第109話『アルティメットガード』
さてと。
俺は自分が担当することになった胡散臭いスマイル男と向き合う。
「さっき言われてたけど君も王なんだね? 面白いよ。同じ王なら少しはボクに愉快な刺激をくれるのかな?」
こいつ、さっきからなんでも楽しんでるな。
「刺激ねえ……。ところでお前はどれくらい頑丈だ?」
俺は指をワキワキと動かしながらキングに問う。
「さあ? ボクは傷つけられたことがないから」
「そうか……よっ!」
俺は手に持っていた氷の槍を投げつけ、そのまま走ってキングの懐に潜り込む。
投げた氷の槍はキングに掴まれてあっさり砕かれた。
「おらあ!」
俺は全力パンチをやつの顔面に叩き込んだ。
……が、その拳はやつには届かなかった。
なんだこれ……見えない壁みたいなもんがあるぞ?
「フフッ。わかるかい? これは『アルティメットガード』……。いかなる攻撃もその身に寄せ付けない最強の盾だよ。君はこの王の力を破ることが出来るかい?」
挑発するように笑うキング。
そんなに破って欲しいのならやってやるよ。
「くっ……」
だが、それからしばらく殴りつけてみたものの――
俺の拳はヤツの盾によって防がれてしまっていた。
どれだけスピーディーに仕掛けてみようが、あらゆる角度から攻めてみようが、同じように盾は発動されてしまう。
どうやら全方位に常時展開しているか、攻撃される位置を瞬時に察知して自動で守る仕組みになっているらしい。
「うーん? 無理そうかな?」
キングがつまらなそうに言うので、
「わかったよ、今本気を出してやるからちょっと待て」
俺は腕力を七割減するブレスレットを外すことにした。
こんな短いスパンでまた外すとは思わなかったけど。
「光栄に思っておけよ。現世で俺のフルパワーを体感するのはお前で二人目だ」
「へえ、一人目はどうなったんだい?」
キングは一転して興味津々に訊いてくる。
「消えたよ。跡形もなくな。だからお前も覚悟しな?」
「ああ、すごくワクワクさ」
無防備に避けようともしない優男の顔面に俺は全力の拳を叩き込んでやった。
拳が衝突した衝撃で凄まじい烈風が巻き起こる。
「おいおい、嘘だろ……」
俺は思わずそんな言葉を漏らした。
あの巨体になった紅鎧をも蒸発させた俺の一撃。
しっかりと腰を入れて踏ん張り、勢いを乗せたはずの拳。
なんの枷もない100パーセントのパンチ――
「なんだ、すこしピリッとした感覚があったけど平気だったね」
俺の想像ではキングも紅鎧と同じく跡形もなく消えているはずだった。
だが、目の前にいるキング・トールは無事だった。
俺の拳はヤツの盾とやらによって防がれていた。
ヤツは肩をすくめながら平然としていたのだ。
俺の全身全霊が初めて無傷で乗り切られた瞬間だった。
全力が通じない相手というのに俺は初めて出会い、ちょっとだけショックを受けていた。
そんな中、キングはお構いなしに自分の能力解説を始める。
「じゃあ、ボクからもいくよ? このアルティメットガードは外敵からの攻撃を防ぐときに発動するけど、ボク自身が他者と衝突したときにも使えるんだ」
拳を握りしめ、嬉しそうに俺に殴りかかってくる。
「だから、ボクの拳はこのアルティメットガードと同じ強度というわけさ」
ゴッ! という音でキングの拳は俺の顔面に叩き込まれた。
「おや……?」
「ハッ! 残念だけど、ぜんっぜん効かねえーんだわ!」
俺はキングの拳が顔面にめり込んだ状態でそう言った。
本当なら避けてもよかったんだけどね。
でも、『覚悟しておけ』とか自信満々に言ったのにちっともパンチが効かなくて俺はかなり恥ずかしかったからさ。
同じ恥をヤツにも味あわせたくてわざと正面から受け止めてやったのよ。ワンチャン、あいつのパンチが俺にダメージを与える可能性もあったが、幸いなことに猫が顔を踏んできたくらいの感覚でしかなかったので堂々と意趣返しをすることができた。
ふっ、ざまあねえぜ!
「へえ、これが効いてないのかぁ……。なら、ボクも本気でいかないと駄目みたいだね」
キングはそう言うと、自分を抱きしめるように両肩を触って俯き、それから大きく手を広げて仰け反った。
あれ? 羞恥心は……?
羞恥心感じてないの? 恥ずかしかったん俺だけ……?
「さあ、ここからが本当の勝負だよ。楽しんでいこうか……」
キングは頭部に王冠みたいな形状の金の角を生やしたクワガタっぽい怪人になった。
全体的には白のカラーリングだが、黄金のラインが鎧みたいにまとわりついていて、敵ながら神々しい姿と評することができる。
「それがお前の真の姿ってことか」
「真の姿とはちょっと違うかな。ボクらは日常をこの姿では送らないからね。こっちが特別な姿なんだと思うよ」
思うよって。
本人たちもイマイチよくわかってない変身なのかな。
「ねえ、殴り合おうよ。どっちが先に限界を迎えるか限界に挑戦しよう?」
「なんだその耐久戦は……」
キングから頭のおかしい提案をされた俺は口元を引きつらせる。
しかし、この住宅街で激しい魔法を使うわけにもいかないし肉弾戦で済むならそっちでもいいかもしれない。
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