第103話『キューティーサキ』
しかし、そうか、あの花園がやられたのか……。あの花園……。
うーん。
いや、確かに花園は近隣じゃ最強格と呼ばれる不良だ。
一応、俺もそういうふうに認識はしている。
認識してはいるが――
イマイチあいつがすごかったところを見てないからなぁ。
驚いたのは怪我の治りが早かったことくらい。
だから、ぶっちゃけ花園がやられたって聞いても『ほーん?』って感じ。頭ではわかっていてもヤンキー狩りなる人物をそんなに脅威とは実感できないのであった。
というか、風魔先輩は不良を敵視してる感じだったし、てっきり不良生徒がどうなろうと知ったことじゃないのかと思ってたんだけど。
「風紀委員の責務は正すことであって排除することではない。馬飼学園の生徒である以上、彼らもまた我々の庇護対象だ」
「俺のことは普通に殺しにきたのに……」
「あ、あれは君が魔の者だと思ったから! あの時の立場は風紀委員としてではなく対魔人としてだったからで――」
風魔先輩は一転して慌てふためきだす。
これはちょっと面白い。
時々傷ついた感じで言えば優しくしてくれそうだ。
「けど、風魔先輩が目を光らせているのならだいぶ安全なんじゃないですか?」
大体の一般人は風魔先輩の体捌きにはついていけないだろう。
「どうかな……こうやって夜に街中で馬飼学園の生徒を見かけたら注意喚起をして帰宅を促してはいるが。未だ実行犯に巡り会えていないのだ。会ったら二度と我が校の生徒に危害を加えぬよう説得するつもりなのに」
そういえば彼女は細長い布の袋を抱えている。
あれには竹刀とか木刀が入っているのでは?
説得とは一体……。
「鳥谷先輩の派閥の人たちは大丈夫かな?」
「鳥谷ケイティの一派は夜更かしをしない主義の者が多いから問題ないだろう。あいつらはほとんど夜の街で見かけたことがないぞ」
あ、そうなんだ……。
ちなみに鳥谷先輩本人は現在実家のあるイタリアに帰省中です。
「ヤンキー狩りってどういうところに出るものなんです? 闇雲に探しているわけでもないですよね?」
「そうだな……例えばこういう繁華街の裏手にある、人通りの少ない住宅街でたむろしている輩はよく狙われているようだ。こっちに来てくれ」
風魔先輩について行って角を曲がると、道の少し先にヤンキーが三人ほど見えた。
赤や黄色など、脱色した髪色でスウェットとかアロハシャツを着ている。
あれは紛うことなきヤンキーだな。
いや、それらの髪色やスウェットやアロハシャツに偏見があるわけではないですけど。
彼らは住宅街にぽつんと置かれた自販機前でうんこ座りをして駄弁っていた。
ちなみにうんこ座りは欧米でアジアンスクワットと呼ばれているらしい。
ヤンキー三人は何が面白いのかわからないが笑い声を上げて叫び、猿の玩具のように手をパシンパシンと叩いて音を鳴らしている。
「テッャチシラモコンウラタシラナオ、ウノキハツジ」
「ヨカジマイオイオ」
「ガダンルエラワソック」
よく聞けば彼らは聞き慣れない言語を使って会話をしていた。
外国人か?
「これまで集めた情報によると、ああいう輩どもは割とターゲットになる。近隣住民にとっても迷惑になるしな」
「はあ……」
風魔先輩はヤンキーたちがそこそこ近い位置にいるのに堂々と指差して解説してくる。
ちょっとぉ。
下手に刺激するのはやめて下さいよ。
聞こえちゃってたらどうするんすか。
風魔先輩はよく通る声をしているから危険性マシマシだ。
「ヨカノンアモデクンモカンナニラレオ」
ヤンキーのうちの一人が立ち上がってこちらに寄ってきた。
危惧していたとおり、やっぱり聞こえていたようだ……。
相変わらず何言ってんだかわからない言語だが、視線をバチバチに向けられているので明らかに俺たちに含むところがあるのは間違いない。
「オイ、オレらの言語じゃなくて現代人の言葉を使わないと」
「エネケイトッオ……そうだった、うっかりしてタゼ」
ヤンキーどもはそんな妙なやり取りを交わしつつ、爪先を外側に向けたガニ股スタイルで肩を揺らしながらゾロゾロと近づいてくる。
現代人の言葉……?
俺がそこはかとない違和感を覚えていると、
「その悪行を、やめなさい!」
ヤンキーたちを挟んだ反対側からハキハキとした女性の声が響いた。
ヤンキーたちが後方を振り向く。
俺も身体を傾けてヤンキーたちの背後の景色を覗き込んだ。
「なんだありゃ?」
困惑する俺。
「ふむ……」
顎を撫でながら冷静に黙考している風魔先輩。
ヤンキーたちの背後にいたのは不可解な格好をした人物だった。
緩やかなウェーブのかかったブラウンのロングヘア。
胸元についた大きなリボン。
レースの袖。白いロンググローブ。広がりのあるフリルスカート。
全体的にブルーを基調としたドレス姿。
顔は目元と鼻筋が隠れるマスクで覆われている。
これは――
「清く正しく美しく……! 我が名はキューティーサキ! 神の代理で成敗よ!」
半身になって片足の踵を浮かせ、手の平を頭部の前に掲げるポーズ。
アイドルがステージでやるような感じのやつをその少女はやっていた。
有り体に言えばそう――彼女のコスチュームは魔法少女のそれであった。
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