第37話『シンシャってなに?』
「身だしなみの件についても答える。探査船には身体を最良の状態にケアするポッドがあり、衣類の清浄化を行なう機能も搭載されていた。けれど、今は探査船に入れないので身体と服は私が自分で部室のシャワー室を利用して洗っている」
なるほど、今までハイスペックな機械任せにしていたのを自分でやるようになったからダメダメな感じになってしまったのか。
髪はきっとドライヤーを使ってないし制服にはアイロンをかけていない。
これまではやり方を知る必要がなかったから、どうやればいいのかよくわからないのだろう。
「なあ、丸出さんも心配してるし何より部室で寝泊まりしてるのは見つかったらまずいと思うんだ。どうにかならないか?」
「しかし、わたしには他に行く場所がない」
「…………」
「ここに住むなというのなら、あなたに責任を取って欲しい」
セキニン! セキニンとってよ! そういうやつですか?
「大人しく宇宙に帰ればいいじゃん」
「だから、それができたら苦労はしないと言った」
そういや負けた後にそんなこと言ってたっけ。
「緊急事態なんだから、そこら辺は融通を効かせてもらえよ。船に乗れないから困ってます助けてって連絡すればいいじゃん」
「そもそも連絡すらできないのが現状。あなたがタグを壊したことで私は銀河惑星連盟大帝国との繋がりを一切失った。だから、帰還の許可を得ることも救援を呼ぶこともできない。タグがなければ探査船にも乗り込めないから自力での帰還も不可能。交信が途絶えたことに本星が気づけば追加の調査員を派遣してくる可能性もあるが、この星の優先度はさほど高くなかったのでいつになるかは不明」
「…………」
思いのほか、江入さんは異星で裸一貫のハードな遭難者になっていた。
まあ、命を狙ってきた上に侵略者だから因果応報ではあるんだけど。
「この状況を好ましく思わないのであれば責任を取ってどうにかして欲しい」
仕方がない。
俺は静かに了承した。
別に俺が何かしてやる義理はないんだけどさ。
江入さんの私生活が乱れて怪しまれている状況は割と厄介だから。
そのうち学校が問題視して彼女の身元周辺が曝かれることになったら、将棋ボクシング文芸部の平穏が乱されてしまう。
宇宙人パワーを使えない今の江入さんでは隠蔽工作も満足にできないだろうし。
俺は部の平和のために動くのだ。
「新庄君、どうだった?」
話が終わったことをスマホで伝えると、丸出さんと結城優紗が部室に戻ってきた。
酒井先輩はまだ戻ってこない。
まあ、そのうち帰ってくるだろう。
「うん、なんていうか……あんまり詳しくは言えないけど。話し合った結果、とりあえず江入さんの家を訪ねてみることにしたよ」
「江入さんの家に……? 新庄君だけで行くの?」
丸出さんは江入さんに心配そうな視線を送りながら言う。
「ほら、あんまり大っぴらにできないことみたいだからさ。大勢で行くのも憚られるっていうか。でも、解決できたかはちゃんと教えるから安心してほしい」
「そう……そういうことならお願いね? 江入さん、事情はわからないけどいい方向にいくよう祈ってるから」
「気遣いに深謝」
江入さんは淡々と答えた。
ふむ……。
シンシャってなに?
「じゃあ行くか」
「本気?」
「当然だ」
俺たちは学校を出て、江入さんの宇宙船のある場所に向かっていた。
なんで宇宙船に行くかって?
そりゃあれよ。
まずはホームレス女子高生を引退させないとってことになったのさ。
でも、タグとやらがなくて普通には入れないらしいから強引にこじ開けて占拠するつもり。
宇宙船には警備システムがあるので変にちょっかいを出すと迎撃されてしまうそうだが、異空間フィールドというあの場所で江入さんに勝てた俺なら簡単に制圧できるレベルらしい(江入さんは無力となっていたので何もできずにいた)。
ちなみに……。
カチコミのようなことをしようとしてるわけだし、結城優紗にも事実を話して助っ人として来てもらうべきかと考えたりもした。
けど、別に結城優紗がいたところでそんなに変わらなそうだからやめた。
一年生の中で丸出さんだけ真相を知らない仲間外れにしたくもないからね。
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