第100話『合宿最終日』
◇◇◇◇◇
合宿最終日。
今日は俺以外の部メンバーが帰る日だ。
俺はあと二日ほど滞在してから都会に戻る予定である。
一人でなら転移のスキルを使って帰れるからな。
親に新幹線代をもらって電車に乗り、隣の駅くらいで降りて転移すればほとんどが俺の小遣いになる。
素晴らしい錬金術だ。
「カブ太郎、カブラーちゃん、カブル君! 達者で暮らせよぉ!」
「またいつか会おうぜええええっ!」
鳥谷先輩と酒井先輩は紆余曲折ありながらも捕まえることができたカブトムシたちの名を叫び、飛び立つ彼らを見送っていた。
どうやら家に持ち帰るのではなく、合宿の間だけ鑑賞して自然に戻すキャッチアンドリリースの精神だったらしい。
川遊びをやって、虫取りをした。
昨日の夜は花火もやったし、子供の頃に思い描いていた友達との夏休みは概ね現実にできたような気がする。
荷造りを済ませて皆が駅に向かう車に乗り込む段階になった。
来たときと同じく運転は俺の祖父がする。
「しんじょー。そういえば今回は肝試しをやっていなかったな!」
鳥谷先輩がふと思い出したように言ってきた。
そういえばそうだったな。
俺はあんま幽霊とか信じてないからやろうって思いつかなかった。
でも暗くなった場所をみんなで探検みたいにして歩くのは楽しいかもしれない。
「それは来年やればいいさね」
俺の母親が満面の笑みを浮かべて言った。
「おおっ来年が楽しみだぞ!」
「来年はもっといろんなところを見て回りたいわね」
鳥谷先輩と結城優紗が早くも一年後の展望を語っている。
あれ? なんか次の年もうちで合宿する流れになってない?
いや、俺としては全然歓迎ではあるんだけど。
丸出さんも肯定するように微笑んでいるし。
江入さんは……よくわかんねえな。
Wi-Fiがないからあんまり望んでいないかもしれない。
「来年はわたしもそっちから一緒に帰ってこれますよ!」
圭は早くも都会の高校生になれたような口ぶりである。
そういう気の緩みが思わぬ事故を引き寄せるんだぞ。
たとえ模試の判定がよかったとしても直前に何があるかわかんないんだからな?
そんな感じで圭に講釈を垂れたらなぜか結城優紗が『うっ』とダメージを受けていた。
彼女はなんか受験で失敗した思い出でもあったのだろうか。
その後、俺も車に同乗して皆を駅まで見送り、今年度の将棋ボクシング文芸部の夏合宿は無事終了したのだった。
◇◇◇◇◇
合宿が終了し、俺も都会の従姉の家に帰宅してから二週間ほど。
俺はその間、丸出さんに連れられて将棋道場デビューしたり、酒井先輩のボクシングの練習に付き合ったり大会の応援に行ったりとそこそこ忙しく過ごした。
ちなみにボクシングの練習には月光も一緒に参加していたので俺はやつと否応なしに交流を深めることになってしまった。
そんななかで聞いたのだが、月光は最近犬を飼い始めたそうだ。
どうやらヤツは俺の家の近所の山で遭難していたらしく、そのときに山中で偶然出会った犬のおかげで人里まで戻ってこれたのでその犬に縁を感じて家に迎え入れたのだとか。
『こいつの先導で無事に帰れたんだ! めちゃくちゃ可愛いだろ?』と言われてたくさん写真を見せられたが、特段犬好きでもない人間が他人のペットを見せられても死ぬほどどうでもいいだけであった。
あ、酒井先輩は今年も優勝したよ。
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