第102話『ヤンキー狩り』
「やっと見つけたぜぇ……」
俺は手に掲げたビニール袋を眺めてほくそ笑む。
最初は家から100メートル以内のコンビニに行ったのだが、そこに俺が求めたコラボ麺はなかった。
仕方なく近隣店舗に足を運んでみたものの、そこでも見つからず割と家から離れた繁華街方面まで遠征するハメになってしまった。
複数店を渡り歩いてやっと手に入れた戦利品である。
嬉しさのあまり二つも買ってしまったので今日と明日で楽しむとしよう。
繁華街から一本奥に入った路地は表の喧噪からは隔離されたような静けさがある。
もうすぐ日付が変わる時間帯か……。
スマホで時刻を確認し、俺は速やかな帰宅をしようと足を進めた。
「おや、新庄君ではないか」
名前を呼ばれて視線を前に向けると、
そこにはキリッとした凜々しい目つきの黒髪ポニーテール美少女がいた。
白いティーシャツの上に黒いキャミソールワンピースっぽいものを重ね、ボトムはデニムのホットパンツという私服姿。馬飼学園四天王の一人で対魔人なる存在らしい風魔凪子先輩だった。
「あ、風魔先輩、久しぶりですね」
風魔先輩とは一学期が終わって以降、初めて顔を合わせる。
部活のメンバーでもないし、一緒に遊ぶような関係性でもないからな。
しかし、彼女からは頻繁にメッセージが送られてくるので正直言うほど久しぶりという実感はない。
先日も『エボリューションという映画をぜひ見て欲しい。虫が防護服を破って中に入り込む、中盤よりやや手前辺りからのシーン一連とクライマックスでラスボスのエイリアンにトドメを刺すシーンは特に必見だ』というメッセージが送られてきて文章のやり取りをしたばかりである。
「先輩、どうしたんです? こんな時間に……買い物ですか?」
風魔先輩は四天王にカテゴライズされているが不良ではない。
夜遊びでフラフラするとは思えないが。
「ふむ、君は買い物だったんだな」
風魔先輩は俺の手に握られている白いコンビニ袋にしげしげと目線を送る。
「はい、このコラボラーメンが急激に欲しくなりまして」
「うっ……そ、そうか……」
濃厚とかニンニクとかマシマシの文字が躍るパッケージを取り出して見せると、彼女は『見てるだけで胸焼けした』という顔になった。
勝手なイメージだが、風魔先輩は和食ばかり食べてそう。
「実は最近、この辺りで夜分にヤンキー狩りなる行為を行なっている人物いるようでな。我が校の不良も何人か被害にあっていると聞いて見回りをしていたんだ」
取り直して、風魔先輩はシャキッとした表情に戻りそう言った。
「ほえぇ、ヤンキー狩りとは……また物騒ですねぇ」
俺は至極健全な高校生なので対象にはならないと思いながら他人事として聞く。
「まあ、ヤンキーだけではなく迷惑行為をしている人間もターゲットになっているみたいだが。夜中にコンビニ前で騒いでいたYouTuberも病院送りにされたらしい」
およよ、バイオレンスだねぇ。
どこのYouTuberがやられたんだろう。
○○○ッ○とかかな?
「どうしてわざわざ風魔先輩が見回りを?」
「それは私が風紀委員だからだ」
「はい?」
当然だろうと言わんばかりのトーンで返されて俺は戸惑った。
「どうしようもない不良であっても我が校の生徒に変わりはない。その身に危険が迫っているのなら風紀委員として見過ごすことは出来ないだろう? 実はここだけの話、花園英治もヤンキー狩りにやられたそうなんだ」
風魔先輩が眉間に皺を寄せて深刻そうに言う。
「えっ、花園が? マジすか?」
「とはいえ、入院するような大怪我を負ったわけではないようだがな」
そうなんだ。
また長期入院しちゃったのかと思ったよ。
「あの花園が敵わなかったということは、ヤンキー狩りはそれなりの手練れに違いない。そんな危険人物が我が校の学区内で蛮行を働いている状況は学園の風紀を守る者として看過できん」
前から思ってたけど風紀委員ってそういうことをする委員会なの?
まあ、馬飼学園の風紀委員はそういうことをするんだと思っておくか……。
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