第44話『俺はまだ手を出していないのに!』





「しょうがねえ、おい、新庄怜央、ここは共闘といこうぜ?」


「花園さんに一発入れたお前となら、この人数差でもどうにかなるかもしれねえ……」


「気に入らねえが、今だけだからな!」



 勝手に話を進めている花園一派の三人組。


 なんかこう、かつての敵と一時的に手を組む少年漫画っぽい展開に持っていこうとしてらっしゃいますね……。


「いや、何言ってんの? 俺は喧嘩なんかしないよ?」

 

 こんな学校に近い繁華街で大立ち回りをしたら速攻で学校に連絡されてしまう。

 俺なんか制服着てるし。

 バレたらまた停学になりかねない。


 下手すりゃ今度は退学だ。


「はあ?」


「ああん?」


「お前、この状況で馬鹿か!? やらなきゃやられんぞ!」


 馬鹿はそっちだよ。

 まあ、この場を何もせず切り抜けることが難しいというのは同意できる。

 まったく、こっちは普通の高校生活を送りたいだけなのに。


 こんな物騒なことに巻き込みやがって……。

 仕方ない。

 ここはこういう状況に備えて考えておいた秘策を使うとしよう。


 俺は花園一派に追いかけられたときのことを教訓にし、柄の悪い連中に絡まれた場合に手を出さず乗り切る方法を模索していたのだ。


 今こそ、それを実行するとき――


 いざっ。



「頭が高いぞ」



 俺はわざと威圧的な声音でそう言い放った。



 そして、



 ビリビリッ!



 次の瞬間、敵の不良たちは身体をガクガク震えさせて地面に這いつくばっていた。



「ほがぁ……ほがぁ……」


「な……なんだぁ、こりゃぁ……」


「か、身体が……上手く……動かねえ……」



 俺の考え出した不良対策は雷魔法だった。


 一切の物理的接触をせず、こっそりと電気で相手を麻痺させて行動不能する。


 これなら目に見える事実としては暴力を振るっていないので、学校にバレても無実を訴えることができる。


 俺はただ腕を組みながら立っていただけ。

『絡まれただけで手は出してません!』とすっとぼけられる。

 何なら被害者として同情してもらうことまで可能だ。


 まさか他人に電気を浴びせる力があるとは夢にも思わないだろうからな。


「どうした? お前ら、俺が凄んだだけで腰が抜けたのか? 俺はまだ手を出していないのに! 手を出していないのに!」


 俺は同じことを二回言って、暴力を振るっていないことを強調した。

 あくまで不良たちがビビって勝手に腰を抜かしただけであると喧伝する。

 それは周囲に対するアピールでもあった。


 ちょっとした騒ぎになったせいで通行人からも注目されてしまったからな。



「く、くそぉ、まるで全身に電気が流れてるみたいだ……身体中がしびれやがる……」


「まさか、この痙攣はあいつの気迫にビビったせいなのか……!?」


「そんな……オレらは言葉だけであいつに屈服しちまったのかよ……」



 俺のことを怯えた瞳で見上げてくる不良たち。



「他愛もない……まあ、今回は見逃してやるさ。これくらいの威圧で萎縮するような連中の相手をする気にはならんからな。自分たちの弱さに感謝するんだな?」



 強者っぽい台詞を吐き、俺は悠然とした足取りで立ち去る。

 彼らが麻痺して動けないうちにさっさと逃げよっと。



「す、すげえ、まさか殺気だけでこれだけの人数を制圧するなんて……」


「バトルマンガみてえな野郎だぜ……とんでもねえ!」


「花園さんを空高く放り投げたのもあながち目の錯覚じゃなかったのかもしれねえ……」



 ギャラリーと化した花園一派の三人組が呆然としながら呟いていた。

 これで俺にちょっかい出すのは得策じゃないって思い直してくれたらいいけど。

 でも、放り投げたことは錯覚と思ったままでいてどうぞ?



「ちくしょう、新庄怜央は大したことないタラシ野郎じゃなかったのかよぉ……!」

 


 未だ動けずにいる不良たちの悔しがる声が背後で聞こえた。

 タラシってなんだ……?

 ま、どうでもいいか。


 どうせ戯れ言だろう。



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