第72話 実家

「おじゃましまーす」


「おじゃましまーす」


「こらっ。颯汰はただいまでしょう」


 駅から車で20分。実家に帰ってきた。団地の一角にある一軒家の我が家はそこまで大きくはなく、普通といったところ。


 リビングに行ってみると俺がいた頃と全く変わってない内装。ほのかに芳香剤の匂いがして懐かしい。そして変わってないことに安心感があった。


「颯汰。美吹ちゃんを部屋に案内してあげなさい」


 もう美吹呼び。俺はかなり時間かかって今ですらたまにドキドキするというのに、やはり母は強いとはこのことか? 


 いや、今それは関係ない。美吹を部屋に案内しないと。確か2階の俺の部屋の横が空き部屋だったよな。


「美吹、こっちだよ」


「うん」


 荷物片手に階段を登っていく。そして美吹がこれから泊まることになる部屋のドアノブを回した。


「え?」


 そこは全く片付けられておらず、俺がいた頃と同じように物置部屋と化していた。これはどういうことだ? ここに美吹泊めるんじゃなかったのか?


「あはは。ちょっと待ってね」


 これは母さんに確認しないといけない。美吹も泊まるからって言ったら部屋片付けておくって言ってたのに! 


 俺の荷物だけでも自分の部屋に置いておこうと思って隣のドアノブを開ける。するとそこには完璧に掃除された部屋があった。


 俺が使っていた時以上の綺麗さだ。俺のベッド、棚一列分のラノベ。勉強机の配置とか全く変わってない。


 ただ見慣れないものが一つだけ。何故か布団がベッドに敷かれたものとは別に1組ある。これはまさか?


 流石にそんなことしないだろうと思いながらもダッシュでリビングにいる母さんに確認する。


「母さん! 美吹の部屋が片付けられてないんだけど! それに俺の部屋に布団があるしどうしたら良いの?」


 人に掃除などをさせておいてなんて言い草だと思うけれど、これだけはハッキリ聞いておきたかった。


 わざと一緒の部屋に置いていたのなら家族会議ものだ。


「お母さん、颯汰の部屋掃除するだけで疲れちゃったのよ。それにこれは一緒の部屋で寝ても良いって母さんたちからのプレゼント。颯汰の誕生日10月だけど、こっちにいないから早めにね」


 俺の母さんはこんな人だったっけ? 息子に彼女が出来ると世のお母さんはここまで変わってしまうのか?


 テーブルの方にいた父さんに視線を向けるがグッとサムズアップするだけだった。父さんまで何を考えてんだ!


「半分冗談よ。美吹ちゃんがちゃんと一人で寝たいって言うのなら急いで片付けるわ。颯汰はちゃんと美吹ちゃんに聞いて来なさいね」


 そういうわけでまた階段を登って美吹の元へ。事情を説明する。本当、親が変なことしたせいで美吹にまで迷惑をかけてしまっている。 


「なるほど。事情は理解したよ」


「ごめんな。親が要らんことするから。じゃあ俺の隣の部屋片付けるの手伝ってもらおうか。ちょっと呼んでくる」


 母さんたちを呼ぶために一階降りようとしたところで手首を美吹に握られる。そして何故か顔が赤くなっている。まさか、慣れない環境で熱が!?


「どうしたら美吹! 体調が悪いなら近くの病院にでも」


「違うの。ただせっかくお義母さんが機会をくれたんだから、一緒の部屋が良いなって」


 そう言われたら俺はもう断れない。最近気づいたことだが、美吹はこうなると絶対に引かないのだ。今から1週間、同じ部屋。同棲では? なんて思ってしまう。


「これからよろしくね」


「う。うん」


 嬉しそうに言う美吹に対してちょっぴりの期待と不安を混ぜたような返事をした。

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