第71話 帰省

「ふんふふーん。颯汰くんの実家にー行けるー」


 新幹線のぞみ号。2人掛けのシートに俺と美吹は並んで座っていた。足元には二つのキャリーバッグ。


 そう。これから2人で俺の実家に行くのだ。母さんには彼女がいる、泊まりに来たいということだけ伝えてある。美吹の両親のことは秘密にしておいて欲しいとのことだった。


 ちなみに電話で伝えたのだけど、あんなにはしゃぐ母さん初めてだった。いつもテンション高めなのに、それすらを超えるなんてどれだけびっくりしているんだ。


「でも良かったよ。急なお願いだったのに。颯汰くんのご両親には感謝だね」


「そこら辺、うちは雑だから。空いてる部屋も確かあったはずだし」


「やっぱり緊張するよぉ。ちゃんとご両親にもアピールしてスムーズに結婚までいけるように頑張らないと……」


「話が飛躍しすぎてない?」


 拳をグッと握って気合を入れるところ悪いが、今回は結婚どうこうで実家に行くわけではない。単純に親に久しぶりに顔を見せるという目的もあるが、1番の目的は美吹に愛情を感じてもらうこと。


 そうこうしていると新幹線はそろそろ目的の駅に到着するらしい。久しぶりに聞く地元の地名。なんだか帰ってきた感が急に出てきた。


 そして新幹線から降り、改札を出ると地元をこれでかとアピールするデカデカとした看板が目に入る。地元の空気も感じる。いや……感じれなかった。空気は分からん。


「ここが颯汰くんの生まれ育った場所なんだ」


「確かにそうだけど、その言い方恥ずかしい。あっ、母さんたちだ」


 数十メートル離れたところから小さく手を振る二人組の夫婦。間違いなく俺の両親だ。


「久しぶり颯汰。元気にしてた? 顔色、良くなってない?」


「はっはっは。そりゃあ彼女さんが出来たからに決まってるよな」


 そこで2人の目線が俺から美吹に移る。


「は、はじめまして。春野美吹です。よろしくお願いします」


 一瞬美吹の体がビクッとしたがちゃんと挨拶出来ていた。


 挨拶をした瞬間、母さんが美吹に抱きついた。ちなみにここは人自体は少ないけれどまだ駅構内。


 美吹がパニックになっている。それもそうだろう。急にこんなことされたんだから。


「ちょっと母さん何してんだよ! 美吹がびっくりしてるだろ!?」


 流石にこれは俺も驚いた。父さんまでおろおろしだす始末。母さんの身体、まさか乗っ取られた?


 よしよしと頭を撫でまくる母さん。知らなかった。まだ娘欲しかったんだ。となると妹か。うん……悪くないな。


 まるで我が子のように抱きしめる母さん。そして戸惑いながらも少し、顔を綻ばせる美吹。


 なんか早速美吹を喜ばせることが出来てないか? これは幸先の良い感じになりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る