第134話『すごい情熱だ』
「うぉおおおおっ! ハイッハイッ!」
「うぉおおおおっ! ハイッハイッ!」
俺の隣でペンライトを振って吠える月光と不動。
俺が呆気に取られて眺めていると、
「なんでやんねえんだ! やらなきゃ! ほら! ハイッハイッ! うぉおぉおおぉおおっ! 今、絶好のタイミングだっただろうが!」
月光による指導が早速入ったので俺も彼らに合わせて声を出してペンライトを振る。
ただ、周囲の人の迷惑にならないように身体の動きは最小限でとのこと。
なるほど……奥が深いぜ……!
ステージ上にいる宮廷岬の歌声はよく響いた。
際だって耳に届いてくるっていうのかな?
俺の聞く限り、彼女の歌唱力は他のメンバーとは隔絶した高い領域にある気がした。
ダンスのキレもステージで誰よりも抜きん出ているように見える。
会場で輝くペンライトの色も一番人気というだけあって彼女のカラーの青が一番多い。
アイドルのことをほとんどわからない俺にも『なんかあいつすごい』と思わせる圧倒的な存在感。
恐らく、宮廷岬は俺の想像以上に超一流のスターなのだろう……。
スポットライトに照らされたステージ上で誰よりも視線を集めている彼女は登山杖で不良をぶちのめすことが正義だと抜かしていたエセ魔法少女と同一人物には到底思えない。
歌唱とダンスで会場を魅了し続けている宮廷岬はさらに連続バク宙からのバク宙二回捻りという派手なパフォーマンスで観客を沸かせた。
おいおい、シルクドソレイ○か……?
アイドルって歌いながらあんな体操選手顔負けの動きをやるものなんだ……と俺が認識をアップデートしていたら、
「すげえだろ? 岬ちゃんの休養明けからやるようになったアクロバット。元から歌唱力やダンスのキレはアイドル随一と言われてたのにさ。あんなパフォーマンスまで身につけたらもうメジャーリーグ行けってレベルだよな」
「ファンの間じゃ病気っていうのは表向きの休養理由で本当はパフォーマンスを磨くための修行に出ていたんじゃないかって噂もあるくらいですよ。あそこまで高く跳ねてバク宙捻りができる女性アイドルは見たことがありません」
…………。
どうやらアイドルならあれくらいやれるというわけではないらしい。
そして休養前はやっていなかったことらしい。
もしや、俺が与えた『傷や万病を治し(以下略)』によって身体能力が上がったから可能になったヤツなのでは……。
副次的に手に入れた力をちゃっかり本職のステージに生かすとか抜け目ないわ。
「ま、いくら岬ちゃんがすごくなろうと、オレの推しは結愛ちゃんで変わらねえんだけどな」
「僕もですよ。それでも最強は恵さんです」
念押すように月光と不動から言われた。
知らんわい。
そんなこんなでライブは無事閉幕。
今まで知らなかった世界を堪能する時間は終了した。
興味がなかったアイドルのライブだが、参加してみると案外いいものであったな。
お財布との相談次第になるが、また来てみるのもいいかもしれない。
「いやぁ、今日のEAA9も最高だったな! しかし、最近の岬ちゃんを見てるとなんか無性に戦ってみたくなるんだよなぁ……。今の岬ちゃんは絶対強いと思うぜ。叶うなら手合わせをお願いしたいところだ」
月光はシュッシュッと虚空にパンチを繰り出しながら言う。
「ハハハ、何を言ってるんですか雷鳳。バク宙ができるようになっただけで腕っ節が強くなったとは限らないでしょう」
不動が一見正論のようなことを言っているが……。
実際、今の彼女は魔法も使えるし爆裂に上がった身体能力を生かすために近接格闘術を学んだから戦闘力は常人と比べてかなりある。
恐るべし月光の嗅覚というべきか……。
ステージのあったアリーナから移動しつつ、エントランス付近で感想を語らいながら打ち上げでもするかという会話の流れになっていたそんなとき。
俺のスマホがバイブで揺れてメッセージが届いたことを知らせてきた。
送信者は宮廷岬だった。
メッセージの内容は手間でないのならこの後楽屋に寄って相談に乗って貰えないかというものだった。
さらに『ライブ会場で親しく話されていた方々も、怜央様の事情を知っている配下の方々なら同伴で構いません』と記されている。
いや、待って?
配下とかもツッコミどころなんだが……。
それ以上になんで彼女は俺が月光や不動たちと話してたの知ってんだ……。
まさかステージから俺のいるスタンド席の様子を把握していたわけ?
歌ったり踊ったりバク宙しながら、あの距離で……?
まあ、深く考えないでおこう。
なんかこわいし。
ちなみに宮廷岬は俺を『神』と呼んでいたのだが、そんな呼ばれ方をされたら目立って困ると巧みに説得して改めさせ、今は名前に様付けで落ち着いている。
様も割とアレだが、神よりかはマシだ。
「おい、新庄、打ち上げの場所はデニーズでいいか?」
月光に声をかけられた俺はスマホに表示された文面と月光たちを交互に見やった。
「それなんだけど、なんかチケットくれた人が楽屋に来てくれって言ってきてさ。その人は俺の配下の人間なら一緒につれて来てもいいって言ってるんだけど、どうする?」
若干、伝えるべきかどうか迷いつつ。
俺は言葉にして彼らに話す。
ぶっちゃけこいつらは俺の事情を知っているわけではないが、川の向こう岸まで人間を吹っ飛ばす超常パワーを見られてるから似たようなもんだよな。
「何? 楽屋ってEAA9の楽屋か!?」
月光の目の色が変わった。
不動も声は発していないが、瞳に怪しげな強い力が灯ったような気がする。
「まあ、そのはずだが……」
「お前にチケットくれた人って……いや、今は詮索しないでおこう、それより――」
月光は俺の肩に手をポンと乗せる。
そして、
「オレは馬飼学園の四天王で、お前はその馬飼学園を統べる王。つまり、オレはお前の配下と言うことで差し支えないだろう」
親指を立ててニカッと恵比寿様みたいな笑顔で微笑んできた。
うわ、こいつのこんな溶けた表情初めて見るぞ……。
もしかしたら飼っている犬にはこういう顔で接してるのかもしれないけど。
「フッ……僕は雷鳳の派閥のメンバーですからね。その雷鳳が馬王の配下だというのなら僕も同じでしょう」
不動も眼鏡をクイッとさせて同意を示す。
「じゃあ、お前ら俺の配下ってことでいいの?」
俺が最終確認をすると、
「ああ、だから――」
月光と不動は、
「早く連れてけ」
「連れてって下さい」
食い気味に詰め寄ってきた。すごい情熱だ。
前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい 遠野蜜柑 @th_orange
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