第84話『立派なマフィアになれる!』
「鳥谷先輩……! いや、異能というかなんというか……」
俺は脳内をフルスロットルで回転させ言い訳を繰り出そうと試みる。
すると、
「しんじょーも異能を持っているのか?」
「んっ……? 『も』ってなんです?」
何やら鳥谷先輩の聞き方がおかしい。
「ふふん! 実はここだけの話だけどな? うちのファミリーのボスの家系は代々特殊な能力が使えるんだ。ノンノ……じいちゃんの若かった頃は血縁者以外にも能力者が何人かいて、専門の特殊部隊まであったらしいんだぞ」
ちょっぴり誇らしげにマフィアな実家の内情を話す鳥谷先輩。
マジか。
イタリアのマフィアって異能の力を持ってるんだ……。
そういうものだったんだ!
どうやら不思議界隈と無縁だと思っていた彼女は最初からそっち側にどっぷり浸かった人間だったらしい。
「これ、絶対に秘密ってわけじゃないけどあんま人には言うなよ?」
鳥谷先輩は人差し指を唇に当て、ウィンクしながら悪戯っぽく笑った。
かわゆい。
でも、マフィアと無関係な俺がそんな内部情報を知ってしまってよかったのか。
業界では公然の秘密みたいなもんだから平気とか?
組織の機密保持を図ろうとする連中に狙われたりしないよね……?
「あ、ボスの家系ってことは、もしかして鳥谷先輩も何か力があるんです?」
彼女が不思議パワーを使っているところは今まで見たことがない。
ひょっとしたら俺にまだ見せていない未知の実力があるのでは?
ちょっとした興味本位で訊いてみる。
「わたしは……まだ何も目覚めてないんだ……」
鳥谷先輩はガックリうなだれて答えた。
オウ……。
なんか訊いちゃダメな質問だったのかも。
あれかな。
何かしら力を開花させないと一族として認められないとか。
そんな感じのやつだったりするのかな。
普段は明るく振る舞っている鳥谷先輩の笑顔の裏に秘められた葛藤が明らかに――
「ま、今時は能力なんかなくても構わないってみんな言うんだけどさ。やっぱり直系の後継者としてはあったほうが格好つくじゃん? 車のマニュアル免許みたいに?」
「…………」
そんな深刻じゃなかった。
というか、鳥谷先輩が後継者なんだ……。
馬飼学園卒業生の進路一覧にマフィアが追加されるのん?
「で、しんじょーは異能であの熊に何かやったのか?」
「まあ、ちょっとビリビリっとさせて意識を奪った感じですかね。雷的な力で」
鳥谷先輩も不思議パワーに精通しているのなら誤魔化さず話しても頭がおかしいヤツとは思われないはず。
俺はいたって正直に答えた。
魔法の概念を語るのは怠いのでそこら辺は簡略化したけど。
「へえ……しんじょーは強いだけじゃなくてじいちゃんたちみたいな力も使えるんだな! すごいぞ! 将来は絶対に立派なマフィアになれる!」
キラキラした瞳でやたらと褒めてくれる鳥谷先輩。
金髪美少女からの純粋な賞賛は気持ちがいい。
マフィアにはならないけどね。
「うむ、アレは発動までの予備動作も少なく無駄のない至高の一撃であった」
グラスが鳥谷先輩と合わせて高評価をしてくる。
「ただ、威力が弱かったのでトドメは我々が刺させてもらったがな。せっかくあやつを討つ好機だったので逃すことはできなったのだ。許してくれ」
「トドメって……」
あの積年の恨みを晴らすかのごとく丸太が降り注いだやつか。
あれはやり過ぎてて少し引いた。
「熊人族は身体のどこかにあるコアを破壊しなければどれほどの重傷を負ってもいずれ復活してしまうのだ。しかも復活した後はそれまでより力を増すという厄介な特性を持っている。したがって熊人族を倒すときは丸太で徹底的に全身を潰さなくてはならないのだ」
「ああ、だからあんなに容赦なく……」
別に個人の感情でオーバーキルしたわけじゃなくて理由があったのね。
てか、死にかけたところから復活して強くなるって戦闘民族みたいやな……。
「フッ……丸太は我々の秘術でな? メリタのシノビは丸太を錬成できるようになって初めて一人前と言われているのだ。一度に生み出せる丸太の量で階級も決まる。ちなみに我が一度に生み出せる丸太の量は歴代でも――」
…………。
丸太の話については聞き流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます