第11話『チン○コついてんのか?』




「あのー、四天王って、蚊取り線香とかいうやつでしたっけ?」


「花鳥風月だぞ」


 即座に訂正された。

 うん、まあちょっと違ったな。

 てか、この人、四天王って花園と同じやつじゃないか?


 だとしたら、彼女もどっちかっていうとやべーやつの括りなのでは……?

 助けてもらってなんだけど。

 彼女――鳥谷先輩はまともに関わってはいけない人物なのでは?


「しんじょー君よ! わたしは君に興味があって復学するのをずっと待ってたんだ!」


 鳥谷先輩はニッコリと俺に手を差し伸べてくる。


 正直、正体を知ってしまうと無垢そうな好意もすべて警戒の対象になってしまう。


「俺に興味?」


「そうだ、入学早々、あの花園を叩きのめした一年がいると聞いたら興味を持たないわけがないだろ?」


「いや、あれは成り行きでそうなっただけというか……」


「でも、あいつを病院送りにしたのは事実なんだよな?」


「そうですけど、あくまで結果論というか……」


「なんで素直に認めようとしないんだ? 誇らしくないのか?」


 そりゃ不良の業界じゃ勲章なのかもしれないけど。

 俺は堅気の衆として青春を送りたいんで。

 ノーセンキューな実績なんすよ。


「そのせいでクラスじゃ怖がって誰も近寄ってくれなくて……。これ以上孤立しないためにあんまり認めたくないんですよ」


「へぇ、そんなことになるもんかぁ?」


 鳥谷先輩は不思議そうに首を傾げた。

 きょとんってフォントが似合う雰囲気の仕草。

 やっぱり見た目は可愛い。


「みんな、俺と一緒にいて不良に絡まれるのを避けたいんだと思います」


「ああ、そういうことか! 弱っちいやつらだなぁ……チンポコついてんのか?」


「…………」


 容姿と声に似合わない下品ワードが出た。


 聞こえなかったことにしよう。


「まあ、今日みたいなことがあるなら気持ちもわからなくないかなって。俺は普通に友達を作って楽しく高校生活を送りたかっただけなんですけどね……」


 もう叶わないかもしれない理想の青春。

 でも、後悔はしてないぜ?

 誰かを見捨てた先に得られる楽しみなんてロクなもんじゃないだろうからな!


 ぐすん……。


「ふーん? けどさ、要はそれって花園からの報復を心配しなくてよくなればいいんだろ? だったらわたしにいい考えがあるぞ!」


「ええっ、本当ですか! ぜひ聞かせてください!」


 藁にも縋る思いで俺は訊ねる。

 それはもう食い気味に。諦めていた夢に一筋の光が!

 鳥谷先輩はドヤ顔になって、


「ふふん! 簡単だ! 君がわたしの庇護下にあると周知すればいい! そうすれば花園一派だけでなく、他の連中もおいそれと手出しできなくなるはずだ。さっきの連中もグチグチ言ってたが大人しく引き下がっていったろ?」


「でも、庇護下というのは……? 不良のグループに入るってことでは?」


「違うぞ! わたしが君の後ろ盾になるってことだ! そして、君がわたしのファミリーに加入するということでもある!」


「ファミリー? 家族……?」


 あれ? なんかほんわかした響きでいい感じがしてきたぞ?


「もちろん本物のファミリーじゃないぞ? せっかくこうして同じ高校で先輩と後輩になったんだから、それくらい強い結びつきを育んでいこうって意味合いのものだ!」


 なるほど、心の友というやつか。

 友人になった相手をファミリーと呼ぶってことだよな?

 鳥谷先輩は西洋風の容姿だし、そこら辺のワードチョイスも海外っぽいのだろう。


 なんかいいぞ。


 いい気がしてきたぞ!


「ふふっ、わたしのファミリーになったら下らないちょっかいからは守ってやるからな」


「鳥谷先輩!」


 俺は思わず抱擁したくなるくらい感激した。


 寸前のところで堪えたけど。


「ただ、その前に……さっきは逃げててよくわかんなかったからな! 君にどれほどの力があるのか確かめさせてもらうぞ!」


「えっ?」


 鳥谷先輩はスカートを捲って伸縮式の金属トンファーをどこかから素早く取り出すと、そのまま俺の顎付近を狙ってきた。


 ――が、


「あの、鳥谷先輩?」


 俺は先輩のトンファーを人差し指でピタっと抑えながら、


「これって俺と喧嘩しようとしてます? それだと手加減しても大怪我させない自信がないので対応に困るんですが」


 ひょっとしたら都会におけるコミュニケーションの一種かもしれない。


 都会には相手の肩を殴る『肩パン』なる伝統的挨拶があると幸一おじさんも言ってた。


 鳥谷先輩は沈黙の後、


「だ、だははは……。い、嫌だなぁ、喧嘩なんて……そんなわけないだろ! ちょっとじゃれてみただけだぞ! わははっ!」


 笑ってそう答えた。

 どことなく、その笑顔が引き攣っていたように見えた気がしなくもない。

 でも、違うのなら一安心だ。


 助けてくれた恩人と争いたくはないからな。



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