第64話『お前が……ナンバーワンだ!』
「さて……と」
月光は休息を入れて回復したのか、スクッと立ち上がって俺と向き合う。
「なあ、新庄怜央、ひとつ聞かせてくれよ」
「なんだ?」
「お前はどうしてそんなに強い? どうやったらお前のようになれる?」
月光は真っ直ぐな瞳を俺に向け、真摯な表情で問いかけてくる。
「俺は……魔王だ。だから、お前じゃ俺みたいにはなれないよ」
俺は正直に前世の立場を明かして言った。
本気でぶつかってきた男にはちゃんと答えてやるべきだと思ったのだ。
「なに……! ま……おう……だと?」
月光は目を丸くして固まった。
「ハハハッ! そうかよ、お前はその称号を……その覚悟があるってことかよ。そりゃあ、オレが勝てるわけねえよなぁ……ましてや、オレがお前みたいになれるわけねえ……」
「…………?」
こいつは何を言ってるんだ?
「いいぜ、認める。この勝負はお前の勝ちだ……オレの負け……」
敗北を認めた月光はガクッと倒れて地面に伏した。
「ええ!? 雷鳳……? どうしたんです!?」
「ナリィ!?」
驚く彼の友人二人。
「無理やり立ってはみたが、実はもう歩くこともままならないくらいフラフラなんだ。それだけこいつの一撃は重かった。マジでワンパンでやられちまったな……へヘッ」
月光は負けたというのにとても清々しい表情を浮かべていた。
「し、しんじょー!」
ふいに、金髪碧眼のマフィアな先輩の声が聞こえた。
幻聴か……?
俺が振り返ると、
「ええ!?」
そこには本物の鳥谷先輩と舎弟さんたち数十人が勢揃いしていた。
「鳥谷先輩? どうして?」
謎の全員集合に俺は戸惑い訊ねる。
約束を断るメッセージは入れたはずだ。
しかも、今日の約束にはいなかったはずの舎弟さんたちまでいるし……。
「お前のクラスメートが待ち合わせ場所の近くにいてさ。お前が月光に連れて行かれたって教えてくれたから必死に探してたんだよ!」
クラスメート?
もしかして――
「新庄、無事か!? よかった……」
鳥谷先輩の背後にいる集団から出てきたのは須藤だった。
お前、来てくれたのか……。まったく、来なくていいって言ったはずなのに……。
「新庄、オレ、オレ……ごめえええんっ! 花園一派のことを心配しなくてよくなった後も、なんか気まずくて声がかけられなくてさぁ!」
須藤は半べそをかいて懺悔してくる。
こいつ、そんなにずっと俺のことを気にかけていてくれたんだな……。
俺たちの繋がりなんて、入学式の日に少し話をしただけなのに。
須藤はやっぱりいいヤツだ。
「須藤、ありがとう……。なあ、もしよかったら今度、俺に街を案内してくれないか?」
「あ……ああ、もちろんだ! オススメの場所を案内しまくってやるぜ! 約束したもんな!」
須藤と俺はわだかまりを解消し、笑いあったのだった。
「で、鳥谷先輩、来てくれた理由はわかりましたが、この人数は一体……」
「え? そりゃあ、月光のところの連中とやり合うには総力戦で行かないとって全員に招集をかけて連れてきたんだ……けど――」
「けど?」
「あのさ、さっきお前が言ってたのって……」
鳥谷先輩が何やらモニョモニョと言葉を濁している。
この人がハッキリしない物言いをするのは珍しい。
どうしたんだろう。
「おう、鳥谷よ! ぞろぞろ連れてきたみてえだが無駄だったな! 見ての通り、こいつは一人でオレに勝った。新庄怜央はオレよりも強かった。そんで……お前も聞いたんだろ? そういうことだ」
寝そべったままニヤリと言った月光にざわめく一同。
「しんじょー、お前、本当にあの月光に勝ったのか? それで……」
「鳥谷先輩……えーと、はい、なんかそうみたいですね?」
なんだか、思いのほか一大事として受け取られているんだが……。
まあ、確かに月光は一般的な人間のレベルを逸脱してるからな。
驚かれても仕方ないのか?
「マジかよ!」
「すげえぜ! あの月光までやっちまったのか!」
「ここまでくると感心するしかねえな!」
よく見れば、巨漢デブ、モヒカン、リーゼントの花園三人衆までいた。
どうやら彼らも繁華街をうろついていたようで、偶然出くわした鳥谷先輩たちから事情を聞いて馳せ参じたらしい。
後日、彼らと話をすると『か、勘違いすんなよ! この前の借りを返そうとしただけなんだからな! 別に心配なんて全然してなかったぞ!』と謎の言い訳をされた。
「鳥谷、お前の見込んだ男は大した野郎だな。こいつほど最強の称号に相応しいヤツはいない。オレが太鼓判を押すぜ」
月光が神妙な表情をしている鳥谷先輩に言う。
なんか、鳥谷先輩が滅多に見ない真顔になってるのが気になるが……。
「新庄怜央、今日からお前が……オレたちの馬飼学園でナンバーワンだ!」
月光の宣言と同時にうおおおおと不良たちの歓声が巻き起こった。
そして河川敷に集まった集団が俺に駆け寄ってきて胴上げを始め出す。
「わっしょいわっしょい!」
「新庄怜央ばんざーい!」
「新しい時代の幕開けだぁ!」
人生初の胴上げをされながら俺は無表情で一言。
「なんだこれ……」
なんだこれ……。
俺は口と心で二回そう呟いた。
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