第43話『巨漢デブ、モヒカン、リーゼント』
そこそこ奮闘した体育祭も終わって、今は六月の下旬。
俺は放課後に何となく繁華街を散策していた。
本屋を覗いたり服屋を見たり、一人で当てもなくブラブラする。
あとちょっとで期末テストだし、勉強にも気合いを入れていかないとな……。
「おい、絶対に逃がすんじゃねえぞ!」
「待てコラ!」
「観念しろや!」
背後から男たちの野太い怒声が響いてきた。
振り返ってみると、派手な髪色や奇抜な髪型の高校生たちがまたさらに別のガラの悪そうな少年たちに追いかけられてこっちに向かってきていた。
うわっ、なんだ? 不良同士の喧嘩か……? 関わり合いたくないなぁ。
こういうのはさっさと通り過ぎてもらうに限る。
俺はサッと目を逸らして道の端に避けた。
すると、
「うわあっ!」
追いかけられていたうちの一人が足をもつれさせて転んだ。
「た、
「足を挫いちまった……
「そんなことできるかよ!」
「そうだぜ! 仲間を置いていくわけねえだろ!」
なんか不良の熱い友情シーンが始まった。
「へへっ、やっと追いついたぞ!」
「年貢の納め時だぜ……」
「うへへ」
「ひゃはは」
「がはは」
追いかけられていた不良は三人。
それに比べて彼らを追いかけていたのは十人くらいの集団。
数の差は歴然だった。
これは喧嘩というよりリンチだな……。
恐ろしいねえ。
不良の世界はバイオレンスで大変そうだ。
俺が完全に他人事としながらも僅かに同情を滲ませていると、
「あっ! てめぇ新庄怜央じゃねえかあッ!」
「なに、新庄怜央だと!?」
「ああっ! こいつよくもヌケヌケと!」
追いかけられていた側の不良たちが俺の名を呼んできた。
はぁ? こいつら誰だよ? 俺のことを知っているみたいだが……。
この態度は鳥谷先輩のところの不良さんたちじゃないよな。
顔に見覚えもないし。
「おいおい、そいつが新庄怜央ってマジかぁ?」
追いかけていたほうの不良たちがニタニタと笑いながら俺に視線を送ってくる。
うわぁ、俺まで目を付けられてしまったぞ!
こっちに火の粉を飛ばしてくんじゃねえよ……。
「まさか噂のスーパールーキーとこんなところでばったり出くわすとはなぁ」
「へえ、こいつが花園を病院送りにした一年生かよ?」
「ちょうどいいぜ、花園の連中とまとめてやっちまおうぜ!」
不穏な会話をしておられる。
というか、花園の連中……?
あ、そうか。
この追いかけられていたやつら、花園一派の連中だったか。
巨漢デブ、モヒカン、リーゼント……。
確かに入学式の日にいたような気がする。
「やっちまうって、段田君を呼ばなくていいのか? 新庄は段田君が仕留めるって話だろ?」
「勝手なことしたら怒られるんじゃ……」
「あの花園を病院送りにしたやつだぜ? オレらじゃキツくね?」
「バッカ、病院送りにしたっていっても不意打ちして車で撥ねただけだろ。こいつ自身が強いわけじゃねえから平気だって。これは名を上げるチャンスだぞ? 上手くいけばもっと上のポジションに引き立ててもらえるかもしんねえ」
あの……車で撥ねたってなに……?
もしかして現場を見てない人たちにはそれが事実として広まってるの?
花園の一件はそういう認識されてるの?
いやいや、ただの喧嘩でカーアタックかますヤツとか頭おかしすぎだろ。
俺はそんなぶっ飛んだヤローじゃないよ……。
まあ、うっかり空高く投げ飛ばして車の上に落下させちゃったりはしたけどさ。
これが噂に尾ひれ背びれがつくってやつか。
くう、とんでもない名誉毀損。
というか、名を上げるってどういうこと?
俺をリンチして得られる名声があるというのか?
わけがわからん。
「ヘッヘッへ……覚悟しろよぉ……?」
パキッパキッと拳を鳴らしながら近づいてくる十人くらいの不良軍団。
その音を鳴らすやつ、関節が太くなって変形性関節症になる危険があるらしいからやめたほうがいいよ。
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