第125話『現四天王と元四天王による一騎打ち』
「まあっ! 誰とは随分な物言いじゃない、鳥谷ケイティ? アタシよ、ア・タ・シ! 元四天王の雪之城よぉん?」
やっぱこいつが雪之城なのか……?
でも鳥谷先輩は覚えがないみたいだぞ……。
「自分が四天王から蹴り落とした先輩の顔を忘れるなんて酷い子ねっ!」
頬を膨らませてクネクネする紫髪。
いや、マジでどっちなのよ……。
「ホントに雪之城か? だって雪之城はそんな喋り方じゃなかっただろ? そういうヒラヒラした服だって着てなかったし、髪や唇の色だって……」
どうやら鳥谷先輩の知る雪之城はオネェ言葉の使い手ではなく、服装もヒラヒラしていなかったらしい。
諸々の色も違ったようだ。
「フフフ……これはね、強さを得るために支払った代価のせいでこうなったの。失ったもののせいで趣味嗜好がちょこーっと変わっちゃったのよん」
雪之城は若干しんみりとした口調でそう言った。
何を失ったらオネェになるというんだ……。
俺は意味がわからなくて困惑した。
「だけどね? 代価を支払ったことで今のアタシはアナタに地位を奪われた一年前とは別人のように強くなったの。ウフフフ……そうねぇ、今のアタシならあの月光雷鳳にだって勝てるわ!」
なんと! 月光に勝てるほどのパワーアップだと?
月光に勝てる見込みのある力をつけたとか、それが本当ならやばすぎんぞ。あいつ野生の獣をぶっ倒すんだぜ?
どうやってそんな急成長を遂げたんだ……?
月光クラスはちょっと強めの不良がたった一年修行したくらいでどうにかなる次元じゃないはず。
そういえばさっき代価を払ったとか言ってやがったが……。
もしや……。
うーむ、そこは憶測の範囲を超えないからまだなんとも言えんな。
「そんなことよりお前っ! 将棋ボクシング文系部の部室にひどいことしただろ! ああいうことはやめろ!」
鳥谷先輩が雪之城にストレートな抗議をする。
だが、
「アラアラ、なんのことぉ? とんと身に覚えがないわねぇ? あ、でもひょっとしたらアタシの手下がちょぉーっとアタシの意を汲んで勝手にイタズラしちゃったかもしれないけど。アタシは全然何も触ったりしてないから知ったこっちゃないわぁ」
雪之城は茶化した態度ですっとぼけた。
部室をめちゃくちゃにしておいて舐めてんのかコイツは。
「この野郎……! お前が指示してやらせたんだろ……! 絶対許さないからな! この場で叩きのめしてやる!」
鳥谷先輩が拳をパンっと叩いて鳴らして紫髪オネェに宣戦布告する。
「叩きのめす……? アハハハハ!」
雪之城はおかしくてたまらないといった様子で腹を抱えながら笑い出した。
「いいこと? 鳥谷ケイティ、アタシはアナタごときにはもう負けないの。アタシはこの新しく手に入れた力で馬飼学園を統一するのよ。その第一歩として、まずはかつてアタシに耐え難い屈辱を与えたアナタから潰してあげる。アナタに立場を奪われた一年前の恨み……今ココで徹底的に晴らしてあげるからァ!」
狂気を感じさせる歪んだ笑みで吠える雪之城。
紫の唇も相まってマッド感がやばい。
「はっ! そっちから仕掛けてきたから返り討ちにしただけなのに酷い逆恨みだな! いいさ、また……今度は二度とわたしに喧嘩を売る気にならないくらいボコボコにして反省させてやるっ!」
鳥谷先輩も気合い十分といったところか。
伸縮式トンファーをシャキンッと展開して戦闘態勢に入った。
「しんじょーはそこで見ていてくれ」
「え?」
鳥谷先輩から、まさかの待機命令。
せっかく俺も一緒にここまで来たのに。
「すべては去年、わたしが雪之城と揉めたことが発端だ。だから、ここは任せて貰えないか?」
鳥谷先輩は覚悟の決まった面持ちで俺を見据えてきた。
もしかして、鳥谷先輩は最初からこうする気だったのかな……。
俺の同行を認めたのは立会人をやらせるつもりってだけで。
「頼む、これはわたしの喧嘩なんだ。わたしなりのケジメとして、お前の力を借りずにカタをつけさせて欲しい」
真摯な意思を宿した瞳。
仕方ない……。
今回は彼女に任せて見物に徹するとしよう。
『いいえ、鳥谷先輩、俺たちの喧嘩です!』とか言いたかったけど。
どうにも出しゃばる局面じゃなさそうだ。
「ありがとな、しんじょー」
「あらあら、噂の新しい馬王ちゃんは戦わないの? アタシは別に二人がかりでも一向に構わないんだけど? やっぱり、本当は強くないのかしらね。ウフフ……鳥谷ケイティを潰したら、すぐにそのハリボテの馬王も剥ぎ取ってあげるから」
こいつやっぱり俺をハッタリでのし上がったと思ってんのね。
俺のクラスのやつらからの情報を鵜呑みにしてんだろうな。
あとは出美留学園と揉めたときに出回ってた話を真に受けてるのか……。
「雪之城、ベラベラとうるさいぞ。お前、喋り方とかは変わったけどそういう無駄にさえずる小物臭いところは変わってないんだな」
「なんですってぇ……?」
鳥谷先輩に煽られると雪之城は額に血管を浮かべた。
こうして、現四天王と元四天王による一騎打ちが始まったのである。
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