第124話『雪之城』




 かつて雪之城の派閥は屋上を溜まり場にしていたらしい。

 今もきっとそこを使っているはずということで俺たちは学校の屋上を目指した。

 二階の階段を上り、三階の踊り場に到達する。


 すると、そこには――


「へへっ、やっぱ来やがったか」

「ウヒヒヒ、待ってたぜ」

「そう簡単に雪之城サンのところに行けると思うなよぉ?」


 木刀、釘バット、鉄パイプ、スタンガンなどを持った二年生、三年生の不良たちがウジャウジャ待ち受けていた。


 おいおい、こいつら正気か?


 校舎内でこんな隠しようのない武器を持ち込んでやりたい放題するとかはっちゃけすぎじゃんよ……。


 せっかく大乱闘にならないようこっちは少人数で来てるっていうのにさぁ。


 仇討ちに燃えてた花園一派ですら俺を追い詰めるのは敷地外に出るまで待ってたぞ。


 それとも――


 そういう分別すらつかないやつらだから、現四天王の一派に入れずブラブラしてて雪之城の話に飛びついたのか?


 まあ、入れなかったのか入らなかったのか、そこんところは知らんが。





 さて、屋上に行くには四階と五階を通過しなくてはならない。


 この感じだと、上に行くまで結構な人数が待ち受けてそうだな……。


 手摺りのところからヒョイヒョイと顔を覗かせているやつらが見えることから、その予想は間違ってないはず。


「しんじょー、どうする?」


「全部相手にしてたらキリがないので俺が無力化させていきます」


 階段で長いことドカバキやってたら先生に見つかっちゃうしな。


 俺は雷魔法で不良たちを痺れさせながら普通に階段を上っていった。


「ぐぅ」

「な、なんだ……」

「あぐっ」


 電撃を浴びて力が入らなくなり、武器をガランガランと取り落とす不良たち。


 俺と鳥谷先輩は『マジか……新庄怜央が気迫だけで相手を倒せるって話は本当だったのか……』とか言ってへたり込む彼らの横を素通りして進んでいった。






 屋上の踊り場に辿り着いた俺と鳥谷先輩は屋上のドアの前に立っていた。


 俺たちが通ってきた背後の階段には一定間隔でピクンピクンしてる不良たちがいて汚いが気にしない。


「おし、この先に雪之城のヤローがいるはずだ! 準備はいいか、しんじょー?」


 そういえば屋上って普段は鍵がかかってるはずなんだけど……。

 合鍵でも無断で作って侵入してるんだろうか?

 なんて俺がぼんやり考えているうちに、


「雪之城! 覚悟しろぉ!」


 鳥谷先輩はバターンっと威勢よくドアを開けてさっさと乗り込んでしまった。

 ちょっと、ちょっとちょっと!

 俺も慌てて彼女の後を追う。


 屋上にはまた大勢の不良が待ち受けて――ということもなく。


 そこにいたのは意外にもたった一人だけだった。


 恐らく勝手に持ち込んだのだろうソファに腰掛け、これまた勝手に持ち込んだのだろう低いテーブルに足を乗せた紫髪の男。


 前髪を上げて後ろで結んだ髪型。

 髪と同じく紫色に塗られた唇。

 胸元にフワフワしたフリルがついていてボリュームのある袖の白シャツ。


 どうにも異様な風体の輩である。


 スクッと立ち上がったそいつは180センチくらいありそうな高身長で肩幅も広く、そこそこいいガタイをしていた。


 こいつが雪之城か……?


 俺が警戒心を強めて身構えると紫髪の男は口を開いた。


「あらぁ! 随分と早く上がってこれたのねェ? アタシ、ビックリしちゃったわぁ……。あいつらって全然使い物にならないのね。ま、とりあえず、ここまで来れたことを褒めてア・ゲ・ル・ッ! んちゅっ!」


 紫髪の男はオネェ言葉を駆使し、俺たちに投げキッスを飛ばしてきた。

 え? こいつが元四天王の雪之城なの……?

 まさかのオネェだと……!?


 俺は鳥谷先輩に確認を取る意味で視線を送る。

 すると、


「いや、誰だお前!?」


 オネェ言葉使いを見た鳥谷先輩が大声で叫んだ。

 ほわ? こいつじゃないの!? 

 ここまで来て別人が待ってるとかあります?

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