第46話『出美留高校』






「ところでやつらって誰?」


 あの追いかけてきていた連中のことを俺は知らない。

 一体、どこのどいつだ?

 ぶっちゃけカタギなんすか?


「そりゃあ、アレだよ! 段田理恩だんだりおんの率いる出美留しゅびどめ高校さ!」


 段田理恩……。

 出美留高校……。

 全然知らねえ。でも普通の高校生みたいで安心した。


「出美留は段田理恩が頭角を現してトップになってから一気に名前を上げてきた隣町の学校だ」


「段田理恩は今一番勢いに乗ってるヤローでよ、去年の冬頃、出美留のトップに立ったかと思ったら近隣の高校三つをあっという間に支配下に置いちまった」


 …………。

 ぶっちゃけ、他校を支配するという概念がイマイチピンとこないのだが……。

 まあ、そこら辺はあまり深く考えないほうがいいのかもしれない。


 ふんわりした感覚でスルーしていこう。


「さっきの連中もその出美留高校ってところのやつらなのか?」


「いや、オレらを追いかけていたのは恐らく配下になった三校……越多米こえだめ高校、富羅知ふらち商業、烈亜久れつあく工業のやつらだな。あいつらは段田理恩の指示で動いてたんだ」


 ほう……。

 相手は出美留高校とかいうところだけでなく、その配下になった高校もということか。

 全部で四対一の勢力差。


 これまでは四天王の名前だけでそいつらを抑え込めていたのね。


 それって何気にすごいな……?


「だが、このまんまじゃ馬飼学園も出美留高校の傘下に入れられちまう!」


「そうなったら地獄だぜっ!」


「今までの自由はなくなるんだ!」


 そんなディストピアみたいな……。


 大仰な言い回しが好きなやつらだ。


「何を暢気に構えてやがる! 狙われているのは馬飼学園全体なんだぞ!」


 モヒカンが叫んだ。


「全体って、不良の界隈だけだろ? 大げさじゃね?」


 俺が冷静にツッコミを入れると、


「バッカヤロー! もし出美留の傘下に入れられたら、一般の生徒だって『御守り』を数千円で買わされるんだからな!」


「しかも定期的に新しいのを買わないと期限切れってことで狩りの対象になっちまう!」


「そうやって学校全体で永久にカモられることになるんだ!」


 そんな殺伐としたことになるの!?


 都会の高校ってやべえな!





 よく考えたら、鳥谷先輩や風魔先輩に不名誉な評判がついてしまっているし、これはなあなあにしてはいけない案件かもしれない。


 放って置くと一般の生徒にも被害が出る可能性があるっていうのもね。


 でも、喧嘩をしたらマズいんだよなぁ……。


 俺が頭を悩ませていると、


「出美留の段田理恩は今でこそ三校を束ねるボスに収まっちゃいるが、一年生の途中までは冴えない陰キャ野郎だったらしい」


「噂じゃ、いじめられてカツアゲまでされていたんだと」


「けど、ある日、まるで別人が乗り移ったかのように強くなって当時の番格を叩きのめすと、そっから一気にのし上がって権力を拡大していきやがったんだ」


 巨漢デブ、モヒカン、リーゼントの花園三人衆が敵のボスについて情報を話してきた。

 ふうん? 別人が乗り移ったかのようにねぇ……。

 いじめられていたようなやつが、いきなり不良のビッグボスに君臨するほど強くなる。


 そんなことありえるか?

 いや、ありえるか……。

 俺も記憶を思い出す前と後じゃ全然パワー違うもんな。


 結城優紗だって、チートを手に入れたことでその辺のやつらに負けない腕っ節を得た。


 ひょっとしたらその段田とかいうやつも異世界帰りだったり転生者だったりするのかも。


 うーん。


 けど、なんでもかんでもそっち方面で考えていくのはよくないかなぁ。

 念のため、そういう可能性もあるってくらいに留めておこう。

 しかし、そんな権力争いが繰り広げられているって都会の高校は世紀末か……?


 来年は妹もこっちの高校を受験するらしいから気をつけるように言っておかないと。


「新庄もいることだし、鳥谷や風魔にも話を通して協力を仰いだほうがいいんじゃねえか?」


「こうなった以上、オレらだけじゃどうしようもねえもんな……」


「月光のところのやつらにも声をかけてみるか?」


「そうだな、神門かんど不動ふどうは学校に来てたはずだし。あいつら、こういうことに付き合い悪いけど今度ばかりは参加してもらわねえと……」


 花園三人衆が無断で話を進めている。

 俺もいるってなんだよ。

 こいつら俺が協力する体で相談してないか?


「あっ! いましたよ! あそこっす!」


 三人衆に待ったをかけようと思って口を開きかけると、背後から不良の一団が……。


 うわ、またかよ……。


 しかも今度は先程よりも多い、二十人くらいの集団だった。

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