第106話『怪人』
風魔先輩と魔法少女コスの少女。
相対する棒を持った少女たち。
緊迫した雰囲気だ。
女子同士の真剣ファイトが始まろうとしている――
そんな場面に突如男らの声が挟まった。
「あー油断したぜ」
「うっかり気を失っちまった」
「この時代の無毛の猿人族を舐めすぎてたわぁ」
コス少女の成敗によって地面と仲良しになっていたヤンキー三人がむくりむくりと起き上がっていた。
「えっ……なんで……?」
地面に転がっていたヤンキーどもの復活にコス少女は驚きの声を上げた。
俺も驚いた。風魔先輩も驚いている。
あれだけ酷く殴られて起きられるのかよ……というのもある。
だが、それ以上に衝撃を受けたのは連中の顔。
コス少女によって金属の棒でボコボコにされたやつらの顔面が無傷だったのだ。
何事もなかったかのような綺麗な顔。
まるで時間が巻き戻ったみたいだった。
「くっ! どんなトリックを使ったのか知らないけど!」
コス少女は起き上がったヤンキーたちに問答無用で再び殴りかかった。
おいおい、彼らに喧嘩を続ける意思があるのかも確認せず吹っ掛けるのかよ。
ファンキーすぎるぜぇ。
そして、もう一度ゴンッと嫌な低音が響いた。
「……嘘でしょ?」
「ハッ、そんなただの棒、ちゃんと骨の硬いところで受け止めりゃ大したことねーんだよ」
先程と同じように鋭い振りで容赦なく顔面を狙ったコス少女だったが、その一撃は前回とは違いまったく彼らに効いていなかった。
いや、血がタラリと流れてはいるので表面を切るくらいには外傷を負わせている。
だが、意識を奪うほどではない。
その浅い傷跡も数秒であっという間に塞がっていった。
「クククッ……」
不可解に笑う、赤色髪のヤンキー。
「ど、どうなっているの?」
未知なる現象に戸惑いの声を上げるコス少女。
「女ぁ! ちょっとだけオイタがすぎたぜ!」
赤色髪ヤンキーの皮膚がグネグネウニウニと波打ち始め、ウンコいr……黄がかった土の色に変色を始めた。
頭部の形状も変化していき、蜘蛛を彷彿とさせる複眼の顔面となる。
赤色髪のヤンキーは頭身やサイズは人型のままの化け物――言うなれば怪人に変身した。
他の二人も身体をブルブルッとさせた後でその姿を変えていく。
一人は腕が翼となり、尖った大きな耳と牙から察するにコウモリ。
もう一人は面長な顔と二本のぴょこんと生えた触覚の感じからして、バッタモチーフだと思われる容姿に変貌を遂げた。
やべえぞ。
街のヤンキーが怪人になってしまった!
もとから怪人だったのか、怪人に生まれ変わってしまったのかはわからない。
だが、とにかくなんか人外のやばいやつらと遭遇してしまったのは確かだ。
「この姿で現代人をあんま襲うなって言われてんだけどよ」
「ここまでコケにされたらなぁ?」
「一族の沽券にかかわるってモンよ」
凶悪な姿になった三人はのっしのっしと歩んで詰め寄ってくる。
「そう……ならば……危険なので使わないでおくべきだと思っていた『あの力』を解禁するしかないですね」
コス少女は不穏な雰囲気を醸しだし、全身からピリッとした波動を放ち出す。
この感じは……まさか魔力か!?
「これが山の神から授かったわたしの本当の力です! ハアッ!」
コス少女は気合いのこもった掛け声と同時に棒をレイピアのように突き出す。
「だから効かねえって言ってんだロ!」
蜘蛛男と化したヤンキーはコス少女の突き出した棒をガシッと掴む。
「ふっ……触りましたね?」
不敵に笑うコスプレ魔法少女。
すると、
「なっ? こりゃどういうことだ……!」
棒に触れた手の部分から蜘蛛男の全身がパキパキと氷で包まれていく。
「うわあああああああ――ッ」
みるみるうちに氷付けになる蜘蛛男。
お、おわぁ……。
住宅街に等身大の蜘蛛怪人が入ったおもちゃ氷みたいな氷像が完成してしまった。
「聖なる氷結能力……山の神とお揃いの力です、フッ!」
「馬鹿め! 隙だらけだ!」
コス少女が余韻に浸っているところを狙い、コウモリ男と化したヤンキーが不意打ちを食らわせようとする。
だが、
「相手が人間でないのなら、私も真の力で戦うことが出来る」
いつの間にか風魔先輩がコス少女の付近にまで移動していた。
竹刀袋から取り出した木刀を日本刀に変形させ、風魔先輩はコウモリ男に斬撃をスパパッと浴びせる。
「か、回復がおいつかねえ……なんだその刀は……」
斬りつけられ、地面に倒れ伏すコウモリ男は息も絶え絶えに呟く。
「これは退歎刀、魔の者を狩る我ら対魔人の武器だ。ふむ、だが……貴様らは魔の者とは違うな? なぜ退歎刀に対する抵抗性が低い?」
「そんなの……知るかよ……!」
苦々しげに呻いてコウモリ男は意識を失った。
あっけねえー。
風魔先輩ってちょっとした怪人なら瞬殺できるくらい強かったんだな。
うん……ちょっとした怪人ってなんだろ。
頭がおかしくなりそうだわ。
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