第120話『隠れヤンキー』




「抜け駆けしやがったテメェみたいな無名ヤローがとんとん拍子に四天王に負けを認めさせて馬王にまで成り上がっちまってよぉ」


「こんなシャバいヤツでも倒せるなら四天王を警戒して大人しくしてるんじゃなかったぜ」


「花鳥風月がこんなやつに負けを認めるような、そこまで恐れるほどの存在じゃなかったなんて騙された気分だったよな」


 愚痴混じりに四天王を侮る発言を言い始めた隠れヤンキーども。


 こいつらは四天王を倒せる俺が強かったと思うんじゃなくて、中学時代無名だった俺に倒された四天王が実は大したことがなかったという解釈に至ったのか……。


「まあいいさ。ハリボテで作り上げたお前の天下も今日で終わるだろうしな。ククク……今頃はお前の後ろ盾の鳥谷ケイティもメッタメタにされてるぜ?」


 池永が不自然なまでにホワイトニングされた白い歯を見せつけてニタァと笑う。


「おい、今、なんつった……? 鳥谷先輩が? どういうことだよ……」


 聞き捨てならない発言を聞いた俺は閉めるのを忘れていたチャックを閉め、水分の放出作業が終わっていたにも関わらず小便器と正対していた身体をやつらのほうに向けた。


「フフッ、オレたちは二手にわかれてんだよ。オレらは馬王のお前の担当。もう一方は四天王の鳥谷ケイティって具合にな」


 池永が得意気に計画の概要を語ってくる。


「鳥谷ケイティは一年生の連合でフクロにしてやる予定だからよ。さすがの四天王も十人以上に囲まれちゃあ無力だろうぜ」


 ケタケタとゲスな笑い声を上げる沼地。

 こいつら……! 鳥谷先輩にそんなことを……!

 鳥谷先輩が危ない!


「雪之城さんの指示だからな。まずは鳥谷ケイティと新庄怜央を潰せって。しっかりと完遂させもらうぜ」


 雪之城……!?


 あれ、それって聞き覚えのある名前だぞ……。


「雪之城さんはさすが元四天王だけあって実力とカリスマに溢れてる」


「本当はオレらも誰かの下につくなんてことはしたくなかったがな」


「既存の派閥に入るなら下っ端からになっちまうが、新興勢力ならメンバーの地位も固まってねえし話は別ってやつだ」


 そうだ!

 雪之城って、鳥谷先輩に敗北して四天王の座を降ろされたとかいう休学から復帰した生徒の名前だ。

 須藤が言っていた、一年生への声かけはこいつらみたいな隠れヤンキー共に対して行なっていたのか……。


 まさか派閥を作るだけじゃなくて俺や鳥谷先輩にいきなりあからさまな喧嘩をふっかけてくるとは思わなんだ。


「ハッタリでお前が名を上げて、ついには馬王にまでなっちまってよ。出遅れた、失敗したと思っていたオレらに雪之城さんは声をかけてくれたんだ。馬王と現四天王の支配体制をまとめてひっくり返す軍団を作るから来ないかってな」


「あの人はすげえぜ? 実力を見せてもらったが、ペテンで勝ちを拾ってきたお前とは違って本物だよ」


「オレたちは雪之城さんのミッションを達成した暁には新たな馬王になる男……雪之城さんの派閥に入れてもらえることになってんだ」


「あの人についていけば、オレたちが最終学年になったときはその地盤を引き継いで美味しい思いもたくさんできるって寸法よ」


 明るい展望を語る池永たち隠れ不良だった一年生男子ズ。

 新たな馬王になる男だぁ?

 まあ、そんなもんはどうだっていい。


「お前たちの下らない派閥の話なんか興味ねえんだよ。おい、お前らはどこで鳥谷先輩を襲うつもりだ? 早く教えろ」


 俺が怒りを押し殺しながら訊ねると、


「ハハハッ! もしかして助けに行くつもりかぁ?」


「行かせねーよ」


「教えもしねーよ! 答えるわきゃねーだろ!」


 池永たちは爆笑して俺をさらに煽ってきた。


「大体、お前が行ってどうすんだ? クラスでのお前を見てたら大したことないハッタリ野郎だってのはバレバレだぞ?」


「オレらの界隈とは無縁のパンピーどもは騙せてるみたいだが、修羅場をくぐり抜けてきたオレらの眼力は欺けねえぜ?」


「お前がハッタリ野郎だからこそ、鳥谷のほうに確実な人数を割けたわけだけどなぁ!」


 そうか、俺のことをハッタリと不意打ちだけで四天王を屈服させた弱者だと侮っているからここには五人しか来ていないのか。


 つまり、俺が舐められているからこいつらは口を割らないと……。


 だったら――



「…………」



 俺は名も知らぬ三人の顎を折り曲げた中指の第二関節でコツンと叩いて回る。

 コツンとはいえ俺のパワー。

 その威力は割とすごく、顎に衝撃を与えられた三人は脳震盪を起こしてガクリと崩れた。


「お、おい嘘だろ? どうなってんだ? あっという間に三人が!?」


「たったの一撃で!? というか動きが早すぎんぜ!?」


 動揺する池永と沼地。


「俺の実力はわかったか? ハッタリじゃないと理解できたなら早く――」


「こ、こんのおおおおお!」


 俺が喋っている途中にも関わらず、焦った沼地があからさまなテレフォンパンチで殴りかかってきた。


 隙だらけなので俺はまっすぐ手を伸ばして彼の頭をむんずと掴んだ。

 そして、

 頭蓋骨の中身を振るように揺らしてしてやった。


「んほぉっ――――!?」


 沼地は奇声を上げた後、同じく脳震盪を引き起こして立っていられなくなった。


 ものの数秒で四人がトイレの汚い床に這うことになったのである。

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