第113話『戦闘民族アルティメットガードちゃんねる』
◇◇◇◇◇
早いもので一ヶ月と十日ほどに及ぶ夏休みも残すところあと一週間程度となった。
宿題もしっかり完遂し、あとはゆったり二学期を待つのみである。
合宿もやったし、そこそこ遊びに出かけたりしたし。
パリピな人々ほどではないが、そこそこ青春ポイント高めの夏を俺は過ごせたのではないか?
まあ、地上の王になろうとしていた熊や戦闘民族な怪人の王とのバトルといった青春とはかけ離れた出来事もあったけど……。
「あっ、江入さんのチャンネルまた登録者増えてる」
俺はリビングのソファで寝そべりながら、なんとなくスマホをいじって江入さんのページを確認。
彼女のYouTubeチャンネルはいつの間にか登録者数一万人の大台に乗っていた。
メインのコンテンツは相変わらず配信だが、最近バズっているのは料理をしながらテロップで身の上話をしていく動画らしい。
タイトルはこんな感じ。
『地球を侵略するのに邪魔な同級生を消そうとしたら返り討ちにあいました』
『同級生に故郷の星と連絡するための手段を奪われました』
『宇宙船に入れなくなったので学校で暮らさなくてはいけなくなりました』
『同級生に宇宙船を破壊されて家をなくしました』
…………。
タイトルで言われている同級生とは言うまでもなく俺のこと。
動画内では俺にされた仕打ちを被害者ぶった視点で語り、いかに地球での生活が大変なものになったかを悲しげなBGMに合わせて懇々と説明している。
こんな作ってる料理が不味くなりそうな動画が何万も再生されてんのかよ……と突っ込むのは野暮なのだろう。
需要があるから伸びてるんだろうし。
コメント欄を見れば『そいつ最低やな』『まじでクズ野郎じゃん』『イライラする男ですね』と俺を罵倒し江入さんを擁護するファンの感想が大量に書かれていた。
おい……。
俺は命を狙われた側で地球の侵略者を撃退したんだぞ?
見方によればこの星を救った英雄と言ってもいい。
なのにこいつらは……!
江入さんがうら若き少女だからそういうこと言ってるけど、彼女がハゲでデブのおっさんだったら『ざまぁw』とか『もっと徹底的にやられればよかったのに!』とか『それくらいで済ませたのは甘ちゃんすぎ』ってコメントしてたんだろ?
そうゆう、性別や年齢で判定を甘くするのはいかがなものかなとぼくおもうの。
とはいえ、目の前にいないネット民に憤ってもどうしようもない。
不服な気持ちはあるものの、俺は『妄想乙』『電波設定やばw』『どこで台本書いてもらったんですか?』というアンチコメントにグッドボタンを押すことで溜飲を下げた。
◇◇◇◇◇
次の日。
「江入さん、何見てるの?」
俺は江入さんの部屋に置かれたソファの上で寛ぎ、彼女が熱心に見つめているパソコン画面について訊ねた。
江入さんの部屋のソファってなんかフカフカで寝心地いいんだよね……。
「最近伸びてきたYouTuberのショート動画を見ている」
「ふーん?」
俺は起き上がって彼女が開いているディスプレイを覗き込む。
ふむふむ。
動画のタイトルは……。
『いろいろなものを腹に落としてアルティメットガードしてみた!』か。
アルティメットガード?
なんか聞き覚えが……。
「あ、こいつ!」
俺は画面に映っている優男の容姿に目を剥く。
そこには先日拳を交えた古代の戦闘民族の王がいた。
戦闘民族リヴァアス族の王、キング・トールは床に寝転んだ体勢からカメラ目線で手を振って、にこやかに微笑んでいる。
彼の傍らでは厳めしい顔をしたカブトムシ怪人に変身するカンフー服のおじさんがバレーボールを持って立っていた。
何するんだ……?
俺がゴクリと唾を飲み込んで動画の展開を見ていると……。
カブトおじさんは手に持っていたバレーボールを離してトールの腹の上に落下させた。
その次はバスケットボール。
その次はボウリング球。
さらには砲丸と――
YouTuberにありがちな細かいカット編集で重さのあるものを次々とトールの腹部に落下させていく。
落とされた物体はもれなくトールの不可視の盾によって防がれ、彼にダメージを与えることなく地面に転がる。
盾の存在を知らない人たちからすれば単に腹で受け止めて弾き返したように見えるかもしれない。
『アルティメットガード! ふっきんさいきょう!』
そんな字幕が動画に表示されているものの、ネタを知っている立場からすると噴飯物である。
すべてを受け止めきった後、トールが寝そべったまま笑顔でサムズアップして動画は終了した。
…………。
なんだこれ。もしかしてあいつの見つけた楽しみってこれなの?
「江入さん、こいつらは?」
「一週間くらい前から活動を始めた『戦闘民族アルティメットガードちゃんねる』というグループ。不思議な手品で一気にバズって人気が急上昇中。彼らはティックトックでも数字を伸ばしてきているから侮れない。きっといずれ銀の盾を手に入れるだろうから研究のために見ている」
銀の盾とは登録者数が十万人を越えたチャンネルに運営から送られる記念品だ。
江入さんも狙っていると以前話していた。
「負けられない……」
…………。
登録者数に対抗心を燃やす宇宙人少女にかける言葉が思い浮かばなかった俺はそっと彼女の部屋を出た。
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