第20話『恐ろしいぜ、都会の少年少女たち』




 俺は丸出さんに誘われた将棋ボクシング文芸部に入部を決意した。


 そしたら俺を魔王と知る元勇者も監視目的とか言って一緒に入部希望してきやがったという。


 なんなのこいつ、俺のストーカーなの? 

 まったく懲りてない。

 先日の不良たちといい、都会にはストーカー気質の人間が揃ってるのか?


 恐ろしいぜ、都会の少年少女たち。


「結城さん。入部は歓迎するけど、新庄君は噂みたいな悪い人じゃないよ?」


 丸出さんが俺を敵視する結城優紗に説得を試みてくれた。

 そうだ、丸出さん、もっと言ってやってくれ!

 そして、どうせなら入部を断ってくれ……!


「丸出さん、あなたはこいつの本当の姿を知らないからそんなことが言えるのよ」


「本当の姿? 結城さんは新庄君と知り合いなの?」


「ええ、そうよ! こいつのことはよーく知っているわ!」


 結城優紗は胸を張って言う。


 おい、俺とお前は魔王城で一度会っただけだろ! お前は俺を倒すためにずっと旅をしていたから旧知と錯覚しているのかもしれないが、実際の俺たちは初対面に等しい間柄だったということを忘れないで頂きたい。


「そ、そうなんだ……よく知ってるんだ……」


 ほれ、丸出さんが勘違いしてしまったではないか。


 ここはキッパリ否定しておかねば。


「丸出さん、こいつとは昔一回会っただけだから。全然、そんな深い付き合いじゃないよ」


「え? そうなの?」


「ちょっと! 何をトボけて――あれ……?」


 結城優紗が異を唱えようとして言い淀む。


 自分が噂や伝聞でしか俺を知らず、実際の俺との交流はほとんど皆無だったことに気がついたようだ。


「し、知り合いからいつも聞かされてて……そのあの……」


 即ち、一回会っただけという話も訂正することができないわけで――


「はい……?」


 丸出さんから何とも言えない表情を向けられ、バツが悪そうに視線を逸らす異世界の勇者。


 めっさしどろもどろ。

 よく知ってるとか言ってた癖に又聞きだけで判断してたの……? 

 そんな突っ込みをしない丸出さんは優しいね。


「うう……だってだって……」


 こいつは魔王だもん! と言ってやりたいけど言えないの超悔しい!

 彼女の顔がそう物語っていた。

 なかなかに愉快な顔だった。


「ゆ、結城さん……? 大丈夫? 具合悪いの?」


 涙ぐんでる結城優紗を丸出さんが慰める。


「ぐすん……ぐすん…」


 あ、本格的に泣き出した。


「…………」


「…………」


 なんかすげー微妙な空気になってしまったぞ。

 どうすんだこれ。


「…………」


 酒井先輩が縄跳びを跳ぶ音。

 江入さんが本のページを捲る音。

 その二つがやたら大きく聞こえる。


 居心地だけはいいと言われていた部活を台無しにするんじゃねぇよ結城優紗ァ!


「おーい、入部届書いてきたからわたしも部活に入れてくれ!」


 暗雲の垂れ込んできた空気を吹き飛ばすように部室の扉が勢いよく開いた。


 入部届を持った鳥谷先輩だった。


「あれ? なんかまた新しいやつが増えてるな! そいつも新入部員なのか?」


 鳥谷先輩の陽気なテンションがギクシャクしていた部室の空気に僅かな緩みを発生させる。


 その緩んだ空気の隙を突いて、


「と、とにかく私も入部するんだからね! 今日は帰るけどっ! またくるからっ!」


 結城優紗は涙を拭い、鳥谷先輩の横を素早く通り抜け部室を去って行った。

 競歩みたいな早歩きだった。

 そそくさというのはこういうときに使う言葉なんだなと俺は実感した。


 てか、またくるってマジかよ……。

 あいつ、本当に入部するつもりなのかな。

 おかしなことしないといいけど。



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