第2話『四天王の一人、花園栄治さんだぜ?』




◇◇◇◇◇



 入学式が終わった。今日の予定はそれで終了である。

 新入生たちはズラズラと連なって下校を行なっていた。


「へえ、新庄って地方からきたのか。すげえな人口500人って。想像もつかねえわ……」


「まあ、何もないけど悪いところじゃないよ」


 俺は同じクラスで座席が真後ろだった須藤すどうという男に教室で話しかけられ、そのまま一緒に校門まで歩いていた。


「来たばっかなら、この辺で遊ぶ場所とか知らないだろ? 今度、オレが案内してやるよ」


「おお、それは助かる。色々見てみたいのに何もわからないから困ってたんだ」


 整髪料で髪の毛がやたらとボンボン&ツンツンしているところが気になるが、須藤は会話をしている限り悪いやつではなさそうだ。


「上京してきたってことは一人暮らしなのか? 一人暮らしって自由でよさそうだよなぁ?」


「ああ、いや、俺は――」


 都会に来て早くも友人第一号を確保できそうな予感。

 これは順調な高校生活の始まりなのでは……?

 俺がウキウキしていると、



「んだァッルッコラァァァァァァ!?」



 めっちゃ巻き舌の怒鳴り声が校門付近から響いてきた。



 ルッコラ? 母さんが庭で育てていたやつか?


 いや、違う、あれは不良だ……! 不良が誰かに因縁をつけている声だ!


 見れば、黒髪でお下げの少女が巨漢デブ、パンチパーマ、モヒカン、リーゼントなど、バリエーション豊富な複数人の不良に囲まれていた。



「ご、ごめんなさい……すいません……」


 お下げの少女は今にも泣き出しそうな表情で震えている。

 リボンの色が緑色なので彼女は俺たちと同じ一年生だな……。

 不良たちはネクタイをつけていない連中も多いが、赤や青をつけている者が数名いた。


 恐らくは上級生なのだろう。



「オイオイ? この人は四天王の一人、花園栄治はなぞのえいじさんだぜ? オゥン?」

「そんな人が遊んでやろうって言ってんのに何がごめんなさいなんだよ、ハァン?」

「先輩の誘いには素直に頷くのが後輩としての礼儀なんじゃねぇのかぁ? ヨォオ?」

「むしろ光栄に思うべきジャァン? ウォイ?」



「…………」



 強面の上級生に囲まれて何も言えず固まっているお下げ少女。


 どうなってしまうのだろうと思って見ていると、耳、鼻、唇にピアスをつけた金髪の男子生徒が口を開いた。



「まあ、待ってやれや。そんな威圧的に言うこともあるめぇよ」



 彼は穏やかな口調でゴリマッチョの不良たちを諫める。

 ひょっとしたらあの男子が不良のボス的な存在だろうか?

 彼が発言したことで不良たちがあっという間に静かになった。


「そいつはこの間まで中坊だったんだ。強面のオメーらが凄んだら何も言えなくなっちまうのはしょうがねえだろ?」


 金髪の不良はお下げ少女を子分たちから守ってやろうとしているのか?


 なんて期待していたら、


「いつも遊んでる女どもはスレてるやつらばっかでよぉ。たまには遊び慣れてない真面目ちゃんとも戯れてみたくてなぁ。開発していく楽しみってのか? そういうのをやってみたくて声かけさせてもらったんだわ。意味、わかるか?」


 金髪不良はニヤァっと下衆特有の笑みを浮かべてお下げ少女の顔を覗き込んだ。


 こいつも結局は同じかよ!


「ひっ……! いえ……その……!」


 お下げ少女は蛇に睨まれた蛙と例えるのがピッタリな感じで怯えていた。


 怒鳴り声こそ上げていないが、金髪の誘い方も十分強要といって差し支えないものだった。

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