第126話『月光雷鳳にも勝てる力』




「ホラホラァ! 死になさぁい!」


 雪之城はキックパンチのラッシュで鳥谷先輩に猛攻を仕掛けていく。


 鳥谷先輩はそれを華麗な体捌きで避けていた。


 稀に雪之城の蹴りが身体に当たることもあったが、鳥谷先輩は上手く反応してガードし、さらに重心をずらすような動きで衝撃を受け流していた。


 彼女のああいう小柄な体格でも工夫して補う術はかなり卓越していると思う。

 鳥谷先輩も防戦一方ではない。

 隙を突いてトンファーによる一撃を入れようとしている。


 だが、雪之城がタイミングを合わせて巧みにトンファーをいなすのでなかなか当てることができていない。


 攻防を交互に繰り返す二人は自然と屋上の出入り口のドア付近にまで移動していく。


「死になさいって言ってるでしょぉ! ラアッ――!」


 雪之城の放ったパンチを鳥谷先輩が躱すと、彼の拳はそのまま鋼鉄製のドアに思い切り叩きつけられた。


 ボゴォ! と重い音が鳴る。

 見れば、屋上のドアが雪之城の拳の形に大きく歪んでいた。

 嘘だろ、金属の厚いドアを素手でへこませた……?


 どんな拳をしてやがるんだあいつは!


 いや、もっと硬い物質でも簡単に破壊できる俺が驚くのもあれですけど。


「へえ、昔と比べたら随分と逞しくなったじゃんか。一年間、震えて引きこもっていただけじゃないみたいだな?」


 驚異的な雪之城のパンチを目にしても鳥谷先輩は動じた様子もない。


 すげえ度胸だぜ。


「お黙りなさい! 上から目線で物を言うんじゃないわよ! アタシの力がまだ理解できていないようね!」


 鳥谷先輩の余裕が気に入らないのか、雪之城は目を吊り上げてそう言った。


 まあ、鳥谷先輩もあのパンチを見たら一発でも食らったらやばいことくらいは把握してるだろうけど……。


 雪之城は鳥谷先輩に負けたことで相当コンプレックスを拗らせてるみたいだな。


 いちいちカッカしているのがその証左だ。


「フフ……いいわ……なら、今のアタシとアナタの格の違いを教えてあげる……!」


 不気味な仄暗い笑みを浮かべた雪之城は頭の後ろで手を組み、ボディビルダーが腹筋を強調するときにやるようなポーズを取った。


「ほら、好きに殴っていいわよぉ? 十発くらいならサービスで受け止めてあげるから」


 なんと……!? まさかの総受け宣言である。

 回避せずにトンファーで殴らせるなんて正気とは思えん。


「はぁ? それはいくらなんでも余裕ぶっこきすぎだろ! 舐めてんのか!?」


 当然のことながら馬鹿にされたと憤慨する鳥谷先輩。

 しかし、雪之城は大真面目らしく、


「舐めてないわよぉ。だって、月光はあなたの攻撃を受けても平気だったんでしょう? だったら、アタシにだってやれないことはないのよ?」


 確か鳥谷先輩は月光とやったときにトンファーで殴ったが効かなかったと言っていた。


 雪之城はそれと同じことをやって自身の強さを見せつけようとしているようだ。


「ふんっ……そこまで言うならやってやんよ……けど、これで負けても恨むなよ? どりゃあああああ!」


 鳥谷先輩はトンファーをヒュンっと回転させ、雪之城の顔面に一発お見舞いした。

 だが――


「効いてない……?」


 驚愕に彩られる鳥谷先輩の表情。


 トンファーが顔にめり込んでいるにも関わらず、雪之城はまるで何てことないと言わんばかりに笑っていた。


「あははっ! だから言ったでしょう? アタシは月光雷鳳にも勝てる力を身につけたって。もはやアナタごときの非力な一撃が届くとは思わないでちょうだい?」


 雪之城もノーダメージ……。

 これはブラフではなく、本当に月光レベルの敵かもしれんぞ……。

 俺は鳥谷先輩に万が一がないよう、注意深く経過を見守ることにした。





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