第25話『マッチポイント』
クイクイっと煽ってから数分が経過した。
「ああぁあぁあぁぁぁぁぁぁああああああぁあぁああああぁ――ッ!」
江入さんはもう澄ました表情を取り繕う余裕もないみたいだった。
形相を歪め、連続で俺に剣戟を食らわせていた。
刺したり斬りつけてきたり。
それらをものすごいペースで続けている。
しかし彼女の剣は通らない……。
ボゴンッボゴンッという、人体を金属で殴る生々しい音だけが鳴り響いている。
あ、ちなみに音はエグいけど全然痛くないです。
「これでもかっ!」
ガンッ!
鎖骨に容赦なく剣が上段から振り下ろされた。
でも、やっぱ微塵も痛くないっす。
俺の身体はオリハルコンより頑丈と評判だったからな。
記憶を取り戻す前ならガッツリ重傷でやばかっただろうけど。
…………。
というかさ……。
ふと思ったけど。
前世を思い出したから肉体の強度も上がるってどういう理屈だ?
今さらながらのセルフツッコミ。
普通に考えたらおかしいよね?
「うーん……」
まあ、どうでもいいかな。
そうなったもんはそういうもんだって受け入れていくのが人生を楽しく生きるコツだ。
俺はそういうポリシーで生きている。
いつの間にか江入さんの攻撃が止まっていた。
「あ、もう終わり?」
「くっ、剣が刺さらず、斬れもしないなら……」
息切れしているが、江入さんは諦めていないようだった。
エイリアンも息切れするんだね、ということは置いといて。
バックル部分の端末を再度入れ替え、江入さんは再び斧が武器の金色モードになった。
「『 アドベント = オーバークロック 』」
彼女が謎の呪文を唱えると、斧がガシャコンガシャコンと変形していく。
刃が縦と横にデカくなって、刃の反対側にブースターのようなものが展開された。
なあ? 拡張された部分、体積的におかしくないか?
アレらはどこに収納されていたんだろう。
物理法則無視かよ。
「があぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁああッ!」
江入さんの一撃が渾身のフルスイングで俺に打ち込まれる。
俺はそれを腹筋で受け止めて――
ドゴゥッ!
…………。
「さあマッチポイントだ」
ノーダメージであることを彼女に告げた。
「これでも駄目なのか……」
江入さんは武器を取り落としてガクリと膝を着く。
これですべて受けきったかな?
向こうの策は尽きたと判断していいだろう。
「次で終わりにするぞ」
マッチポイントって言ったしな。
まずは、あの邪魔な鎧を脱衣させよう。
この空間で暴れても部室が壊れることはないと江入さんは言っていた。
外に影響がないのなら遠慮なく強力な魔法を使わせて頂こう。
「ふんっ!」
俺は魔力で衝撃波っぽいものを放って江入さんの鎧を破壊した。
バラバラになった鎧は地面に落ちる前に粒子となって消える。
宇宙の科学ってすごいね。
どういう仕組みかは不明だが。
ゴミが残らないのは非常に素晴らしいことだ。
「うぐっ……」
びくんびくん。
全身に強い衝撃を受けた江入さんは痙攣しながら這いつくばっていた。
俺はそんな彼女にのっしのっしと近づいた。
江入さんの頭部を掴み、魔力を彼女の体内に巡らせる。
「ああ、これだな」
俺は気になっていたものを探り当てた。
「よし、いくぞ!」
「…………?」
江入さんの頭を撫でながら魔力を操作する。
「これで君は自由だ!」
バキィンッ!
大きな音が鳴った。
「う、うわわああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁっ――!」
苦痛に満ちた声を上げて頭を掻きむしる江入さん。
おかしいな……。
肉体的には何も損傷してないはずなのに痛がってる。
「これ、一体……何した……」
江入さんが俺を睨んでくる。
呼吸が荒くなって意識が朦朧としている模様。
マジでつらそう(小並感)。
「いや、なんか江入さんの身体に気持ち悪いものがあったから」
「あったから……?」
「壊しちゃった」
「…………!」
嫌な雰囲気のエネルギーを発してたり、こっちを見てる感じがして気色悪かったんだよ。
多分、あれって江入さんに対する首輪みたいなもんだったと思うんだけど。
「本星と交信ができない……まさか私のタグを……! なんてことをしてくれた……」
江入さん、めっちゃおこみたいです。
でも、苦情は一切受け付けません。
だって別に彼女を助けようとかそういう意図は一切ないし。
単純に江入さんをフリーな状態にしたらアレをつけたやつがめっちゃ驚くやろなぁって好奇心で実行しただけだから。
勇者の召喚魔法を解除してたのと同じノリですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます