第121話『俺は馬飼学園で王と呼ばれてるんだぜ』
「な、なんなんだよぉお前ぇ……! クラスにいるときと全然雰囲気違うじゃねえか!」
最後に残った池永がハアハアハアと過呼吸を起こしそうな勢いで息を荒くして叫ぶ。
教室での俺は人畜無害だったので、この大立ち回りが想定外なのだろう。
隠れ不良のこいつらにはありのままが見えていたのに、一般の生徒にはフィルターがかかって何をしても超やべーやつに見えていたというのは皮肉だな。
伝わって欲しい人には伝わらない。
ままならないのう……。
「なんなんだって……俺のことを知らなかったのか? 俺は馬飼学園で王と呼ばれてるんだぜ」
俺はそう言いながらツカツカと歩み寄って池永の顔面を鷲掴みにする。
「うごっ……」
僅かながらに手に力を込めると池永は苦しそうな声を上げた。
苦しみから逃れるため俺の手首を握って引き剥がそうと試みるが、彼のようなただの不良男子の力で俺のホールドが外せるわけもない。
「ぐあああっ……くっ、お前ってマジで強かったのかよ……! こんなことなら鳥谷のほうに人数回すんじゃなかった……!」
「弱かったら月光たちが俺を馬王と認めるわけないだろ」
というか、何人回してきても一緒だけどな。
「だって……それは四天王が実は大したことないからって雪之城さんが――」
「何が雪之城だよ。戦う前から四天王にビビって隠れてたお前らごときが馬飼学園四天王を軽く見てんじゃねえ」
俺は池永の顔を掴む手の力をさらに強め、床からグイッと持ち上げて言う。
雪之城とかいうやつは四天王に関する情報をかなり歪めて一年生に伝えているようだな。
おかげでこういう無知なやつが騙されて誰も得しない争いが生まれてしまった。
「いだだだだだっ! 悪かった! 悪かったって! 舐めたこと言ってマジごめんって!」
顔面を掴まれ、トイレの床から足の裏が浮く状態に追い込まれた池永は必死に大声を出してギブアップを告げてくる。
「…………」
マジごめんってなんだ……。前世の俺だったら『それは謝ってる口調じゃないだろ?』と言ってさらに詰めていたが……。まあ、同級生相手にそこまでやる必要もなかろう。別に本格的な命のやり取りをしてるわけでもないし。
俺は池永を掴んでいた手をパッと離す。
ドシャっと床に落ちる池永。
「で、お前らはどこで鳥谷先輩をリンチしようとしてんだ?」
「校舎裏……ゴミ捨て場がある方の校舎裏……」
池永はぺたんと内股体勢でトイレのタイルに座り込んだまま無機質な口調で絞り出すように言った。
なんか目がぎょろぎょろして涎とか垂らしてるけどコイツ大丈夫か?
まあ、骨折はしてないだろうから放って置こう。
ちょっと精神的ショックを受けてるだけなはず。
俺はトイレを出て鳥谷先輩の元へ急ぐ。
ゴミ捨て場がある方の校舎裏か。
将棋ボクシング文芸部の部室のある校舎裏とはまた別の校舎の裏だな。
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