前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい
遠野蜜柑
第一章
第1話『俺の前世、異世界の魔王だったわ……』
「うわ、やっべー、マジかー」
高校の入学式を翌日に控えた夜。
自然に囲まれた田舎の村で育ち、高校進学を機に親元を離れて上京した俺、
「俺の前世、異世界の魔王だったわ……」
圧倒的な身体能力と無数の攻撃魔法を駆使し、人間の国から送られてくる勇者を何人も退けて世界を恐怖に陥れていた最強の魔王サイズオン。
それが前世の俺だった。
俺の名前だった。
…………。
何を中学生みたいな恥ずかしい妄想をしてるんだって思うじゃん?
いや、でも、本当なんだって。
マジで、そうだったっていうハッキリした意識が俺の脳にバババッとダウンロードされてきて、こんな勇者倒してきたなーとか、副官は小言が多いやつだったなーとか。そういう記憶が思い出せるようになってしまったのだ。
これは絶対に気のせいじゃない……。
は? 心の病気? 深刻な症状? 妄想乙……?
だから違うって! 本当なんだよ!
なに……? 中二病患者はみんな同じことを言う?
そいつらと違って俺は本物だよ!
とにもかくにも――
なぜこの歳になって今さら記憶が戻ったのだろう。
そもそも、どういう経緯で俺は転生して地球の日本人になったのだ……?
俺はあっちで死んだのか?
その辺りの詳細はちっとも思い出すことができない。
うーん、どうしよう。明日から高校生になるっていうのに……。
とりあえずアレかな……。
「入学式に備えて寝よう」
明日は待ちに待った記念すべき日。ハイスクールライフの始まりである。
夜更かしをして遅刻するわけにはいかない。
遅刻、ダメ、絶対。
俺の興味は終わった前世より、今世の高校生活に向けられていた。
◇◇◇◇◇
翌朝。
「いよいよなんだ……!」
俺は入学式に向かうべく学校までの道を歩いていた。
なんで魔王だったことを思い出したのにそんなに平然としているかって?
いや、なんていうか、記憶が今の自分にフィットしすぎててさ。
そういえば昔はそうだったなぁくらいにしか感じないんだよね……。
思い出したところで『だからなに?』っていう……。
俺は選民的な魔王じゃなかったから人間がどうこうって感情もなかったし、性格も前世とあんま変わってない感じだから取り乱すこともないというか。何より、昨日も言ったが今の俺にとって一番大事なのは今日から始まる高校生活なのだ。
俺が住んでいた村は人口500人ほどの小さな集落だった。そこには一個下の妹しか同年代の子供がおらず、たくさんの同級生と同じ学校に通って同じ教室で勉強して語り合ったりする光景はテレビや漫画の向こうでしか見たことがない世界だった。
だから、俺はずっと憧れていたのだ。
年の近い友人を作って、和気藹々とした学生生活を送ることに。
俺は都会の学校に通うことが楽しみで仕方なかった。
魔王だったことを思い出しても、その思いは何も変わらなかった。
記憶を思い出そうが出すまいが、俺が俺のままなら前世のことなど些末な話である。
部活や生徒会に入って、同年代の友人を作って……。
あわよくば彼女とか――
そういう、充実した三年間のほうが大切なんだ!
「高校生活、楽しみだな!」
この時点で自分の前世が魔王だったことについて、もっと深く考えていればあんなことにはならなかったかもしれないのに……。
思い返したところで後の祭りである。
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