第93話『メリタに通じる入り口』
グラスたちの案内で森をさらにシュバシュバ移動して地下への門がある場所に到着する。
「ここがメリタに通じる入り口だ」
グラスに示されたのは何の変哲もない岩肌の斜面。
「ここが……?」
「えー? 何もなくないか?」
俺と鳥谷先輩は連れてこられてもピンとこない。
「このままでは入ることはできぬ。だからこれから我が入れるように開けてみせる」
グラスはちょっと誇らしげな表情をしていた。
『見よ我が国の技術を!』みたいな顔ですか? それは。
「この辺一帯には認識をボヤかす術がかけられてるわね。それだけじゃなくて特定の波形の魔力を注がないと開かないように設定されてる……」
結城優紗は何かを感じ取ったらしい。
眉根に皺を寄せて岩肌の一部分を凝視している。
忘れていたが彼女は魔力の探知や識別が得意という設定を持つんだっけ。
いや設定ってなんだ。
「ねえ、おかしいと思わない?」
結城優紗が俺に神妙な表情で訊いてきた。
何が? よくわからんので適当に返事をする。
「そうだな、おかしいくらいすごい技術だよな」
「は? 違うわよ!」
違ったらしい。
「だってあんた、魔力よ? 地球の古代といっていい時代に作られたモノに魔力が使われてるのよ? ここは異世界じゃないのに……」
「いや、魔力に近い力ってだけじゃない? 割とこういうのって互換性あるんだよ」
ソースは江入さんの宇宙船。
あれも微妙に違うものだったけどなぜか魔力で動かせたし。
「ええ……? そういうものなの?」
結城優紗から懐疑的な視線を向けられる。
そんな目で見られたって俺は自分の経験談を語っているだけだから知らん。
「ふむ、魔力というのは知らないが我々の間では道力と呼ぶ力で門の開け閉めは行なわれている。もちろん都市の防衛に関わる権限であるから全員の道力に反応するのではなく、キョクロン国で最上位だった家の血筋を引く者だけに限られるが」
そこんところで行くと、開けられるグラスさんはその血を引く者ってことなんすかね。
この人、忍者のなかで小隊長くらいの立場かと思ってたけど。
案外高貴な身分なのかもしれない。
「さあ、我らの仲間が中で待っている。開戦まで時間もないが紹介させてくれ」
グラスはそう言って岩肌に手を当て、魔力っぽいけどそこはかとなく違う感じのする力を注ぎ込んだ。
…………。
歪むように岩肌が渦巻き、半透明になりながら揺らいでいく。
ぐわんぐわんって感じ。
斜面の揺らぎが収まった後、岩肌には大きな裂け目が生まれていた。
見た目は自然の中にある巨大な門といったところか。
足を踏み入れると、その先には想像よりも遥かに大きな空間が広がっていた。
広いホールのようなスペースはひんやりと冷たく若干湿気っている。
まあ、洞窟の気候ってこんなもんだよなと思いつつ。
そこで待ち受けていたのは――
「おお、よくぞ参られた!」
「あれが紅鎧に重傷を負わせて撃退した地上の戦士か……」
「禍々しい覇気を放っておるぞ! あの者がいるなら!」
顔をすっぽり隠した忍者ファッションの集団であった。
うじゃうじゃと頭巾を被った顔の見えない連中が薄暗い空間にひしめいている……。
正直、異様な光景なので少し帰りたくなった。
「皆の者! この者が紅鎧を撃退し、あの怪我を負わせたレオ殿とその仲間の者たちだ!」
「「「おおおー!」」」
などと、グラスによって忍者軍団に紹介されたりしながらしばらく。
「きます! 紅鎧一派が姿を見せました!」
前方で斥候の役割をやっていた忍者がシュバシュバと走って報告にやってきた。
ホールの奥にある地下都市に通じる道はなだらかな坂となっており、薄暗い道は謎の光を放つ石でほのかに照らされている。
心の準備をして、しばらく注視していると、やがて巨大な熊の軍勢がのっしのっしと坂道を登ってくるのが見えた。
よく見ると熊だけじゃないな……。
巨大な白いイタチみたいなのも混じっている。
割と種族の混成した部隊なのか。
グラス曰く、紅鎧軍の戦士は総勢で1000人ほどらしい。
「なあ、あの周囲と縮尺を間違えてるデカい熊が紅鎧か?」
軍勢の中心で大きな存在感を放っている、一際ビッグサイズな赤いタテガミの熊を指差して俺はグラスに訊いた。
「うむ、そうだ。以前は熊人族なかでも大柄という程度だったのだが、今では常識を逸脱した巨体に成長してしまった」
グラスは表情を強張らせて言う。
あれ、体長70メートルはあんじゃねーの?
70メートルって秋田県で目撃された熊かよ。
紅鎧の付近を固める三匹の熊も体長6~8メートルくらいで地上の一般的な熊と比べたら十分規格外のデカさなのだが、紅鎧はそいつらが小熊に見えるバグを引き起こしている。ちなみに一兵卒と思しきその他の熊たちは大体4~5メートルほど。
前に会ったときは全長10メートルくらいだったはずだから、その時点で大柄だったのなら七倍になった今は確かに常軌を逸したサイズと言える。
「察しているかもしれぬが、紅鎧の周囲にいる大柄の熊人族三人が残りの四天王だ。名前は
グラスから数秒後には忘れていそうな四天王たちの名を教えられた。
さて、ゾロゾロいやがるが……。
ザコまで全部丁寧に相手をしてやるほど俺も暇じゃない。
熊人族は結構頑丈なんだよな?
だったらそこそこ強めでいいか。
俺は雷魔法を紅鎧一派の群れに放った。
バチバチバチッ。
断末魔も聞こえぬほどの瞬殺。
辛うじて『ヒュッ』と喉を鳴らすやつはいくらかいたっぽいが。
バタバタバタッ。
開戦の狼煙を上げる間もなく紅鎧と四天王以外のやつらは地面に伏した。
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