第12話『イタリアのマフィアだけど?』





 翌日の昼休み。

 俺は今日も教室で一人孤独を味わっていた。

 だが、それもまもなく改善されるはず。


 なぜなら、鳥谷先輩が教室まで安全を保証しに来てくれるから!



『ちゃんと教室で君と関わっても大丈夫だって言ってやるからな!』と、頼もしく言ってくれた鳥谷先輩が待ち遠しい。



 …………。



「おーい、たのもー!」



 やがて、教室の入り口から大きな声を上げて鳥谷先輩が入室してきた。

 先輩の声はよく響くので、教室にいた生徒たちの視線がそちらに集まる。


 ちなみに今日の鳥谷先輩は学帽を被っておらず、学ランも袖を通さないで肩に羽織っているだけだ。


 日によってこだわりのスタイルがあるのかもしれない。


「え、誰? 小学生? でも制服着てる?」

「うそっ、あのリボンの色、二年生なの? かわいいー!」

「バッカ、ありゃ四天王の鳥谷ケイティだぞ……」


 唐突に来訪した小さな上級生にいろんな意味で沸き立つ教室。


「今日は君たちに言っておきたいことがあってきた!」


 鳥谷先輩は俺の机の前にやってきて、周囲を見渡しながら言った。


「一年C組の諸君! 君たちはしんじょー君が花園から狙われてると思って避けているかもしれないが、そんな心配はしなくていい! 彼はわたしのファミリーに加わった! だから、彼と関わっても花園から襲われるようなことはないから安心してくれ!」


 安心保証がされた! これでみんなも――

 …………。

 なんか反応が芳しくないな。


 唖然としてるというか。


 余計に畏れをなしてるというか……。


「わたしの家もアレだしな! 花園の実家にも負けない規模のヤツだから万全だ! しっかり守ってやれるぞ!」


 鳥谷先輩は自信満々に言う。


 なんか嫌な予感がする。


「えっと……鳥谷先輩の実家ってなんです?」


「イタリアのマフィアだけど? 言ってなかったか?」


「…………」


 屈託ない笑みを向けてくる鳥谷先輩に俺は何も言うことができなかった。

 ファミリーって、実家由来のソレだったのね……。

 正直、やっちまった感がある。




◇◇◇◇◇




「あいつ……新庄だっけ? 鳥谷先輩の派閥に入ったんだな……ガチの不良じゃん」


「入学式の日に花園っていう四天王の人を病院送りにしたんでしょ?」


「全身の骨を笑いながら砕いたって話だぜ」


「マフィアの先輩に取り入ったってことは、将来は裏社会の人になるかもだよね?」


「怖いよ……どうしてあんな人と同じクラスになっちゃったんだろ……」



 ひそひそひそ……。


 …………。



 結果的にいうと、状況は大して好転しなかった。

 むしろ、危険人物としてのカテゴライズが完全に定着してしまった感がある。

 なんか噂に尾鰭もついてるし……。


 念のため言っとくが、俺は裏社会に就職するつもりはない。


 だけど、俺はクラスではもうそういうキャラになってしまった。


 俺のクラスって、四天王なんてもんがいる学校のくせに不良が全然いないから余計に悪目立ちしているところがある。


 まあ、鳥谷先輩が花園サイドの抑止力になってくれたから、仮にクラスメートと一緒にいても巻き込む心配がなくなったというのはせめてもの救いだけど。


 いや、ぶっちゃけ救われてないけど。


 そう思わないとやっていけない。



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