第33話『そこを苗床にしたがるんだろう?』




「凄まじい聖なる気……どういうことだ……」


 風魔先輩が信じられないものを見たような顔になっていた。


「馬鹿なッ! なぜ魔の者がこれほどまでに聖なる気を放つ武器を扱えるのだ! 魔の者が聖なる気に触れれば身を焼き焦して姿を保てなくなるはずだ!」


 ほう、風魔先輩は俺の魔力と聖剣の放つ光属性の魔力の違いがわかるらしい。これは思ったよりも確かな異能を持っているようだ。でも、魔力を『気』とか言ってるのでやっぱり似たようで別の力と勘違いしてるのだと思う。


「俺が魔の者じゃないからってことで納得できませんか?」


「できるわけがない! 私は貴様に触れたときに魔の波動を感じたのだ! そこの彼女とも歩きながら魔がどうとか王がなんたらと話していたではないか! 貴様は魔の者の王だろう!?」


 結城優紗との会話を聞かれていたらしい。

 盗み聞きとは感心せんですなぁ。


「だから、俺は魔王であっても魔の者の王じゃないんで」


「たとえ規格外の能力を持った魔の者であっても負けてなるものか……。私の対魔人としての誇り、そして人としての尊厳のためにも……貴様ら魔の者だけには決して負けない!」


 話通じねえ。

 結城優紗もそうだったけど。

 敵を倒す系の正義に目覚めた人間はどうして思い込みが強くて変なところが頑ななのか。


 俺は仕方なく肉体言語で対話して説得することにした。







「くっ、負けた……」


 数分後、風魔先輩は地面に片膝を着いてうなだれていた。


 大雑把で力強い打ち込みを彼女の刀であえて防がせ、腕力の差をわからせるようにしてやったらみるみるうちに心を折ることができましたよ。


 重い一撃を連打して気力を削いで勝てないと身体に教え込む戦法である。

 激しい剣の応酬を演じて、それなりに形作りをしてあげてもよかったんだけどね。

 彼女のプライドは無視で手短に片付けた。


 ほら、聖剣の光で目立っちゃったし?


 人が集まって来ないうちに終わらせないとって思ったからさ。


 ただ、後で風魔先輩に聞いた話によると、道の一定区画に人払いの護符を貼っていたからそういう心配をする必要はあまりなかったらしい。


 敗北を認めた風魔先輩は俺をまっすぐに見据えて高らかに叫んだ。


「私はお前に勝てなかった! 不浄の穴でもなんでも好きにしろ!」


「いや、あんたは何言ってるんですか……?」


 この人、とんでもないこと言わなかった!?

 穴ってなんすか穴って。


「ん? 魔の者は乙女の不浄の穴を常日頃から狙っているのだろう? そこを苗床にしたがるんだろう? 負けたからには潔く捧げてやると言っているんだ……ッ」


 どこで得た知識だよ……。


 勝手に決めつけて捧げてくるな。


「ねえ、ふじょーのあな? ってなに……?」


 結城優紗が辿々しい口調で訊いてくる。


「ケツの穴だろ」


「は? け、けっ!? ヘ、ヘンタイ! バカバカっ!」


 ペチペチと俺の肩を叩いてくる結城優紗。

 なぜ俺を叩く……。


「さあ、自由にするがいいさ! だが、私はいくら貴様らに後孔を嬲られても絶対に……絶対に屈したりしないッ!」


 風魔先輩は歯を食いしばり、スカートの袖を強く握りしめて睨んでくる。

 腹を括って辱めを受けてやろうという気概が伝わってくる。

 いや、待って? 


 一人でいきなり18禁モードに突入しててドン引きなんですけど。


 この人、偏ったメディアから間違った情報を仕入れて脳内が汚染されてるよ……。


「あのですね、確かに俺は前世で魔王と呼ばれる存在でしたが、今は普通に人間です」


「前世……? 生まれ変わりというやつか?」


「そうです、そういうやつです。で、先輩が俺に感じたのは前世から引き継いだ魔力って力だと思うんです。人間離れしたことはいろいろできますけど、別に悪い力じゃないんですよ。ほら、あの光る剣……聖剣だって使えてたでしょう?」


 ぶっちゃけ、聖剣が使えたのは俺も想定外だったが。

 俺が扱えたのは転生して肉体が人間になったからだと思う。

 魔力は魔族由来のままなのにね。


 聖剣は魔力じゃなくて肉体で判断してるってことなのかな?


 考えるの面倒臭いんでどうでもいいけど。


「では、君は魔の者ではないのか?」


「ないですよ」


「なら、不浄の穴にも興味は……」


「ねえよ!」


 そもそも魔の者じゃないし!


「そっか、興味ないのか……」


 風魔先輩は消沈したように俯いた。


「ちょっと、なんか残念そうにしてないですか……?」


「し、していないッ! 全然、期待なんてしてなかった! これっぽっちも!」


 顔を真っ赤にして早口で否定されると怪しさが余計に増すんだが。


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