第5話『おお、この魔法は使える!』




 …………。


 ………………。



 ちゅーわけで、大体試しました! かったるいので過程はカットです。

 いちいち『おお、この魔法は使える!』ってリアクションするの面倒だし。

 無言でサクサク終えましたよ。


 まあ、やってみた限りだと全盛期の魔王だった頃の俺とほぼ同じスペックっぽいよ。

 魔法は豊富なバリエーションで使えるし、魔力量も無限に近い隙のなさ。

 今の俺、これから世界中の国家を敵に回しても一人で滅ぼせるくらいに強いと思います。


 ヒャッハァ! クッソテンション上がって……。

 こないね……。

 なんでって?


 だって、現代社会でこんなパワーあっても持て余すだけでしょ?

 転移は便利だし、運動神経よくなったのはモテモテになれそうだからいいけど。

 でも、停学になったときみたいに強すぎてやらかして損する可能性のほうが高いんだぜ?


 全力を出さないように加減して生きていかなきゃならんのだぜ?

 最強になれたら怖いものなし? なんでも好き放題できる? 気に入らないやつをボコボコにしてやればいい?


 いや、俺、別に喧嘩とか好きじゃないし。


 キレたナイフでもなければ世界征服とかも目指してないから……。


 前世だって魔族で最強だったから義務的に魔王を引き受けただけで、そんな残忍な性格じゃなかったからね。


 異世界で恐れられてたのは事実だけど、それも魔族の土地を奪いに攻めてくる人間を追い返してたら負け続けた人間が負け惜しみで俺のことを邪悪な存在とか言い出して、それが人間の国で子孫に代々伝えられて数百年の間に歪んでいって。


 いつの間にか人間の国では卑劣な魔王を倒すために戦いが始まったことになっていたからそうなってただけ。


 思い返せば、人間側が悪を討つための正義路線で勇者を擁立して攻めて来るようになってからホントめんどくさかったな……。


 勇者に選ばれたやつは自分が正義だと吹き込まれてるから、正しい発端を教えようとしてもちっとも聞く耳持たなくてさ。


 特に違う世界から召喚された勇者は正義マンというか、自分に酔ってる連中ばっかで一層厄介だった。


 そういや違う世界から召喚された勇者は基本的に返り討ちにした後で元の世界に送り返してたんだけど、あいつらって多分日本人だったから、ひょっとしたらこっちの世界で再会したりするかもしれないね。


 向こうは俺だって気づかないと思うけど。





 俺は次元魔法を発動し、アイテムボックスを探った。


 驚いたことに次元魔法を使ってみると、前世でアイテムを適当に突っ込んでいたアイテムボックスと繋がったのだ。


 転生したのにリセットされてないってことは、次元魔法のアイテムボックスは魂とか記憶に依存するのかなぁ……と、魔法のロジックっぽいことを少々考えてみた。


 が、頭が痛くなりそうだったのですぐやめた。


 俺は感覚派なのだ。


「普段はこいつを着けておけば大丈夫かな?」


 アイテムボックスから、とあるブレスレットを取り出して手首に装着した。

 このブレスレットは腕力を七割ほど下げる呪いのアイテム。

 だが、魔力や身体硬度には影響を及ぼさない。


 都会は車が多くて怖いからな。

 いつトラックやプリ○スが突っ込んでくるかわからない。

 身体の頑丈さはキープしておきたい俺にうってつけのアイテムだ。


 ところで他にもたくさんアイテムがあるんだけど――

 これはどうするかな……。

 かつて無敵の魔王として君臨してた頃のコレクションだからさ。


 伝説級のなんちゃらがいっぱいあるんですよ。

 このアイテムたちって、こっちの世界の人間にも効果あるのかね?

 気になるから試してみたいが、遠慮なく実験できる相手がいない。


 どこかに後腐れなく効果を検証できる人間が転がっていないものだろうか?



 バキバキ……ミシミシ……。



 俺が科学の発展に犠牲はツキモノデースをしたい気分でいると、木が折れたり倒れたりする音が響いてきた。



「た、たすけてぇ!」



 河原と隣接する山林から、パーカーのフードを目深にかぶった人間と……それを追いかける赤いタテガミの熊さんが姿を現した。




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