士だ。


 キラーラビットを10匹狩った。


――――――――――――――――――――――――

名前:戸塚とつかつくる

レベル:23/65536

魔力:102/237

スキル:1/1

  リフォーム

――――――――――――――――――――――――


 レベルは簡単に20を超えた。

 壁は突き破ったようだ。


 戯れに庭付きプール付きの一戸建てが一軒建つぐらいの区画を壁で覆った。

 扉は鉄製を付けないとだね。


 第2階層の分譲も始められそうだ。


「どうせなら家建てちゃう」

「俺は色々と今までやってきたが、物になったのはキノコ採取だけだ。不動産はちょっとな。キノコ栽培場を切り売りするのと、一戸建てを売るのは違う」

「うーん、家を建てるのはリフォームスキルで何とかなりそうなんだよね」

「やらないという選択肢はないな。家庭菜園付き一戸建ては購入希望者殺到だぞ。年取ると土いじりがしたくなる人がいるからな。ここなら交通の便は良い」

大船おおぶねさんの仕事も多過ぎるし、幹部というかそういう人をヘッドハンティングする?」

「まあそうだろうな」


 困った時の橋本はしもとさんだ。

 区役所は終わっていたけど、会ってくれるらしい。

 夜8時台のファミリーレストランは家族連れで賑わっている。

 胸が少し痛んだ。


「こっちよ」


 橋本はしもとさんが手を上げながら声を立てた。


 向かいの席に座る。

 オーダーのベルを鳴らす。

 ほどなくして店員がやってきた。


「俺はコーヒーをアイスで。橋本はしもとさんは?」

「ではミルクティーをアイスで」


 店員が去って行った。


「給料に糸目はつけないから、有能な人を紹介して」

戸塚とつか君、顔つきが変わりましたね。前髪で隠れてますがオーラが違います」

「そう、自分では気づかないけど」


「男子三日ですかね。金に糸目をつけないのなら良い人がいますよ」


 どうやら良い人がいるらしい。

 配膳されたコーヒーを一気飲みした。

 冷たさに頭がキーンっとなった。

 でもそれが何か心地よかった。

 俺は成長したらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る